87.胸がちくっとした
捕まってた子は、皆、家族と一緒に帰った。僕とヒスイもアスティと一緒に帰るんだよ。アベルが待つドラゴニアのお屋敷へ向かって、ボリス達も空に舞い上がった。
「たくさん壊れちゃった」
「積み木と一緒よ。直す人がいるわ」
帰りはボリスの背中に乗せてもらった。アスティは僕を抱っこしていたいんだって。離れず後ろから抱っこしたまま、ボリスの背中から街を見下ろす。来た時はキラキラした丸い屋根が綺麗だったのに、僕達が降りたお家以外は壊れちゃった。
「ボリスが壊したの?」
「ルビアやサフィーも、他のドラゴンも壊したわ。私達も扉や檻を壊したでしょう?」
鉄の棒で遮られた小屋は、牢屋と呼ぶ。檻も同じ意味みたい。新しい言葉を覚えたけど、使うことはないから忘れてもいいと言われた。お屋敷に戻ったら、綺麗な積み木でお家を作ろう。
楽しみにしながら僕は目を閉じる。アスティの胸が僕の背中に触れていて、とても温かかった。この腕の中は安心できる。眠くなっちゃうの。うとうとする僕をしっかり閉じ込める腕に寄り掛かり、気付いたらお屋敷が目の前だった。
「帰ってきた?」
「よく寝てたわね。もう降りるから掴まって」
ボリスが声を上げると、他のドラゴンが我先にとお屋敷の庭に降りていく。お庭に真っ直ぐ向かって、ぶつかる前に人の姿に戻るの。くるっと回って着地したのはサフィー、その隣で赤い髪の乱れを直すのがルビア。灰色や黄色のドラゴンも降りて、ようやく僕達の順番だった。
ボリスは真っ直ぐ降りるけど、地面が近づくと羽を広げて止まる。ぶわっと風が起きて、目を閉じたら終わってた。先にヒスイが滑り降りて、アスティに抱っこされた僕が続く。
庭の隅に咲いたお花を見つけた。散らなくてよかったな。明日も咲いてたら、アスティと見に来よう。
「ご苦労だった。明日と明後日は休みとする。しっかり休んでくれ」
アスティの言葉に皆が礼をして、家が遠い人はここから飛んで帰るの。手を振って見送り、アスティとお風呂へ向かった。ヒスイは自分のお部屋に帰って、明日と明後日はお休み。明後日の次の日に会う約束をした。
「いい香りの石鹸で洗いましょうね」
僕、もしかして臭いの? こっそりと黒い髪を摘んで匂ってみる。自分だと分からないな。
「カイは臭くないわ、私が嫌なの」
牢屋の臭いがするのかな。あそこは変な臭いがするし、じめじめして嫌な場所だった。あの臭いがしたら、僕も嫌だな。
「うん。よく洗う」
「いい子ね、お風呂に入ったらご飯を食べて、一緒に寝ましょうね」
何故だろう、ちょっと胸がちくっとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます