03.嫌われないはずないのに
僕に手を伸ばしてくれた綺麗な女性は、お母さんじゃない。でも温かかった。触れた肌は日に焼けた色をしてる。真っ白くて気持ち悪いと言われた僕が触るのは、気が引けた。
僕を抱き上げた後、女の人の背中に羽が広がった。銀色ですごく綺麗だ。見惚れる僕を抱き締めたまま、ふわりと浮き上がった。びっくりして服をきゅっと掴む。でも怒られると思い、手を緩めた。
「しっかり抱き付いておいで。絶対に落としたりしないけどね」
ふふっと笑う女の人は、耳の後ろから首にかけて鱗が現れた。これも銀色できらきらと光る。不思議で手を伸ばした。触れるとひんやりしている。
「鱗は平気かしら」
こくんと頷いた。すごく綺麗だし、すべすべして気持ちいい。僕の腫れた手は熱いから、もっと触りたかった。この人は僕を殴ったりしないだろうか。
風がふわりと僕を撫でて、何気なく下を向いた。景色が小さい。遠くまで見えて、僕は初めての風景に首を動かした。肩に置いた手で調整しながら、ぐるりと見た足下は見たことがない景色だった。
僕がいた後ろの方向は、たくさんの小さな家がある。僕らの下は木の緑がいっぱい。この人が飛んでいる先は、青い水溜まりがあった。びっくりするくらい大きい。両手を広げても足りないくらい。
きょろきょろする僕は、うっかりと手を緩めてしまった。体が滑り慌てて掴まった時、手が酷く痛んだ。僕の指は変な形をしてるの。前に踏まれた時に変な角度になって、ずっと治らなかった。色が紫になって太さも倍くらい。今も強く動かすと痛い。
「うっ」
思わず呻き声が漏れて、慌てて唇を噛んだ。僕が声を出すと、周囲の人は機嫌が悪くなるから。僕はこの女の人に嫌われたくなかった。だって、いい匂いがして柔らかくて、温かい手で抱き締めてくれる。こんな人、お母さん以外知らない。
「痛むのね? ああ、唇を噛んではダメよ。傷になってしまうわ」
優しく声をかけられて、じわりと涙が滲んだ。答えることができず、肩に触れた手に恐る恐る力を入れる。
「安心して、私の大切なぼうや」
僕の背中を支える彼女の腕が、さらに力を込めた。僕は汚いのに、臭いのに、ぴたりと綺麗な胸元に顔が密着した。頬が触れる肌が気持ちよくて、目を閉じる。
僕、このまま死んでしまえたらいいな。胸がうずうずする気持ちで、鼻の奥がツンとする。それもすべて気持ちよくて、こんな綺麗な人に抱っこされて。
不思議な感じがお腹の辺りを襲う。ふわりと下から持ち上げられたみたい。急に落とされた時にも似てた。びくりとした僕に、銀色の綺麗な人は頬を寄せる。
「さあ、今日からここで一緒に暮らしましょうね。私の番だもの。誰も痛いことはしないし、あなたを嫌ったりしないわよ」
僕が嫌われない? 痛いことをしない? そんな夢みたいなこと、あるわけないのに。悲しくなるけど、僕は小さく頷いた。
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