142.お部屋は全然違う景色だった
久しぶりにアスティの背中に乗って出かけられると思っていたら、ラーシュ達もいるから転移魔法陣で向かうと言われた。ちょっとがっかりする。だって、僕はアスティの銀色のドラゴン姿が好きなんだもん。きらきらした鱗が光を浴びて、すごく綺麗。そう褒めて残念と伝えたら、帰りは背中に乗せると約束してくれた。
「本当にいいの?」
「もちろんよ。カイの望みを私が断ることなんてないわ」
「世界も滅ぼしかねないぞ」
笑いながらラーシュが混ぜっ返し、怒ったアスティに炎で炙られた。結界の魔法陣があるし、ラーシュは魔族なのであまり心配しなかったけど、やっぱり無傷で。アスティが手加減したから、大丈夫だと思ってた。何だかんだ言っても、僕達の魔術の先生であるラーシュは強い。
アスティと手を繋ぎ、反対の手をラーシュと繋ぐ。ラーシュはイェルドに触れて、アスティの指先にイェルドが指を重ねた瞬間、ぶわっと魔力が満ちる。前回一度飛んだ部屋だから、座標はすぐに固定された。転移特有の浮遊感があって、落下する感覚に襲われる。何かに吸い込まれたみたい。
ぎゅっと目を閉じた。前に興味半分で目を開けていたら、すごく気持ち悪くなったの。ご飯も一回食べられなかった程だよ。目を閉じる約束を破ったことで、イェルドに叱られた。具合悪くて寝てる僕に、なぜダメかを説明してくれたけど。起き上がれない時点で、僕も理解したよ。
「もういいぞ」
ラーシュの声がかかって、ゆっくり目を開ける。あのお部屋だ。僕が閉じ込められていたお部屋は、全然景色が違った。家具は壊れてるし、シーツも破れていた。鋭い何かの爪痕があって、椅子や机もボロボロ……その壊れたベッドに、ピンク色が見えた。
「あの子だ」
「これは凄いな。暴れたのか」
イェルドがぼそぼそ話し、ぐるりと見回した。いつの間にか、僕とアスティ以外の手は離れてる。すたすた歩いたラーシュは、破れたシーツに埋もれた少女の頭を突いた。
起きないね。寝てるのかな? 首を傾げて呟いたら、アスティが「可愛すぎる」と僕を抱き締めた。うん、あの子普通にしてたら可愛いと思うよ。僕はアスティの方が綺麗で可愛くて好きだけどね。
「おい、起きろ」
少し乱暴に揺らすと、ようやく起き上がった。ラーシュに眉を顰め、それから僕を見つけて目を見開く。アスティに抱き締められた状態で「こんにちは」と挨拶をした。駆け寄ろうと立ち上がる彼女は、なぜかそのまま崩れるように座り込む。
「具合悪そう」
よく見たら髪や目の色も濁っていた。もっと明るい色だったよね。それに割れた食器みたいに、ヒビが一杯の肌は色も青い。唇なんて紫色で、具合が悪そうに見えた。
「アスティ」
「手出ししたらダメよ。約束ね」
釘を刺されて、僕は素直に頷いた。だってあの子がいくら心配でも、アスティより大事だと思えないから。僕にとって、すべてがアスティ優先なの。
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