141.都合の悪いことに目を瞑った
起きて、アスティとご飯を食べた。それから、お仕事に行く前のアスティに話す。難しいお話は、ご飯と一緒にしたらいけないの。ご飯を作ってくれた人、材料になった食べ物に感謝する時間だから。
「カイは優しいのね」
違うよ、汚くて狡いの。僕だけ幸せになるのが怖いのかも。変な顔をしたみたいで、アスティがぷすっと頬を突いた。
「皆と相談しましょう」
アスティと手を繋いで、お屋敷の中を移動する。歩いた先で、執務室のドアを潜った。今日の護衛はサフィーで、ドアの前で待ってるって。手を振って別れ、僕はアベルと同じ話をした。すぐにラーシュやイェルドも呼ばれ、ボリス師匠も顔を見せる。一緒にヒスイも来た。皆にアスティとアベルからお話してもらって、全員で「うーん」と知恵を絞る。
「前魔王の番か、その可能性は考えなかったな」
「それよりも、まだ二人が会話できるのは問題ないのか?」
ラーシュとイェルドが心配するけど、僕は安全だよと説明する。少し話を短くしながら、シグルドの会話を伝える。
「シドは、僕に体を貸しちゃダメって言ったの。悪い人じゃないよ」
「まあ、そう言われりゃ……なぁ。無理に消すと危ないし」
ラーシュがぐしゃりと黒髪を乱した。考え事したり、悩んでる時によくやる。ボリス師匠が眉を寄せながら、ぼそっと指摘した。
「というか、向こうはその……生きてるのか?」
「「……」」
それは誰も知らない。呪術を向けられたから弾き返したけど、もう返ってくる心配はないんだって。二度も行き先を変更出来ない。途中で壊れちゃうみたい。その場合は、最初に作った人に降りかかるんだ。
「あの子が無事なら、番は僕じゃなくてシドだって伝えたいの」
「……カイ様は決めると頑固ですから」
ヒスイが困ったような顔で、それでも笑う。見たらボリス師匠やアベルも同じ顔をしていた。僕だけ意味がわからなくて、きょろきょろしてしまう。えっと、どうするの?
「カイが望むなら、あの少女に会いに言って教えてあげるといいわ。もう番は死んでいて、その孫だから勘違いしたの、と」
似ているから、親族だから。そう理由をつけて、納得してもらう。アスティ達が出した案は、僕には素晴らしく思えた。だから浮かれて見落としたの。本当は気づいていたのに……忘れようとした。返された呪いが強かったら、あの子も無事じゃないってこと。
午後から出かけることになり、僕はそれまで仕事をするアスティのお膝で過ごした。ヒスイは今回お留守番、アベルやボリス師匠も残る。ラーシュ達は、準備があるから待っててくれと約束した。あの子、どうしてるだろう。
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