119.いっぱい約束をした
木を見上げて動かないシグルドの手を引っ張る。前は真っ黒に見えた彼も、綺麗な黒髪の人になった。僕と同じ赤い瞳で、黒い髪。違うのは、僕よりずっと長い髪が腰まで届くことだった。
「シグルド、お座りしよう」
「ああ」
木の根本まで歩き、寄りかかって座る。シグルドは僕より手足が長くて、もう大人だった。ずっと、同じ年齢くらいだと思ってたの。アスティくらい背が高い。
「シグルドって大きいんだね」
「これでも昔は魔王だったし、強かったんだぞ」
「うん。信じる」
昔はアスティが勝ったけど、シグルドも強かったよ。だからアスティが心配するんだ。でもね、本当に強い人は弱い僕を倒すのに、騙したりはしないから。シグルドは今でも僕を乗っ取れると思う。なのにしないのは、僕とお友達になったから。
「信じる? 簡単に言うんだな」
「ううん、簡単じゃないよ。信じたら怖いもん。嘘をつかれたら胸が痛い。だから嘘をつかない人を選んで信じるの。シグルドを僕は信じてる」
吸い出された最後に、手を離したのは僕のためでしょう? あのままなら、僕が力尽きて外へ出たかも。守るために手を離して、自分が痛いのに我慢してくれた。信じるのに十分だよ。
手を動かして必死に説明したら、シグルドは顔を手で覆って「はぁ」と大きな息を吐いた。
「ほんと、お前は俺と真逆だ。俺も信じるか。お前が死ぬ日まで、温め続けてくれるんだろ?」
「うん。カイと呼んで。僕はシグルドとお友達だから、ずっと一緒だよ」
目を瞬いたシグルドは、不思議そうに呟いた。
「そういや、なんで俺の名を隠した」
「特別なお名前でしょう? だから普段はシド。でも今は二人だからシグルドって呼ばせてね」
にっこり笑ってお願いしてみる。シグルドは大きく見開いた目を細めて、泣きそうになった。
「そっか、特別……それでいい」
何だろう。鼻の奥がツンとして、僕も泣きそう。二人で目を擦って、お互いに見なかったフリをした。泣いてないからね! 僕は強い子になるんだもん。
「覚えておけ。俺の魔力は自由に使えるが、無理をすると体が痛くなる。その信号があれば、魔法を使うな。それから……俺に用がある時は、寝てから夢の中で呼べ。シグルドと呼んだら、必ず答えてやる」
「約束だね。僕、ちゃんと守るよ」
右手の指を差し出し、困惑した様子のシグルドの指と絡める。絶対に約束を破らないと誓う歌を歌った。少し寂しそうなシグルドを両手で抱き締める。
こうして抱っこされると、愛されてると感じるの。シグルドにも、同じに感じて欲しかった。
「シグルドは大事なお友達だから、絶対に消えたりしないでね」
「ああ、分かった。変な心配するな」
シグルドがおずおずと持ち上げた手で、僕の黒髪を撫でる。それから背中に腕を回した。短い腕で必死にしがみ付く僕だけど、シグルドは簡単に閉じ込める。いっぱい抱き締めてから、僕はもう一つ約束した。
「夢の中で、いつも出てきて。呼ばなくても、ケンカした次の日も会いたいの」
「ケンカしても? 俺は本当に酷い奴だから、会わない方がいいんじゃないか」
「僕の知るシグルドは酷くないから平気。約束だからね」
透き通っていく僕の腕、慌てて見つめる先で、シグルドも透明になった。また夢の中で、会おうね。約束を繰り返して、僕は目を覚ました。
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