14.ずっとの約束とキスをもらった
番は死ぬまで、いや死んでも離れないこと。アスティはドラゴンの女王様で、僕はその旦那さんになること。だから僕も王様みたいに偉い人になったこと。食べたいものを食べていいし、欲しい物は何でも手に入ること。もう叩かれたり殴られないし、痛い思いはしなくていいこと。
たくさん教えてもらって、僕はゆっくり考えた。アスティが女王様で偉い人だから、結婚する僕も偉くなるの? 何でも欲しい物をくれる? じゃあ、どうしても欲しい物があるよ。言ってもいいのかな。
「どうしたの?」
「欲しい」
どうしても欲しい。そう口にしたら、アスティが嬉しそうに笑った。僕は自分勝手な我が侭を言うのに、どうしたんだろう? それが嬉しいなんて優しい人だな。
「あのね、アスティが欲しいの。ずっと一緒にいてくれる?」
ご飯を減らしても美味しいものが食べられなくても、少しくらい痛くても平気だから。アスティと一緒にいたい。お母さんみたいにいなくならないで。我慢するから、僕を捨てないでね。
「っ! もちろんよ、絶対に離れないわ。世界を敵に回しても、私があなたを守る。大好きよ、カイ」
ちゅっと額にキスされて、次はほっぺ。それから顔がうんと近づいて、唇にも触れた。どうして唇に触るんだろう。不思議に思って尋ねると、顔を赤くしたアスティはもじもじした後で教えてくれた。
「唇は、大好きな人とだけキスするの。番や夫婦、恋人だけよ」
「じゃあ、僕もする!」
驚いた顔で動かなくなったアスティに、不安になった。僕のこと、そこまで好きじゃないのかも。旦那さんにするって聞いたけど、やっぱり僕は汚いから。
「だめ?」
「もちろんいいわ! 目を閉じるわよ」
ぎゅっと目を閉じたアスティの顔に近づいて、鼻が先にぶつかった。あれ? アスティはどうやってたっけ。えっと、唇が横向きで触ったかも。顔を傾けたら、鼻がぶつからない。柔らかい唇に触れて、少し離れてもう一度重ねた。
すごく気持ちいい。アスティは柔らかいけど、場所によって硬くて。でもキスも抱っこも優しい。キスが終わった僕は、ほぉ……と息をついた。途端にぎゅっと引き寄せられる。苦しいくらい強くて、でもそれが嬉しかった。
「大好きよ、愛してるわ。カイの気持ちが追いつくまで、ちゃんと待てるかしら」
アスティの言葉は難しい時がある。今のは僕に聞いたの? それとも悩んでるのかな。わからないけど、僕は擽ったい気持ちで緩んだ口元を手で押さえた。
「笑った? もっと笑って。カイは本当に可愛いんだから、ね?」
笑っていいと言われた。ぽかぽかする気持ちが、胸から溢れちゃいそう。僕からも抱き付いて、ぎゅっと手に力を込めた。いつもなら僕にこんなことさせてくれる人はいないけど、アスティは平気。僕を殴ったり叩いたりしない人だ。
ずっと一緒にいる約束をくれて、僕を好きだと言う。お母さんみたいなのに、お母さんとは違って、僕を置いて行かない人。死んでも一緒の約束を、大切に胸の奥にしまいこんだ。
「アスティ、僕……いい子になる」
「今もいい子だわ。可愛くて、綺麗で素直で。何より私と魂を分けた唯一の番だもの。これ以上素敵な子はいないわ」
アスティは僕を見つけるまで、すっごく長い時間を一人で過ごしたと話した。300年って、僕には分からない長さだ。生まれてまだ5年だから。気が遠くなるほど積み重ねたら、アスティの気持ちが分かるのかな。
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