120.シドのぬいぐるみは大事
「カイ、目が覚めたのね。気分はどう? どこか痛かったり苦しかったりしない?」
寝ていた僕を抱き起こすアスティの声に、大丈夫と返した。どこも痛くないよ。お爺ちゃん先生も、調べてくれた。
「あのね。僕とシドはたくさん約束をしたの。だから、シドは僕の中で眠るって」
温めて離さないと決めた。シドの分も長く生きて、アスティと幸せになるの。説明する僕の黒髪に頬を擦り寄せたアスティが「素敵ね」と笑ってくれた。
「おいおい、中で話がついたのか? それで譲渡が早かったんだな」
ラーシュが呆れたと肩をすくめる。普通はもっと長くかかるはずの術が、すぐに終わったんだって。僕が目を閉じてから起きるまで、1日掛からなかった。今はもう夕方みたい。
「シドのぬいぐるみは?」
「これよ」
羊皮紙は白紙になっていた。綺麗なたくさんの魔法陣の模様は消えて、柔らかなクリーム色の紙だけ。それをもう一度巻いて黒猫の中にしまう。
「どうするの?」
「持って歩くんだよ。そうしたら、シドがいるみたいでしょ?」
ラーシュが頷くので、アスティも許してくれた。赤いリボンが可愛い黒猫は、とても可愛い。シドが入ってなくても、連れて歩きたいの。大人はぬいぐるみを抱いてないから、きっと僕も大人になるまでだよ。
「ちょうどいい。これを抱いていれば、奪われるだけで済む」
「なるほど。囮か」
二人が大人の話をしている間、僕は黒猫のリボンを直した。少し曲がってるんだもん。引っ張って直したところで、アスティが腕を伸ばす。
「おいで、カイ。帰ろう」
「うん!」
まだお部屋は色を塗っただけで、住むのは無理だった。扉も付いてないし、窓もガラスがないんだよ。結界は張ったと聞いたけど、全部工事が終わるまでアベルのお家に帰るんだ。
「ヒスイは?」
「もう帰ったわ。今夜はボリスも泊まるわよ」
「わーい!」
ボリスは毎日お家まで飛んで帰ってたんだけど、今日は疲れたんだって。一緒にご飯を食べると聞いて嬉しくなった。
「僕、ボリスとお風呂に入る」
「どうして? 私と一緒に入りましょう」
「えっとね、ヒスイがボリスと大きいお風呂に入るんだよ。僕も行きたい」
「わかったわ。お風呂は譲るけど、眠るのは私と一緒ね」
「もちろん一緒だよ」
アスティの許可をもらったので、ヒスイの部屋に飛び込んだ。ボリスがお迎えに来るまで、折り紙をして遊ぶ。これはラーシュのお友達のイェルドが教えてくれたの。
四角い紙を折っていくと、鳥さんが出来るんだ。羽を広げてお腹の部分を膨らました。その隣で別の紙を折る。
「何を作ってるの?」
「ドラゴンが作れないかと思いまして」
「うわぁ! 作れたら僕にも教えてね」
「はい」
ドラゴンを作り終わる前に、ボリスが迎えにきた。
「風呂に入るぞ」
「「はい」」
師匠であるボリスの右に僕、左にヒスイが手を繋ぎ、一緒にお風呂に向かった。お部屋にあるお風呂以外に、大きなお風呂があるんだよ。到着した部屋で服を脱いだら、3人で並んで入った。
「来たのか?」
「ラーシュだ」
「あっちにアベルもいるぞ、ほら」
ボリスに促されて、大きなお風呂に目を見開く。泳げるくらい広いお風呂には、ラーシュやアベルが既に浸かっていた。手招きされて、近くまで行ってゆっくり入る。
「ヒスイもおいでよ」
タオルを巻いて恥ずかしそうに隠れるヒスイを呼んで、並んでお湯に浸る。お月様が浮かんだ空を見ながら、心の中で話しかけた。
シド、綺麗だよ。そうだなって、返事が聞こえる気がした。
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