128.私にだけ幼く振る舞う番――SIDE竜女王

 あの頃は本当に可愛かった。番として本能が求めた子だけれど、幼さが目立って。手が出せなくてもどかしかった。そんな話をすると、カイがくすくす笑いながら覆いかぶさる。


「僕はもう可愛くない?」


 本気で心配してないくせに。


「いいえ。幾つになっても可愛いわ。私の大切な番で、宝物よ」


 微笑み返して、背中に寄りかかるカイの腕を掴む。ぎゅっと胸元へ引き寄せた。


「良かった。アスティに嫌われたら、生きていけない」


 ちゅっと銀髪に口付ける。振り返って、唇を重ねた。


 かつては逆の位置で、私がカイを抱きしめた。いつの間にか手足が伸びて、背が高くなり、追い越されるのも時間の問題だろう。拾った頃はガリガリだった顔は、慈しんで丸くなり、今は精悍な雰囲気を漂わせている。


「愛してるわ、カイ」


「僕もアスティを愛してる」


 こんな風に愛を返してくれるようになった。拾ってから、ちょうど10年が経つ。あと数年でこの子は、身も心も正式な番として私のもの。


「アスティ」


 促す響きに目を伏せる。額、頬、唇、いつもと同じ順番でキスを受けた。呼吸が乱れるほど重ねた唇が痺れる。


「カイ、明日も訓練なの?」


「うん。ラーシュとイェルドが相手をしてくれるって」


 育っても話し方は同じ。少し大人びたように見えても、カイは私の前で幼く振る舞う。それが信頼の証だと嬉しくなった。初めて会う人には、年齢相応どころか大人びた対応をする。本当に同一人物かと疑うほどで、別人のようだった。


 二人きりになると、昔のような甘えた子どもに戻るカイが愛おしい。素のカイは幼いままで、愛情を求めて私に手を伸ばす。


 ここ数年で魔術の腕を上げたカイは、指導役だったラーシュを圧倒する。イェルドの協力を得て、魔力の制御を学んでいた。大きな魔法が使えるため、魔法勝負なら私が負ける。剣術や体術もボリスに認められるレベルになった。


 立派に育った番を誇らしく思う反面、ずっと守られる番でもよかったと思う。べったり頼って、私がいなければ何もできない。そんなカイでいて欲しいなんて……贅沢な悩みよね。


「ケガしないように気をつけてね」


「うん。僕はアスティのものだから、勝手に傷つけたりしない」


 にこにこと、当たり前のようにカイは自分を差し出す。竜族のように番に束縛されるのではなく、自分の意思で選んだと言い切った。後ろから抱き付くカイと一緒に、ベッドに寝転がる。


 結局、新しい屋敷を建ててからずっと……同じ部屋で寝起きした。これからも同じだろう。


「もう寝る?」


 ごろんと転がった腕の中で、向きを変えて抱き合う。以前は届かなった腕に包まれ、私は目を閉じた。頷かなくてもカイは理解してくれる。上掛けを魔法で引き上げて、カイは「おやすみ」と呟いた。


 おやすみなさい……そう返した声が夢だったのか、言葉にして伝えられたのか。判断できないほど、眠りは急速に訪れて深く沈んでいく。こんなに安心できる腕は、他にないわ。

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