117.吸収するとどうなるの?

 ラーシュとお友達の後ろを、僕はヒスイと手を繋いで歩く。ルビアが「この先に女王陛下がいらっしゃいます」と教えてくれた。アスティの力が必要なのかな。


「カイ! どうしたの」


「えっとね、僕のシドを狙ってる人がいるんだって」


 抱っこの手を伸ばされて、僕はヒスイの手を離す。黒猫のシドを抱っこしたまま、アスティの首に手を回した。ヒスイはルビアと手を繋いだ。危険があるから、離れないようにするみたい。


「ラーシュ、状況を教えてくれ……ん? イェルドか。久しぶりだ」


 アスティの話し方がお仕事の時と同じだ。きっと魔族の人とお話しするのは、お仕事の一部なんだね。僕はシドが奪われないように、しっかり守るのがお仕事だよ。


「久しぶりだ、竜女王。魔族の一部が前魔王の封印を知って、吸収しようと狙っている。その黒猫の中にあると聞いたが、事実か」


 ラーシュのお友達は、イェルドというお名前なの。覚えておかなくちゃ。


 無言のアスティがラーシュに視線を移し、彼が頷いてから答えた。


「ああ、中心に入れた羊皮紙に封印している」


「憑依禁止の魔法陣を刻んだら、そのまま封印する予定だったが」


 ラーシュも困ったような声になる。このままシドも一緒に居たいのに、連れていかれちゃうのかな。僕は約束を守りたい。シドとも離れたくないの。


 アスティの顔を見上げると、彼女は僕を見て笑った。


「安心していいわ。カイはシドとの約束を守りなさい」


 大切なことだと言われて、安心した。僕からシドを取らないんだよね。きゅっと抱き締めた腕の中で、黒猫のぬいぐるみが動く。もそもそと身じろぎした後、僕の頬を丸い手で突いた。


「ん……アスティ、シドがお話しあるって」


「ああ、そうか。はっ、話?!」


 驚いたアスティがいきなり動くから、僕の手から落ちそうになったシドを慌てて支えた。


「危ないよ、アスティ。シドが落ちちゃう」


「ごめんね」


 謝りながら、アスティがラーシュを睨んだ。


「なぜ封印が解けているんだ」


「解けていない。それは憑依だ」


 別の力だと抗議するラーシュは、俺の魔術は完璧だったとぼやく。よくわからないけど、ケンカしないで。


「シドがお話しあるの。ちゃんと聞いて」


 シドが触れてると、声が聞こえてくるの。皆にお話しがあるんだよ。そう伝えて、僕は皆の手を集めた。上にシドの手をちょこんと置く。皆が触れた状態で、シドはこう切り出した。


「この身を封印しても、いずれ誰かに見つかる。知らぬ奴に食われるなら、俺はカイの中で眠る」


「僕の中に余ってるお部屋、あったかな」


 ぽつりと呟いたら、真剣な顔してたアスティが泣きそうになって、ラーシュ達は笑い出した。


「安心しろ、竜女王。前魔王は、カイに吸収されたいと願ってるだけだ。憑依と違い、吸収されれば復活したり乗っ取ることはできない」


 難しい説明だね。吸収は染み込んでくこと? 僕とシドが溶けたら、また僕に戻れるのかな。


 疑問をそのまま質問すると、イェルドが説明を始めた。僕にシドは溶けて、二度と離れなくなる。でも僕はシドにならず、いつもと変わらない。唯一変わるとしたら、魔力が増えるんだって。


「増えると何かある?」


「寿命が長くなる、魔法が使える、くらいか」


 ラーシュが唸りながら教えてくれた内容に、僕は頷いた。だったらいいよ。シドが寒くなくて、痛くないなら、一緒に生きていこうね。

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