49.悪い人は退治したわ
アスティ達のお話は難しいけど、僕が誘拐された原因が目の前のおじさんと理解した。たぶん合ってると思う。ボリスが怖い顔で、おじさんと向き合った。
お口は閉じておいてと言われたので、まだ右手でお口を押さえている。このおじさん、騒いでるけど……アスティは許さないよね。僕はお口を塞いで見てるだけ。
勝手に僕が判断して、お口を自由にしたらいけないの。おじさんを助けるほど、僕はこの人を知らない。だけど可哀想な気もした。謝るなら許してあげたい。でもアスティが嫌な思いをするなら、許さなくてもいい気がした。
縋るような目を向けられても、僕は動けないから。謝る言葉も聞こえなかった。どうして、なぜ、やめては聞こえてきたけどね。謝れない人はダメだよ。悪いことをしたら、まず謝らなくちゃ。すぐ許してもらえなくても、謝ることが大切なの。
後ろで大きな音がして、赤いドラゴンのお姉さんが、尻尾を壁に叩きつけていた。隣では茶色いドラゴンが門を倒す。あっという間に、お城の周りの建物は壊されてしまった。
「この国は制圧し統合する。お前は罪を贖え」
アスティは怖い声で言い切ると、僕の目を手で塞いだ。見ちゃダメなら、アスティの首に顔を埋める。これなら間違えて見ちゃうことないよね。撫でるアスティの手が、頬や髪に触れると嬉しかった。
ぎゃああああ! そんな声が聞こえて、びくりと肩を揺らす。振り返りそうになって、アスティにしがみついた。お口を押さえてた右手も一緒に首に回し、ぎゅっとくっつく。これなら距離もないし、アスティ以外は見えない。
銀色に浮かんだ鱗が綺麗で、じっと見つめていた。怖い音も嫌な臭いも、すべて無視する。ボキボキと耳障りな音がして、騒ぐ声が聞こえなくなった。
「ごめんなさいね、音や臭いも遮断しておけばよかったわ」
首を横に振る。ううん、僕は平気だよ。そう伝えたいけど、アスティがまだお口を開けていいと言わないから。
「ふふっ、いい子ね。もう話しても大丈夫よ」
いつものアスティだ。安心して腕を少し緩めた。アスティの頬に僕の頬をくっつけて、体の力を抜く。どきどきする僕の胸が煩い。アスティの手が優しく背中を叩いた。痛くなくて、気持ちいい。
「悪いおじさんは退治したわ」
「もう怖くない?」
「ええ。二度と攫ったりされない。私の大切なカイだもの。しっかり守らなくちゃね」
ちゅっとキスをもらう。唇の触れた頬が熱い気がして、へにゃりと笑った。僕はアスティにとって大切だって。その言葉が嬉しくて、僕もアスティの頬にキスをする。
「今日はこのお城に泊まるの?」
「残念だけど、壊れちゃったから屋敷に帰りましょう」
言われて周囲をぐるりと見たら、お城が半分なかった。立派な建物だったのに、ドラゴンはすごく強いんだね。壊したドラゴンが得意げに鳴き声を上げる。数人のドラゴンが残るので手を振って別れた。
「ボリス、お顔が赤く汚れてる」
ケガしたのかな。心配した僕に、ごしごしと拭いた彼は肩を揺らして笑った。
「ケガではありません。よく汚れだとわかりましたな」
偉いと褒められた。帰りの旅は高さのある飛び方で、遠くに沈んでいく赤い夕日がすごく鮮やかだった。
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