81.魔族の人、お父さんのこと知ってるかな

 アスティの背に乗って、僕は悪い人を退治に向かう。普段はダメらしいけど、今回はヒスイも一緒だった。僕が落ちないように支えてくれるんだよ。ボリスも今回は戦うから、アスティと僕を乗せるのは出来なかったの。ヒスイの胸にすっぽりと僕が収まるから、落ちる心配がない。


「すごいね」


「ドラゴンの背は初めてです」


 興奮した様子のヒスイと話しながら、途中の街の人に手を振った。アスティの説明だと、こないだ戦った国みたい。悪い貴族の人だけやっつけたから、皆は感謝して手を振ってくれる。いいことをしたのかな。さすがアスティだと思う。


 昔お母さんが読んでくれた絵本は、すべて捨てられちゃった。魔族の絵本なんだって。僕は小さい頃のお話はあまり覚えていなくて、知ってるのはアスティやヒスイと読んだ絵本だけ。ドラゴンが出てきて、悪い人を倒すお話が多かった。あと、宝物をいっぱい集めたドラゴンが襲ってくる人を蹴飛ばすお話も。


 どれもいっぱいドラゴンが出てきて、どのドラゴンも優しい。宝物を奪いに来た人を殺さないように追い返すの、偉いよね。その人にも家族がいて帰りを待ってるから? そう聞いたら、アスティは笑って「そうかも知れないわね」と頷く。


 僕が知ってるドラゴンは全部強くて、綺麗で、優しかった。だから絵本のドラゴンも同じだよ。


「イース神聖国ですよ」


 ヒスイが指さした先は、きらきらした屋根の建物がいっぱいだった。お水を両手で掬う時みたいな丸い形の屋根が並んで、上に光る鳥や飾りが乗ってる。指さしては「鶏」とか「十字架」と騒いで、ヒスイと答え合わせをした。


 丸いボールみたいな飾りがついた建物もある。あの光る金色の部分は、騙した人から奪った金で出来てるんだって。僕も金色の飾りを貰ったけど、あんなに大きくない。僕と同じように飾りを持ってる人が、いっぱい騙されたんだろうな。


 人の物を欲しがるのはいけない。僕はそう教わった。お母さんは、自分の持ってる物を与える子になりなさいと言ったの。お母さんがいなくなってからの僕は、何も持っていなかった。だから人にあげることが出来なかったけど、今はアスティがいっぱいくれる。


 本当はいろんな人に分けてあげるんだと思うけど、心が狭いのかな。僕はアスティのくれる物を誰かにあげたくなかった。アスティも絶対に僕のだよ。大好きな人で一緒にいたいの。ヒスイもお友達だし、アベルやボリスも取られたくない。


 こういう欲深い子は、きっと僕ぐらい。アスティやヒスイ達は優しくて、僕にいろいろくれるから。悪い子だけど、アスティはそれでいいと抱き締めた。だから僕はアスティを信じる。


「あっちの人は誰だろう」


 ドラゴンに乗らず、自分の背中にある羽で飛んでる。指さした僕の手を、慌ててヒスイが掴んで下げさせた。


「指さしてはいけません。魔族の方々ですね」


「魔族? お父さんと同じ種類の人達だ」


 前にボリスがそう言ってたから、間違いないよね。お父さんのこと、知ってる人がいるかも。にこにこと手を振ったら、不思議そうに首を傾げた後で振り返してくれた。魔族も優しい人がいっぱいだ。

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