88.二人きりのお出かけはデート

 イース神聖国が滅び、その影で私腹を肥やしていた人族の国がいくつか終わった。当然の結果だ。そう話すボリスとアベルの顔を交互に見る。


 難しい言葉がいっぱい。悪い人が終わったのはいいことだと思う。だから僕も頷いた。そうしたら、ボリスが僕を肩に座らせて笑う。


「はっはっは、番様は真っ直ぐにお育ちだ」


 アスティより背が高いし、抱っこより上にいる。掴むところがなくてふらふらするから、ボリスの頭を抱っこした。これなら落ちない。


「あと10年ほど、女王陛下も待ち遠しいでしょうね」


 アベルが変なことを言う。アスティは今も一緒にいるのに、10年も何かあるの? 僕の年齢よりいっぱいの時間なのに。


「捕まってた子、元気かな」


「もちろん調査……調べました。両親や家族と合流し、平和に暮らしています。今は人攫いも出なくなり、人族の都や国を潰したことを称賛する声が高まっています」


 初めだけアベルは簡単な言葉に言い換えてくれたけど、興奮した様子で後ろの方は難しい単語をいっぱい使った。


 ひとさらい、しょうさんは後でタカト先生に教わろう。明後日の授業まで覚えてなくちゃ。口の中で5回くらい繰り返した。


「カイ、待たせたわ。あら……肩車をしてもらったのね」


 かたぐるま? これも新しい言葉だ。また繰り返す。口の中で声にしないで、何回も言うと忘れないの。ボリスが両脇を支えて下して、すぐにアスティに抱っこされた。


「番様も大きくなられました。そろそろ歩いて移動なさらないと」


 足腰が云々。アスティが怒られてるみたい。アベルが何度も言い聞かせて、ようやく僕は床に足をつけた。大きくなると抱っこしてもらえなくなるのかな?


「僕、小さいままでいいよ」


 育たない方が抱っこしてもらえるし、アスティも嬉しそう。そう言ったら、皆が変な顔をした。困った顔に近いけど、笑うのを我慢してるのかも。


「大きくなって頂戴。このままは困るわ」


 アスティの許可が出た。僕は大きくなる。


「ボリスくらい?」


「ふふっ、そうなるといいわね」


 アスティの隣で、ボリスは「今のままの方が可愛い……いてっ」と叫んだ。何か居たの? きょろきょろする僕を連れて、アスティが歩き出す。お部屋の方角じゃなくて、お庭の方だね。


「お庭に行くの?」


「綺麗な花が咲いたと聞いたわ。見に行きましょう」


 これはデートと呼ぶんだよ。僕とアスティが一緒に二人だけで出かけると、全部デートなの。そう教えてもらったのは昨日の夜で、僕は「デート?」って確かめた。


「ええ、デートよ」


 嬉しそうに答えるアスティに、僕は握った手に頬を擦り寄せた。じゃあ、二人でお風呂に入るのも眠るのもデートだ! お庭のお花も楽しみにしながら、二人だけで奥の方へ歩いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る