34.可愛いから食べるんだって
礼儀作法のお勉強をしたらお昼寝。ぐっすり寝るのが僕の仕事のひとつで、大きく育つために必要なんだ。でも今日はぽかぽかして眠れない。何度もベッドでごろごろして、大きなぬいぐるみをベッドに載せてもらった。アスティがくれた猫ちゃんによじ登って、お腹の上で目を閉じた。
アスティは僕が誰かに抱き着くと機嫌が悪くなる。だから、これはお昼寝の時間だけの秘密。起きたらそっと戻せば分からないよね。ふかふかした猫のお腹に抱き着いた僕は、ようやく眠りに就いた。
どのくらい寝たのかな。起きて目を擦った僕は、猫のぬいぐるみの上にいなかった。落ちたんじゃなくて、アスティに抱っこされてる。
「アスティ?」
「もう起きたのね、よく眠れた? カイ」
「うん、猫……ごめんなさい」
猫のぬいぐるみをベッドに載せて、僕が乗ってた。きっと怒ってるでしょ。そう思って謝ったら、きょとんとした後でアスティが微笑む。きつい目元がふわっと柔らかい感じになった。
「謝らないでいいわ。可愛かったもの。私がいないときは代わりを猫の人形に頼みましょうか」
「いいの?」
「カイが眠れることが最優先よ。おやつにしましょう」
「ありがと」
一緒にベッドから降りた。いつの間にか猫のぬいぐるみは部屋の壁にもたれて座ってる。移動させたのかな。運ばれたおやつは、見たことのないお菓子だった。丸くて真ん中で割れてる。そこにクリームが入ってた。
「これ、なぁに? 初めて」
色がすごく鮮やかなの。赤、黄色、ピンク、緑、青……虹色よりたくさんあった。
「マカロンという名前なの。他国から取り寄せたのよ。気に入った?」
「うん! 綺麗」
「何色から食べてみる?」
「え? 食べちゃうの?」
これ、お部屋に飾るんでしょう? すごく綺麗で鮮やかで、並べて置いたら素敵だと思う。食べたらなくなっちゃう。驚いて振り返ったアスティが、こてりと首を傾げた。僕のこと可愛いって言うけど、アスティも可愛いよ。今の動きも可愛かったもん。
膝に座った僕は背伸びして、アスティの頬に唇を当てる。これは番ならしてもいい。アスティもウサギの先生もそう言ってたからね。マナー違反じゃないんだよ。ぎゅっと抱き締めたアスティが「可愛い、食べちゃいたい」と呟いた。
今度は僕が首を傾げる。可愛いと食べたいの? じゃあ、このマカロンも可愛いから食べたいんだね。ピンクを選んで指先で摘まんだ。割ろうとしたら潰れるから、そのまま差し出す。
「あーん」
口を開けたアスティが齧る。半分くらいになったそれを、僕のお口に入れた。さくさくっと崩れて、甘くて、クリームが美味しい。甘いのと酸っぱいのが一緒に来て、頬を押さえた。落ちちゃうかもしれない。
「私のカイが可愛すぎて困るわ」
僕が可愛い?
「じゃあ、僕も食べる?」
「……っ、今じゃないけれどね」
そっか、僕はアスティにいつか食べられちゃうんだ。それまで仲良く一緒に居られたらいいな。
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