35.衣装はアスティの色がいい
婚約式のお洋服を作るため、僕はサイズを測り直していた。ご飯を食べれるようになって、ちょっと大きくなったみたい。
「背の高さも?」
「ええ。もっと身長も大きくなりますよ」
よかった。アスティが待ってるから、早く大きくなりたいんだ。高さは身長と呼ぶ。覚えた言葉を口の中で繰り返した。他の人より知らないことが多い僕は、お勉強をいっぱいしないといけない。
「番様、こちらを向いてください」
言われた通りくるっと回った。お腹の周りも胸のところも、首や肩も。全部測って服を作ってもらう。僕は今までもらった服だけ着てたけど、本当はこうやって作るのが正しいと聞いた。前は正しくなかったのかな。
「色は女王陛下とご相談して決めましょうね」
お洋服を作るのは、綺麗なお姉さんの姿をしたおばあちゃん。よく分からないんだけど、お姉さんがそう言ったの。でもお姉さんと呼んでもいいんだよ。
「お洋服のお姉さん、僕……紫の入った服を着たい」
アスティの色は銀色と紫。銀色の服は眩しいけど、紫なら着られそう。そう思って声にしたら、お姉さんは口の中で何かをぶつぶつ呟いた。
「可能かしら。濃い紫ではなく、ラベンダーのような淡い紫ならイケるわ。女王陛下は赤……いえ暗い赤がいいかも」
待ってる僕ににっこり笑った。
「女王陛下にご相談しましょう。番様が紫を希望していたとお伝えしますね」
「うん。お願いです」
ぺこりとお辞儀をする。頭を下げすぎるといけない。注意しながらの挨拶に、お姉さんは手を叩いて喜んだ。褒められるのは大好きだよ。嬉しくなった僕は、もうすぐ部屋に来るアスティを待つため、クッションに座った。これは贈り物でもらったクッションなの。
「お待たせ、カイ」
「アスティ。あのね、紫がいい」
気持ちが先に口をついた。首を傾げたアスティへ、お洋服のお姉さんが説明を始める。頷いたアスティが広げた腕に飛び込んだ。抱っこされて、頬を擦り寄せる。
「素敵ね、私の色を纏ったカイと婚約するなんて」
「濃淡を上手に使えば、素敵なドレスになります」
「正装用の裾が長い上着でお願いね。下を濃紫にしようかしら」
「色が逆でも素敵ですよ。黒髪が映えますから」
頭の上で相談が始まり、難しい単語を追えない僕はアスティの首に手を回す。アスティの耳の辺りの匂いを嗅ぐと、すごく落ち着くの。何度もくんくん嗅いでいたら、お話は終わったみたい。
「では仮縫いが終わりましたら、またお伺いします」
お洋服のお姉さんが帰って行った。道具もちゃんと運んでいく。見送った僕は、アスティに疑問をぶつけた。
「どうしてお姉さんの姿でおばあさんなの?」
「ふふっ、あの人はね。ドラゴンの中で一番長生きしてるのよ」
だからお姉さんの姿をしていても、おばあさんと言ったんだね。女性に年齢のお話をするのはいけないと教えてもらった。でもアスティは女の人だから、女性の年齢のお話をしてもいいのかな? これも聞いたら、笑いながら「紳士ね」とキスをもらった。
うん、僕は紳士になるアスティの番だから、女性の年齢のお話はしないようにする。
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