60.森の色みたいな鱗だね
アスティとのお仕事を終えて、僕はルビアと部屋に戻る。騎士だからお外で立ってたと聞いてびっくりした。次から、一緒にお茶を飲もうね。
もらったお菓子を入れた袋に手を入れて、ひとつ渡した。
「頂いてよろしいのですか?」
「うん、ルビアの分」
中にはまだ入っている。それを見せながら数えた。侍女の人の分やもう一人の騎士であるサフィーの分、それから……。
「番様!」
呼ばれて足を止めた時は遅かった。角から出てきた人とぶつかってしまう。転びそうになったけど、ルビアが支えてくれた。
「ごめんなさい」
お菓子を数えるのに夢中だった僕が悪いの。そう謝ったら、周りに紙が散らかってた。アスティのお仕事の紙によく似ている。きっと大事な紙だと思う。
「僕も拾うね」
「触るな!」
手を伸ばした僕を、男の人が突き飛ばした。鱗がいっぱいの人だけど、アスティやルビアとは違う。びっくりして尻もちついた僕を、慌ててルビアが起こしてくれた。
「貴様、何をする! どこか痛くありませんか?」
怒った後、僕の心配を始める。ルビアに首を横に振った。だって、僕が悪いんだもん。ちゃんと前を見て歩かなかったから。
「もう一度ごめんなさい。勝手に触らないよ」
そう謝ると、不思議そうな顔をされた。鱗がいっぱいで、肌がびっしりと覆われている。薄い緑色なんだね。森の色みたいで綺麗だと思った。
「森の色みたいな鱗だね」
にっこり笑う僕の前で紙をばさばさと重ねて、ぺこりと頭を下げて足早に逃げていっちゃった。子どもは嫌いなのかな。それとも僕に鱗がないから?
「なんて失礼な奴だ。きっちり罰しておきます」
「どうして?」
ルビアが怖いことを言う。もう一度言うけど、僕が先にぶつかったの。前を見ていなかったのも僕だよ。だからあの人は悪くない。そう説明して、手を繋いで歩く。そっか、言いつけも守らなかったんだ。
廊下を歩く時は手を繋ぐように言われていたのに、お菓子に夢中で手を離していた。だからルビアにお願いしておく。
「あのね、ぶつかったこと黙ってて。手を繋いで歩くって約束したのに、ちゃんと出来なかったから。アスティには僕が謝るよ」
他の人から伝わるより、その方がいいよね。そう尋ねたら、ルビアも賛成した。この後はアスティと夜ご飯を食べたり、お風呂に入る。その時に話そう。
歩き出してすぐ、僕は落ちている紙を拾った。さっきの人のかな。足りないと困ってるかも知れない。ちらっとルビアを見るけど、まだ怖い顔をしていた。さっきの人に届けてもらったら、また怒るよね。それだと悪いから、僕が届けよう。
明日のお勉強はお休みだから、サフィーに頼んで探してもらうんだ。そう決めたら、何だか楽しくなった。また会える。ちゃんと謝ったから、仲良くなれるといいな。
綺麗な透き通った緑の鱗も、触らせてくれたら嬉しい。僕はうきうきしながら、お部屋に戻った。
お風呂でアスティにお尻の痣を発見されちゃった。怒ってるみたいな顔で問い詰めるから、丁寧にお話ししたら頷く。
「アスティ、明日は森色の人を探したいの」
お願いしたら、仕事している場所を知っていると言われた。あんなに綺麗な鱗だから、皆が知ってるんだね。会いに行けると分かって、ほっとした。
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