127.引っ越し前の大掃除だよ
いつもより遅くまで起きてたけど、気づいたアスティがドラゴンのお話をしてくれた。強いドラゴンが一人で頑張って生きて、最後に大好きな番を見つけて幸せになるお話だよ。最後まで聞きたかったのに、途中で寝てしまった。続きはまた今度教えてもらおう。
眠った分だけ元気になった僕は、ヒスイと布を絞る。びちゃびちゃしないのを確かめて、一緒に棚や机を拭いた。上だけじゃなく、下や裏側も拭くの。お掃除をしていた侍女の人を見て覚えたんだ。丁寧に拭いてから布を洗うと、黒く汚れる。
「こんなに汚れた」
「綺麗に見えても汚れていたんですね」
ヒスイもびっくりしたみたい。一緒に笑って、洗った布を絞った。お部屋を移動して、次のお部屋でも拭いていく。どのお部屋も汚れていて、皆が使う家具は倉庫にしまってあったと知った。倉庫は大きな大きな部屋で、物をたくさん積んでおく場所だよ。
お店の人が持ってた家具をいっぱい買ったの。お金がたくさん必要だったんじゃないかと心配したら、アスティはお金があるんだって! それも暗い地下のお部屋にいっぱいだった。洞窟じゃないのに驚いたけど、ここならお屋敷の下だからいつでも取り出せるね。
お屋敷の掃除が終わったら、今度はアベルのお家を拭く。こっちは毎日侍女の人が掃除してるから、全然黒くならなかった。貸してもらったお部屋の家具を、丁寧に拭く。侍女の人もシーツを交換したり、クッションを干したりと忙しく働いていた。
「二人とも、食事の時間だぞ」
呼びに来たラーシュと一緒に手を洗い、僕達は食堂に入った。大きな長い机があって、皆で食事が出来るようになってる。人族の偉い貴族は、自分達だけで食事をするんだよ。でもドラゴンは、仕事以外では同じなの。誰が偉いとかないから、一緒にご飯を食べる。
その方が親しくなれるし、たくさんの人と食べるのは楽しいよね。ヒスイやボリス、ラーシュも近くに座り、僕もアスティのお膝に座った。
「僕はいつになったら自分で座ってもいいの?」
「そうね……大人になったらよ」
「それはそれで離さないと思うけどな」
ぼそっとラーシュが付け加えたけど、睨んだアスティに肩を竦めて黙った。どういう意味かな。自分で座れるようになったら、お膝にアスティを乗せたい。それで僕があーんするの。わくわくしながら両手を振り回して説明したら、皆がきょとんとした。
「私を、乗せるの?」
「うん!」
ボリスが大きな声で笑って「立派な番に育ちそうだ」と手を叩く。すると、アスティが昨日のお話を始めた。
「そうね、ボリスも侍女を姫だっこしたんですって?」
「……どこでそれ、を」
「ふふっ、カイが教えてくれたわ」
むすっとしたボリスだけど、少し離れたところで食事をする侍女の一人が真っ赤になった。そっちでもお話が盛り上がったみたい。ボリスの頬も赤いから、お熱があったら大変だよ。アスティはすぐに治るから平気って、教えてくれた。
体を鍛えてると、お熱もすぐに下がるの? じゃあ、僕もちゃんと鍛えるね。約束して、ご飯をしっかり食べた。ボリスみたいに大きくなるには、食べ物をたくさん使うと思う。もぐもぐと噛んで食べたら、お腹がぱんぱんになって……午後のお仕事は苦しかった。
「カイ様、一気に食べてもダメです。動いてお腹を減らして消化するんですよ」
ヒスイは僕よりいろいろ知ってる。ボリスがたくさん動くのは、お腹が空くように? じゃあ、僕達もいっぱい動かなくちゃ! ヒスイと競争しながら家具を拭いて、アベルのお家を走り回った。すぐに苦しかったお腹も楽になって、お昼寝の時間も過ぎちゃったね。
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