13.優しくされると不安になるの
アスティとお庭を歩いて、一緒にお昼寝もした。まだお日様が出てる時間に寝たのは、お母さんと暮らしていた時以来かも。大きな木の下で、ゆっくりした。
綺麗なお花ももらえたし、お部屋に戻って飾る。お水を入れた瓶を借りて、その中に挿した。揺れるのはピンクのお花、名前は知らないけど、色の名前は分かるの。緑の葉っぱと、白いお花も一緒に。
「カイはお花が好きなのね」
「うん」
今はお花が見えるソファに座ってる。僕が座って汚れたら困ると言ったら、アスティが変な顔をした。それから笑ってソファにのせる。
「おやつを用意させたの、気に入るかしら」
侍女のお姉さんが運んできたのは、透明のお皿に乗った丸いもの。これ、高いコップと同じに見える。お皿にそっと手を触れると、ひんやりした。びっくりして指を引っ込める。
「冷たいでしょう? 氷のお菓子なのよ」
丸いお菓子をアスティが割る。銀色のぴかぴかしたスプーンで僕の唇の前まで運んだ。
「あーんして、カイ」
ぱくりと口を開ける。つるんと入ったお菓子は、冷たくて甘かった。びっくりして目を見開く。頬が凍っちゃいそう。両手でほっぺを押さえたら、くすくす笑うアスティも一口食べた。
初めて食べる味だ。甘くて、ふんわり溶けて、いい香りがする。全部食べるの、もったいないな。毎日少しずつ食べたい。
「どうしたの?」
「残りは明日」
取っておきたいの。説明して顔を見ると、驚いた様子のアスティが教えてくれた。全部食べてもいいこと、食べたいなら明日も用意できること。
「僕が、そんなこと言ってもいいの?」
「カイが望むなら、なんでも叶えてあげるわ」
アスティは泣きそうだった。ほっぺを押さえていた手を伸ばし、アスティの頬に当てる。左の手も同じようにした。
「泣かない?」
「ええ、カイの手が温かいから平気よ。溶ける前に食べちゃいましょうか」
よいしょと声をかけて、僕を膝に乗せたアスティがスプーンを伸ばす。お皿の上は水みたいにお菓子が平べったくなっていた。このまま取っておくのは無理だね。
「あーん、よ」
アスティの差し出したスプーンをぱくり。溶けても甘い、それに冷たい。噛もうとしても溶けてなくなった。美味しい。
「アスティ、美味しい」
「そう、よかったわ。また明日作ってもらいましょうね。味の違う氷菓子もあるの」
味が違うのも? アスティと一緒だと、僕が知らない食べ物や世界ばかり。どうして僕に優しいんだろう。いつか捨てるのかな。不安になって、小さな声で名前を呼んだ。
「どうしたの?」
「僕いつ捨てられるの」
アスティは氷菓子のお皿を遠ざけて、僕を正面から抱っこした。柔らかくていい匂いがして、すごくあったかい。この手もいつか離れてしまうんだよね。鼻を啜った僕に、アスティはゆっくり話し始めた。
「さっき、後で説明すると言ったけど……不安なのね。これから話すことを疑わないで聞いて」
真剣なアスティの声に、僕は頷いた。首に顔を埋めたまま、胸いっぱいにアスティの香りを吸い込む。
「あなたは私の番、唯一の存在なのよ」
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