118.シドも連れて行きたい

 誰でもそう。一人は嫌だし怖い。暗いのも好きじゃない。寒かったり、痛ければ絶対に嫌だった。


「シドも、それなの」


 悩むアスティにそう説明した。ラーシュやイェルドが安全だって話してくれたけど、こないだ乗っ取られたから、アスティは心配みたい。シドはもう悪いことはしないよ。


「僕は痛くて苦しくて、でもアスティが助けてくれたでしょ?」


「そうね」


「だから、今度は僕がシドを助ける順番なの」


 ダメって言わないで欲しい。願いを込めてお話しする僕を、アスティがぎゅっとした。


「いつの間にか、大人になっちゃうのね」


「もう大人?」


「いいえ。まだ子どもでいてね。ゆっくり大人になりましょう」


 よく分からないな。皆は僕が大人になれば、アスティが喜ぶと言ったけど、ゆっくりでもいいの? アスティは僕に嘘を言わないから、信じるね。


「わかった」


「魔王のシドの力を手に入れても、カイは変わらないで」


 お願いするみたいに話すアスティの首筋にキスをした。ちゅっと音を立ててキスして、またもう一回。アスティが僕を見るまで、何度もキスをする。


「カイ?」


「アスティと一緒に長く生きて、いっぱい仲良くしたい。寂しがり屋のシドも、連れて行っていい?」


 温めて欲しかっただけなの。きっと、誰かに優しくして欲しかった。でもシドはやり方を知らないだけ。昔の僕と同じだよ。


 愛されて満たされたら、悪いことなんて誰も出来ないんだ。シドは僕の中で幸せになる。だって僕が幸せになるんだもん。


「分かったわ。本当に危険はないのか? ラーシュ、イェルド」


 途中からラーシュ達へ話しかけたアスティの声が厳しくなる。口調も違った。お仕事のカッコいいアスティを見上げる。


「封印状態の前魔王がいいって言うんだ。魔力と人格を切り離して飲み込めば、もう魔力を使って何かされることはない」


「あの前魔王がそんな選択をするなんて、竜女王の番は凄いな」


 説明したラーシュの隣で、イェルドは僕に微笑みかけた。僕が凄いんじゃなくて、シドが凄いの。すごく長い間、いっぱい我慢してきた。悪いことをしたけど、その分だけ自分も苦しんだの。


 僕のアスティみたいな人が、シドにも現れたら良かったのに。でもいなかったから、死んでも誰かから奪おうとした。もう奪わなくていいと知って、僕に与えてくれる。心の底は悪い人じゃないから、シドと仲良くなれるよ。


「僕はシドを好きだよ。仲良くしたい」


 言い切った僕は、黒猫のぬいぐるみをラーシュへ渡した。もう動かないぬいぐるみの背中から、羊皮紙が取り出される。それを解いて、ラーシュが魔法陣の上に置いた。駆け付けたボリスやアベルも心配そう。


 ルビアとサフィーは、ヒスイと一緒に隣の部屋で待つことになった。誰かが攻めてきたら、僕達を守る約束だよ。お願いした後、僕はアスティのお膝に頭をのせて目を閉じた。


 小さな声で繰り返される不思議な言葉が、歌みたいに響く。僕は夢を見たのかな。シドと手を繋いで、大きな木の下にいた。

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