50.番を守るのはドラゴンの本能だ――SIDE竜女王
ドラゴンの王になった者に番が現れるのは、珍しいことではない。過去にも数人現れた。その度に番を害して己が成り代わろうとする者や、捕まえて利用しようと考える者が出る。王でなくとも、強いドラゴンの番は常に狙われてきた。
人族の国なら、竜族を一人手に入れるだけで安全が担保される。圧倒的な武力と、その影響力は計り知れなかった。偶然にも自国の王侯貴族に番がいれば、その国の繁栄は約束される。その話が一人歩きし、人族の間で間違って伝わった。
曰く、ドラゴンの番を手に入れれば国が繁栄する、と。そんな都合のいい話があるわけないのに。人はいつでも楽して利益を得ようとする。
「怖かった?」
「ううん。アスティが一緒だから平気」
敵を排除したボリスの拳に、悲鳴をあげて逃げ回った愚かな男。隣国の王という肩書きが嘘のようだった。飄々とした態度で他者の苛立ちを誘う余裕も、今回はなかったらしい。集まった情報を総合的に判断したアベルが出した結論だ。あの国王を生かす選択肢はない。
可愛いカイの耳に、あの男の悲鳴など聞かせてしまったことは反省すべきだが。それ以上の後悔はなかった。人族の国がいくつ滅びようと、カイが安全ならばそれでいい。これが宰相アベルや将軍ボリスの番でも、ドラゴニア国は動いただろう。
下降を始める合図をしたボリスに頷き、小さな声で返答する。ドラゴンにしか聞こえない音域での会話だ。言葉にして届けることは難しいが、簡単な意思疎通が可能だった。他種族には聞こえないので、内緒話や攻撃の合図に適している。
「カイ、もう屋敷に着くわ。降りるわよ」
「アスティにぎゅっとしたらいい?」
「ええ。絶対に落とさないから安心して」
この子が私だけを見て、私だけを頼ってくれる。その至福の時間を堪能しながら、下降するボリスの背に掴まった。ドラゴンは魔力で飛ぶため、上昇も下降も垂直に近い。体が頑丈で傷つかないこともあり、着地点について考えなしなことも多かった。
胃の辺りを刺激する浮遊感に苦笑いし、強くカイを抱き締める。白い包帯に包まれた小さな手が、私の首に回された。その愛らしい仕草に、ボリスを咎める気は消えた。乱暴だが、このくらいの方がカイが私を頼ってくれそうだ。醜いのは承知で、そんな打算が浮かんだ。
迎えに出た侍従や侍女に混じり、宰相のアベルが見える。厄介ごとか、何らかの書類決裁か。どちらにしても仕事だろう。
ちらりと視線を向けたカイは、ぎゅっと目を閉じて必死の様子。頬を緩めながら、着陸したボリスの背を滑り降りた。感謝を兼ねてぽんと首筋を叩き、アベルの挨拶を受ける。
「女王陛下、隣国と縁戚関係にあった西の国が騒いでおりますが」
「使者が来たか? ならば明日まで待たせておけ」
「かしこまりました」
西側の国と縁続きなのは承知している。人族には彼らのルールがあるので、抗議は来ると予想していた。だが、ドラゴンは世界の覇者だ。その女王が下した決断を、弱い人族が覆すことは不可能だった。
明日、きっちり言い渡してやろう。互いの立場の違いを、理解させねばならん。こんなことなら、王の首を持ち帰ればよかった。物騒な後悔がよぎった。
「アスティ、お風呂だって」
侍女と挨拶していたカイに促され、抱いたまま歩き出す。一緒に入るのは私だ。たとえ侍女であろうと、カイの裸体を見せたくなかった。
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※*※新作※*※ ファンタジー系、逆転劇
【要らない悪役令嬢や悪女、我が国で引き取りますわ ~優秀なご令嬢を追放だなんて愚かな真似、国を滅ぼしましてよ?~】
乙女ゲームの悪役令嬢、恋愛やファンタジー小説の悪女や悪役令嬢。優秀な彼女達はチート級の能力持ち、捨てるならモブ国の王女である私が引き取りますわ。
https://kakuyomu.jp/works/16817139555864263764
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