82.悪い人がたくさんいるの?

 僕とヒスイは、アスティと一緒に捕まった子を助けに行く。金色の屋根の下、暗い地下に閉じ込められたんだって。


「絵本のお姫様みたいだね」


「親の元へ返してあげましょう。とても良い行いですよ」


 ヒスイが楽しいお話ではなくて、悲しいお話だと教えてくれた。子どもは自分で来たんじゃなくて、無理やり攫われたんだって。お父さんやお母さん、お友達と引き離されて。嫌なのに閉じ込められたの。


 お話を聞いて、怖くなった。そんな悪い人がいるのかな。アスティと手を繋いで、絶対に離さないようにしなくちゃ。それにヒスイも連れてかれたら困る。右手をアスティ、左手をヒスイと繋ぐと決めた。


 くるりと回ったアスティが鳴くと、ボリスが返す。ドラゴンの鳴き声は大きくて、ビリビリと周りが震えるんだよ。僕はボリスに手を振った。


「ケガをしないでね。ボリス」


 黒いドラゴンがくるりと回る。手を振る代わりかも。後ろに赤いドラゴンと青いドラゴンもいた。あれはルビアとサフィーだ!


「ルビアとサフィーも頑張って!」


 尻尾を振ったり宙返りする二人に、大きく手を振った。ここでボリス達とお別れなの。ボリスはドラゴンや魔族の人と、悪い人と戦う。僕達は攫われた子を助けるんだ。


 ドラゴンの羽とよく似た翼を持つ魔族の人が寄ってきて、アスティに何か話しかけた。アスティが頷いて、僕達に教えてくれる。魔族の子も攫われてるから、一緒に助けに行くって。


 この人は僕のお父さんを知ってるかな? 攫われた子を助けたら、後でお話しして教えてもらおう。


 アスティが魔族の人に鳴いて、下へ向った。真っ直ぐに降りていく。金色の目立つ屋根の隣にある広場に、尖った武器を持つ人がいた。あれは前にボリスに教えてもらった槍かな。先端がキラキラ光ってる。この国の人は光る物が好きなんだね。


 そう話すと、ヒスイは笑い出した。


「カイ様は本当に純粋で素敵です。アスティ様がブレスを使いますよ」


 振り返った僕に、前を向くよう促したヒスイ。アスティが大きく息を吸い込んだ。喉と頬がぶわっと膨らんで、アスティが急ブレーキをする。僕はヒスイにお腹を抱っこしてもらってるから、大丈夫。それに落ちないよう、アスティの魔法もかけてもらったよ。


 ぐぅぁああああ!


 吠える声と同時に、真っ赤な炎が放たれた。これがドラゴンのブレスで、戦い方なんだ。お勉強で習ったブレスは、途中から色を変えた。槍を持った人が黒くなって、その上から白い氷が包んでいく。


「カイ、降りるわよ」


「うん!」


 アスティの声に頷いた僕を、ヒスイがしっかり抱き締めた。お陰で揺れないで着地して、綺麗な銀色の鱗が生えた首を滑り降りる。頭の手前ですとんと地面に足がついた。滑るの楽しかった。


「これはまた……見事な魔力操作だ」


 隣に降りた魔族の人は、上から下まで真っ黒だった。長い髪の毛も、服も、肌も僕より日に焼けてる色だ。目も黒いけど、どうしてだろう。魔族の人は赤いと聞いたのに。


 首を傾げる僕をアスティが抱き上げた。


「ヒスイ、これを」


 危ない時に逃げるための道具を渡され、ヒスイが首にかける。手のひらくらいの平たい丸に、いっぱい模様が書いてあり、紐が通されていた。ヒスイはそれを首にかける。


 地面はつるつるに凍って危ないから、転ばないよう抱っこで移動が決まった。ヒスイがすぐ後ろを歩き、魔族の人は数歩離れて付いてくる。凍った建物の入り口をくぐったら、また槍や剣を持った人がいっぱいいた。悪い人はこんなにたくさんいるの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る