短編置き場
3pu (旧名 睡眠が足りない人)
幼馴染タイムリープもの
「お前たち本当仲良いよな。流石幼馴染。本当に付き合ってねぇのかよ?」
いつものように仕事を終え帰りの電車を待っていると、とある少年の声が耳についた。
なんとなしに声が聞こえた方に視線を向けると、近場にある高校の制服に身を包んだ学生が三人。
「つ、付き合ってねぇよ!コイツとはただの幼馴染だ!」
「そうそう、誰がこんな奴と。私が好きなのはもっとスマートで大人びてて……」
ニタニタと意味深な笑みを浮かべ揶揄う少年に対し、顔をリンゴのように真っ赤に染め反論する一組の少年少女。
ありふれた青春の一ページ。
だが、それは俺にとってあまりにも眩しくて。思わず目を細める。
「……幼馴染か」
声を荒げ否定している少年のように、過去俺
家が隣同士で、幼稚園の頃から仲の良かった女の子。名前は、
『コーくん!今度はあれで遊ぼ?』
『ちょっと、待ってよ〜!ちーちゃん』
内気で大人しい俺とは違って、彼女の性格は天真爛漫。学校の終わりや休日は大抵彼女が俺の家にやって来て、色んなことをして遊んだ。
サッカー、野球、おままごと、ゲーム、オセロ等々、子供がするようなことを全部やったと思う。
そのおかげで、俺の家には千歳が持って来た遊び道具が置かれており、彼女以外の友人と遊ぶ時にも娯楽には事欠かなかった。
毎日のように遊びに来る美少女の幼馴染。当然、そんな彼女を意識しないはずもなく俺は小学校の低学年の頃には、既に心を奪われていた。
だけど、それを素直に伝えることが俺には出来なくて、気持ちを隠しながら接していたそんなある日。
千歳と複数の友人を交え公園で鬼ごっこをして遊んでいると、彼女が鬼から何とか逃げようと公園の外を飛び出し、横断歩道を渡ろうとした。
信号は青。信号無視をしたわけではないため、本来は危険なんて殆どない。しかし、この時は運が悪かった。
トラックが赤信号なのにも関わらず、猛スピードで千歳に向かって走っていたのだ。
猛スピードでトラックが直進してくるなんて想像もしていなかった千歳は、トラックに気が付いていなかった。
『ちーちゃん!危ない』
俺は大声で彼女に向かって叫ぶが、彼女の側で爆音を鳴らして走っていたバイクによって掻き消され届かない。
俺はそれに気が付いて瞬間、彼女の元へ駆け出した。
幸いにも千歳と俺の距離が近かったため、直ぐに彼女の元へ辿り着く。しかし、その時には既にトラックが寸での所まで迫って来ており、彼女を連れてその場から離脱することは不可能だった。
『ちーちゃんごめん!』
『きゃぁ!?』
(せめて、ちーちゃんだけでも)
俺はその一心で、彼女を思い切り突き飛ばした。
そのお陰で、千歳はトラックの範囲外へ無理矢理移動させることに成功し、俺が安堵の息を吐く。が、次の刹那ドンッという鈍い音共に俺の身体にとてつもない衝撃が走る。体が宙を舞い、すぐさま地面に叩きつけられ何度もその場を転がったところで、俺は全身から大量の血を流し止まった。
『コーくん!コーくん!』
薄れゆく意識の中、涙を流しながら駆け寄ってくる彼女の姿を最後に俺は意識を失った。
そして、次に目が覚めたのは病院のベッドの上。麻酔と寝起きによってぼーっとしている中、視線を何となしに動かすと俺の側で寝る千歳の姿があった。
大好きな人の愛らしい寝顔。
俺はその寝顔を暫くの間ずっと眺めていると、やがて千歳の瞼が開き、パチパチと数度瞬きをする。次いで、目を見開くと彼女は俺に抱きついて来た。
『コーくんが目を覚ました!良かった良かった!本当に良かった〜!私ずっと目を覚まさないんじゃないかと』
『痛い痛い!ちーちゃん痛い!いきなり抱きつかないで』
俺は彼女に抱きつかれることへの喜びよりも、麻酔を打ってもなお感じる痛みに悶え、離れるよう千歳に悲鳴混じりに言い聞かせる。
『ごめん!コーくん。嬉しくって、つい』
千歳は俺の悲鳴を聞くと、すぐに離れ申し訳なさそうに頭を下げた。
『イテテ、気持ちは嬉しいんだけど。するなら優しくしてね』
俺は先程感じた彼女の温度が名残惜しくて、優しく彼女のことをフォローする。
『本当!分かった。これなら、大丈夫?』
『うん、それなら大丈夫』
すると、彼女は嬉しそうに顔を輝かせ優しく俺に抱きついた。それでも、痛みが走るけれど我慢できない程じゃない。俺はちっぽけなプライドを振り絞りなんて事のないように振る舞った。
『……ごめんね、コーくん。私のせいで、コーくんこんな大変なことにしちゃった。ごめん……ごめんね』
暫く無言で抱き合っていると、千歳が突然涙をポロポロと流し、嗚咽混じりに俺に謝罪をしてきた。
『違うよ。ちーちゃん。あれはトラックが悪いんだ。ちーちゃんは信号守ってた。ちーちゃんは悪くない。これは、僕がしたくてやったんだ。ちーちゃんが気にすることじゃないよ』
『でも、でもぉ〜〜!』
この怪我は、俺の自業自得によるものでちーちゃんが責任を感じる必要はない。そう伝えるも、千歳は納得がいかないようで泣きじゃくる。
俺はこの状況をどうしたもんかなぁ〜?、と少しの間頭を悩ませ、一つ案が思いついたので千歳にこう提案した。
『じゃあ、どうしても気になるんなら今度僕が困ってたらちーちゃんが助けてよ。それならお互い様でしょ?』
『わがっだ!ぜっだいわだしがコーくんをだずげる』
今度は俺が助けてもらうそう約束したことで、千歳は納得し泣き止むのだった。
その後、無事一命を取り留めたとはいえ、足や腕の骨が折れている重傷の俺は病院で数ヶ月を過ごすことになった。
その際に身の回りのことを千歳がしていたせいか、少俺に対して過保護になりあれやこれやと世話を焼くようになった。
簡単に出来るようなものでも、千歳がやってしまうものだから少し煩わしく感じた。けど、俺を思っての行動だ。それを分かっている俺は、特に何の文句も言わず彼女のお世話になりきちんとお礼を言うようにした。
けど、唯一例外で下着の着せ替えをしようとして来た時だけ、叱った。流石に好きな女の子とはいえ自分のデリカシーゾーンを見せたくなかったからだ。あの時は、本当に焦ったな。
それを機に少しだけ、彼女の過保護が和らぎ、依然と同じように遊ぶ関係に戻った。
彼女が家にやって来て、何かをして遊ぶ関係に。
この関係は、小学校、中学校を卒業しても変わらなかった。
でも、変えよう思えば多分変えられた。俺の気持ちを打ち明ければ、千歳との関係は変わっていただろう。
しかし、この気持ちを打ち明けたら関係が壊れてしまうんじゃないかと怖くて、結局言えずじまい。俺はヘタレだった。
ちーちゃんは俺の側にいつも居てくれる。だから、焦らなくて良い。
そう自分に言い訳をして逃げていた。
逃げて来たツケが回ったのだろう。高校二年の夏の日。千歳から旧校舎に呼び出され、俺は衝撃の告白をされた。
『……私、彼氏が出来たの。だから、ごめんね。今日からはいつもみたいに遊べない』
『な!どういうことだよ!急に』
あまりの内容に、脳が受け入れることを拒み千歳に詰め寄る。だが、それは横から現れた男によって遮られた。
『はい、ストップストップ。これ以上人の彼女に近寄らないでくれるかなぁ〜。幼馴染の公太君』
『キミは、
俺は千歳の相手が一番あり得ないと思っていた神崎で目を剥いた。
千歳と俺の間を遮るようにして現れたこの男の名は、
その女子の中には当然千歳も含まれており、『コーくんが神崎みたいな嫌な男の子じゃなくて良かった』と悪い例の引き合いに出したり、神崎に声を掛けると、露骨に顔を顰め『ごめん、用事があるから』と嘘をつき逃げていた。
それ程までに嫌悪をしている相手と付き合う?
どうやったら、こそんな関係に至れるのか分からなかった。
当然、俺は嘘だ、と千歳と神崎の恋人関係を否定した。何か脅されているに決まっていると、神崎に詰め寄る。
『やめて。たかくんと私は心の底から好き合って、付き合ってるの。コーくん私は脅されてなんかないよ。その証拠に、たかくん。うんむ、ちゅ』
だが、それは誰よりも否定して欲しかった相手から、最悪の形で否定されてしまった。
俺から神崎を守るように身体を滑り込ませ、神崎の口へ熱烈なキスをしたのだ。
意味がわからなかった。つい先日まで、嫌いっていた相手にキスまでするなんて。
でも、身持ちの固い千歳がキスをするということは、本気で神崎のことを好いているという何よりの証拠で。
『うわぁぁぁーーーーーーーーー!!!』
俺はその事実が受けいられず、叫びながら旧校舎を飛び出した。
嘘だ。ありえない。
でも、キスをしていた。
嫌なら千歳は絶対しない。
なら、付き合ってる。
もっと、早く告白をしていれば。
どうしようもない現実に打ちのめされ、こんなことならもっと早く気持ちを打ち明けていれば、と後悔する。
だが、もう遅い。
千歳の横には俺じゃなくて神崎が居て、毎日楽しそうに過ごしていた。それは、とても俺には幸せそうに見えて。二人の関係を否定出来なかった。
その光景を見るのが辛くて、俺は親に遠く離れた県にある高校へ編入したいと頼み込みんだ。
普通ならそんなことで逃げるなと、一蹴されていただろう。
だが、千歳に彼氏が出来て塞ぎ込み弱っている俺は家族の目から見て、かなり不安になるものだったらしい。
祖父の家から通える高校であるならば、と条件を付けられたが俺は他県の高校へ編入することが出来た。
環境が変われば、千歳のことも忘れられる。そう思っていたが、旧校舎で見たあの光景が脳裏にこべりついてしまって忘れることなんかできなかった。
その結果、大学を卒業して社会人三年目の現在まで一度も彼女は出来ていない。
あの少年には、俺みたいにならないで欲しい。そんなことを願いながら、電車を待っていると俺の携帯に着信があった。
相手は、俺の母親から。
「最近帰省したばかりで話すことなんかないと思うんだが……親父が病気にでもなったか?」
帰省をしてから電話が掛かってくるのは珍しいため、俺は首を傾げながら電話に出た。
「もしもし、母さん。どうした?」
『あの、公太。伝えるか迷ったんだけど。一応伝えるわ。千歳ちゃんが今さっき亡くなったわ』
「え?」
母さんから知らされた衝撃の一報。俺はあまりの内容に持っていた携帯を手放した。
◇
「どうも、
「ありがとう。公太君。君は来てくれないと思ったたから嬉しいよ」
「いえ、長年一緒だった幼馴染が死んだんです。当然ですよ」
次の日。俺は有休を取って、千歳の葬式にやって来ていた。正直まだ頭が追いついていないが、きっと行かないとまた後悔すると思ってやって来たのだ。
「それで、千歳が亡くなったって聞いてすぐ飛んできたもので、亡くなった理由を知らないんですけど、何が原因なんですか?」
「キャバクラで働いている途中に酒を飲んだ男が暴れて、それに巻き込まれて運悪くね」
「キャバクラですか?あの神崎がそんな仕事に就くことを許しましたね」
「そうか、君は知らないんだったね。千歳は高校を卒業する前にクソ男と別れているんだ。最悪の形でね」
「最悪の形?」
俺は千歳の身に何が起きたのかを聞いた。
神崎は高校三年生の夏。千歳が赤子を身籠ったのを知って、数ヶ月後に何も言わずに姿をくらましたらしい。
「本当に愛していたらそんなことしない。どうしてそんなことが出来るんだ。恋人だろ!アイツは何処にいるんですか!?」
話を聞いた瞬間、俺はこの場にいない神崎に向けて怒りをぶち撒け、奴の居場所を聞くが誰も居場所はわからないようだ。
(本当に好き合っているならと諦めたのに。アイツは千歳のことも遊びだったのかよ!ふざけるな!)
俺はやり場のない怒りをぶつけるように、壁を思いっきり蹴った。冷静になるまで数分を要した。それでも、完全に落ち着けてはいないが話を聞けないわけじゃない。悟おじさんに続きを話すよう促した。
神崎が姿を消した時、既に中絶できる期間を過ぎており千歳は子供を産むしかなく、高校を中退。
神崎との子供を産んだ。正直あんな奴の子供を育てる義理はない。瑠璃おばさんは、こんな子は捨てるべきだと言ったが、千歳は生まれた子に罪はないと言って、子供を連れて家を飛び出したらしい。
しかし、高校を中退した千歳にマトモな職など見つかるはずもない。中卒女子が選べるのは水商売くらいだ。その中で、一番マトモなキャバ嬢に就いて何とか暮らしていたらしいが、
あまりに救いようない話。
神崎のせいで、俺の幼馴染の人生はボロボロだ。
あの時、俺が逃げずそばに居れば助けられたかもしれない。
大切な人を救えなかった後悔が俺を襲う。
「私はこんな子を引き取りませんからね!」
「俺のところもごめんだ」
俺はグッと拳を握り、震えていると会場に怒声が響き渡った。
そちらを見てみると、複数の大人達が言い争っていた。
何について話しているのかがイマイチ分からず、近くにいた人に話を聞くと千歳が生んだ子供を誰が育てるか押し付けあっているらしい。
当たり前だと思った。千歳を捨てたクソ野郎の遺伝子が半分入っている子供なんて、誰も育てたくはない。
俺も絶対育てない。
そう思っていたのだが、千歳の娘の顔を見たことで考えは一転した。
見た目は昔の千歳によく似ていてた。サラサラの黒い髪、整った顔立ちは明らかに千歳の血を引いていることが伺える。
笑えばきっと千歳同様可愛いのだろう。だが、それは見ることができない。何故なら表情が死んでいたのだ。幼い子供が浮かべるべきではない何もかもを諦めた無の表情。放っておけば、すぐに千歳の後を追いかねないような危ない雰囲気をまとっていたのだ。
放っておいたら不味い。
クソ野郎の血を引いているから、育てたくはないが死んで欲しいとまで思っていない。
孤児院にでも預けられ、適当な小学校、中学校、高校に進学してその後、社会に出れば良いだろと思っていた。
だが、あの顔を見て分かってしまった。誰かが繋ぎ止めないと、確実に何処かで消えてしまう。
でも、この場にその誰かはいない。皆んなが少女を嫌悪し手を差し伸べない。駄目だ。それだけは駄目だ。ここで、それをしたら俺は神崎と同類のゴミになってしまう。それだけは嫌だ。
「俺が育てます」
「え?」
気づけば、俺は感情の衝動に身任せそんなことを口にしていた。
千歳の娘は俺の方を向き、顔を驚愕に染めるのだった。
◇
「……なんで私を育てるなんて言ったの?」
葬式を終え、家に帰ると今までいくら話しかけても口を開かなかった千歳の娘である
「お前を見捨てたら、俺はお前の親父みたいなクズになるからだよ」
千冬の質問に対し、俺は吐き捨てるように神崎みたいになりたくなかったからだと答える。
俺の答えを聞いた千冬は、そっか、と小さく返事をするとまた口をつぐみ黙り込んだ。
「飯何食いたい?」
「……いらない」
「カレーな。オッケー、すぐ作るから待ってろ」
「話聞いてた?」
「聞こえてなかった」
「いらな……〜〜〜!?」
ぐぅーーー。
否定しようしたところで身体が千冬を裏切り、盛大に腹の虫が鳴った。
顔を真っ赤に染め、腹を抑え恥ずかしそうに俯く千冬。
「腹の虫はそうでもないってよ。カレーなんて簡単に出来る。不味いもんなんてでねぇさ」
俺はそう千冬に告げ、調理に取り掛かる。
一時間後、カレーが完成。俺と千冬の分をよそって、テーブルに置く。
「飯にするぞ」
「…私はいい」
「我慢すんなガキ。今も腹の虫が鳴ってんの聞こえてんだよ。変な意地を張るな」
「……お母さんから聞いてた人と違う」
ボソッと小さく何かを呟き、その後大きな溜息を吐くと渋々といった感じで、椅子に座った。
俺はそれを見て、二つのコップにお茶を入れテーブルに置くと彼女に向かい合うように座る。
「いただきます」
「…いただきます」
普段は食前にいただきますなんて言わないが、俺は現在子供を育てる立場。子供が礼儀を忘れないようにするため、模範的に振る舞われわければならない。
だから、久方ぶりに実家以外でいただきますなんて言葉を言った。
千冬は、最初お茶に口をつけ次いでカレーを口にする。
「美味いか?」
「普通」
味について訊ねると、ぶっきらぼうに普通と言われた。
まぁ、市販のルーに書かれているレシピを見て作ったのだ。普通になるのは当然といえば当然だ。
俺は苦笑を浮かべ、カレーを頬張る。
「確かに普通だな」
「……」
会話を続けようと、カレーの味について感想を溢したが千冬は何も答えず、淡々とカレー食べ会話はそこで終了となった。
「風呂が沸いたから入れ」
一時間後、腹に入ったカレーが程よく消化されたところで風呂を洗い、沸かすと千冬に入るよう指示する。
「嫌だ」
が、千冬は嫌そうに顔を顰めた。おそらく、裸になったら何かされるのではないかと警戒しているのだろう。
「なんだ一人で入れないのか?じゃあ俺と一緒に「それなら一人で入る」…そうかい。じゃあ、そこにタオルあるからそれ持って行ってこいよ」
俺はそんなことをするつもりは毛頭ないが、少しだけ乗ってやると、本当に嫌そうな顔を浮かべそそくさとタオルを持って風呂場に向かっていった。
俺はそれを眺めながら、面倒なガキを引き取ったなと考えた。
あんな醜いなすり付け合いを体験した後だ。人を信頼したくないと思う気持ちも分かる。しかも、自分のことを捨てた親と同じ性別ならなおのこと。
この信頼を解くのはかなり面倒だ。が、しなければ今後の生活に問題が出る。早く解決しなければならない。
そんなわけで、どうやって仲良くなろうかとスマホを突いていると千冬が全く風呂から出てこないことに気がついた。女の子だから風呂が長いのは分かるが、千冬が入って三十分強経っている。大人ならまだしも子供だと少し長過ぎる気がした。
俺は少し様子が気になり、風呂場の近くまで行くと全く音が聞こえない。
悪い予感がした。俺は勢いよく、扉を開け浴室に入るとお湯に顔を突っ込みぷかぷかと浮いている千冬がいた。
急いで、千冬をお湯から救出する。
幸い、顔をつけてそんなに経っていないのか千冬は意識が朧気だがあり、少しすると水をえづきながら吐き出した。
俺はなんとか間に合ったことに安堵し、その場に座り込む。
「ケホッ、ケホッ。邪魔しないで」
水を吐き出しながら、俺を射殺さんばかりに睨みつけてくる千冬。
「するに決まってんだろ。お前に死なれちゃ困るんだよ」
子供引き取ってすぐに、亡くなるとか外聞が悪過ぎる。
「嘘。ケホッ、お母さんが居ない今私なんか誰も必要としてない。ケホッケホッ!私に生きてる価値なんてない。放っておいてよ!」
顔を悲痛に歪め、千冬は叫んだ。
誰にも望まれない状況で生まれ、親族に味方はおらず味方は母親である千歳のみ。
そんなたった一人である味方である母がいなくなり、孤立無縁状態で親族には罵詈雑言をぶつけられれば傷つかないはずがない。自分を支えてくれるものがない中の、言葉のナイフは千冬の心をズタボロに傷付けた。今すぐ消えてしまいたいと思うほどに。
俺は千冬の慟哭を真正面から受け止めると、彼女の体を抱きしめた。
「千冬に生きる価値はあるさ。千冬は俺が好きだった幼馴染が残したたった一つの繋がりだ。未練タラタラの俺はそれを途切れさせたくない。アイツにしてやれなかったことをお前にしてやりたい。今は自分のために生きるのが無理なら、俺のために生きろ。少なくとも俺はお前を必要としてる」
これは自己満足だ。
千歳が辛い時に俺は側に居られなかった。俺は千歳を救えなかった。
だから、その代わりに今辛い状況にある千歳の娘である千冬を救うことで、罪滅ぼしをしようとしている。
本当に最低な理由
だが、こんな最低な理由でも俺は千冬を必要としていて、彼女を引き取ったのだ。
俺は今伝えたことご嘘じゃないと伝わるように、千冬の身体を強く抱きしめた。
「なにそれ〜〜!じぶんかってすぎるでしょぉぉ゛ぉぉ゛〜〜!」
千冬は俺の腕の中に蹲り、嗚咽混じりに罵倒してくる
「悪いな」
「う゛わ゛ぁ゛ぁぁーーーー!」
俺はそんな彼女の頭撫で謝ると、千冬は溜めていた涙を決壊させ大きな泣き声を上げた。
この事件を機に、千冬は俺に心多少開くようになり徐々に仲を深め、俺達はいつしか家族になった。といっても、千歳の一件で変わってしまった粗雑な口調のせいか、お父さんという感じがせずお兄ちゃんみたいな感じだと千冬に言われた。
別に千冬の父親になりたかった訳じゃなかったので、それは別にいいのだが。生意気を言われることが多くて、少し苛つくことがある。
千歳はとても優しくて、おおらかだったのに一体誰に似たんだか。
そんなわけで、何やかんやあって俺は何とか千冬を高校三年生まで育ってきった。
まぁ、子供を育てたことのない俺一人の力だけじゃ色々気づかないことがあって、その時は両親に協力してもらったけど。おおむね、一人で育ってきったと言える。
今日は千冬の高校卒業式。彼女が学生を卒業して大人になる日だ。仕事はもう見つかっていて、自動車会社の営業部に配属されることになっている。
千歳がやっていたキャバ嬢のように命の危険もない。きっと、千冬は大丈夫だろう。
「おい、行くぞ千冬」
ネクタイを締め直し、千冬を呼ぶ。
「ちょっと待って公太。渡したいものがあるから。あ、あったあった。はいこれ」
サラサラとした長い髪をはためかせ、部屋を出てきた千冬は俺に一枚の手紙を手渡してきた。
「なんだこれ?随分古い手紙だな」
「それ、お母さんから公太への手紙。送るつもりはないって言ってたやつだけど、公太は読んでおいた方がいいと思って」
「そうなのか、何ですぐに渡してくれなかったんだよ?」
「最近昔の鞄をひっくり返した時に見つけたのよ。後は少し、サプライズのために」
そう言って、千冬は儚げな笑みを浮かべた。
俺は千冬が何故そんなかおをするのかが分からず問い詰めようとしたが、まぁ、細かいことはいいから読んでよと、先手を取られてしまい叶わなかった。
後でしっかり問い詰めてやろう。
俺はそう決意を固め、千歳からの手紙を開いた。
『こーくんへ
と手紙を書き出したはいるけど、これを私がコーくんへ送ることはないと思います。だって、これを神崎に見つかったらコーくんに迷惑をかけちゃうから。
私はコーくんのことが大好きです。こんなことを書いても信じてもらえないと思うけど、本当に大好きです。幼い頃からずっと好き。この気持ちは今も昔も変わりません。神崎と付き合ってたから説得力はないけど。でも、本当です。私が愛した男のはコーくんただ一人だけです。出来るなら、ずっと側に居たかった。でも、馬鹿な私は神崎からコーくんを守る方法を自分の身を差し出すしか思いつかなくて、コーくんを傷つけてしまった。本当に後悔している。私が相談していれば、こんな未来は訪れなかったかもしれないのに。馬鹿だよね。あの男が約束を破るかもしれない可能性だってあったし、そもそもあの脅し自体がブラフだった可能性もあったのに。
結局、コーくんは神崎に何もされなかったのかな?分からない。でも、私が身を差し出したことで何もないんだったら嬉しいな。ようやく、コーくんにトラックから助けてもらった時の約束を果たせたんだから。
そうだとしたら、私は満足だ。
……ごめんなさい。嘘です。本当はコーくんと結婚したかったな』
「は、何だよそれ?アイツと付き合ったのは俺のためなのかよ。ふざけるな。俺は千歳を失うために、あの日約束したんじゃない。あぁ、クッソ。何で、今になってこんなことを伝えるんだよ。せっかく未練が断てそうだったのに。こんなの見ちまったら戻りたくなっちまうじゃねぇか」
手紙を読んだ俺は、大粒の涙を溢し手紙を力の限り握りしめた。
千歳の代わりに千冬を助け育てることで、あの頃の後悔を乗り越えようと思ってたのに。これじゃあ、無理だ。後悔が今までにないくらい溢れ出してくる。
あぁ、俺もみーちゃんと結婚したかったよ。
俺も君のことが今も大好きだ。
「じゃあ、戻ってきなよ公太。過去に」
「……ち……ふゆ?」
首筋に痛みが走り俺の視界が揺らぐ。
後ろを振り向くと、そこには千冬が立っていた。
「今まで、私を育ててくれてありがとう。大好きだよ、公太。バイバイ。あっちで幸せになってね」
「……ま…て…ど……う……い…う」
千冬に何とか手を伸ばそうとするが、俺の手が届くその前に意識が闇に沈んだ。
◇
「………コーくん、コーくん。起きないと遅刻しちゃうよ?」
「……う、うぅん。千冬?」
聞き覚えのある声が耳を撫で、俺の意識が覚醒する。眩し過ぎる朝の日差しに目を細めながら、目を開けると黒髪の少女が俺の顔を覗き込んでいた。
「もう、寝ぼけてるの?私は千冬じゃないよ。千歳だよ」
「いやいや、千歳が俺の家にいるわけない。千冬変な悪戯はよせ、千歳はもう死んでるんだぞ。俺はもうその事実を受け入れてる」
「コーくん!勝手に人のことを殺さないでくれるかな?私はこの通りピンピンと生きてますけど」
「だから嘘をつくなって……えっ?実家の部屋」
そんなことはありえるはずがないだろう?と千冬に言い聞かせながら体を起こし、周囲を確認するとそこは千冬と一緒に生活をしていたアパートではなく、俺の実家で困惑した。
別に実家に運ばれているくらいなら、驚かない。一応アパートからタクシーで大量のお金を払えば実家に行ける距離だからだ。俺が意識を失っている間に運べなくはない。
では、何故俺が困惑しているのかというと、部屋のものが綺麗だったからだ。
今の俺の部屋は日に焼けて、部屋全体が色褪せている。それなのに、目を覚ましたこの部屋は新品のように色鮮やかで綺麗なのだ。まるで、高校時代の時のように。
「過去に戻ってるのか?俺」
そう口には出したが、まだ半信半疑の状態。
が、俺は部屋の端にある姿鏡を見て確信した。
鏡に映る俺は、紛れもなく高校時代の俺だった。少し前髪が長くて野暮ったいこの感じは間違いない。一年生の俺だ。
「てことは、本当に…千歳なのか?」
「さっきからそう言ってるでしょうコーくん。どうしたの。何か悪いものでも食べた?口調も変だし。俺なんて使ってなかったでしょ?」
よく見ると千冬に似ているけど、違う。目尻が千冬は上向きだがこちらは垂れていて、胸が少し大きい。
「ずっと会いたかった。千歳!」
「ちょっ、コーくん!?」
俺は生きている千歳と再会できたことに感動し、思わず抱きつく。過去の俺なら絶対にしなかった行動に千歳は目を白黒させ驚いた。
もう絶対に俺は君の側を離れない。
俺はギュッと彼女を抱きしめ、そう決意する。
ひとしきり千歳の温もりを堪能すると顔を上げ、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめずっと伝えたかったことを口にした。
「千歳、好きだ。愛してる。だから付き合ってくれ」
ムードもへったくれもない突然の告白。
未来で千歳の想いを知った上でする、ズルい告白。
だけど、もう後悔はしたくないから。
君を離したくないから。
俺は長年ずっと言えずにいた想いをぶつけた。
「ほぇ?えっ、嘘。今、私コーくんから告白されてる?夢じゃないよね」
突然の告白に慌てふためく千歳。俺はそんな彼女の様子が微笑ましくて、愛おしくて。頬を優しくつねり、夢じゃないことを教える。
「いふぁい、本当に夢じゃない。現実なの」
「そうだ。これは紛れもない現実だ千歳。もう一度言う、好きだ愛してる千歳。俺と結婚を前提に付き合ってくれ」
「うぁっ、ちょっと待って。心の準備が全然出てきてなくて、えっと」
混乱している彼女を落ち着かせるべく、俺は一つ一つ彼女に問いかける。
「千歳は俺のことが嫌いか?」
「えっ?私がコーくんを嫌うことなんてあり得ないよ。嫌いなわけない」
「じゃあ、俺のことは好きか?」
「……う、うん。好きだよ」
「異性として?」
「……はぃ」
「俺もだ。だから、千歳付き合おう。絶対幸せにしてみせる」
「……不束者ですがよろしくお願いします。コーくん」
俺達はお互いの想いを丁寧に打ち明け、恋人になった。ずっと、結ばれたかった相手と結ばれた俺達は静かに顔を近づけ、そっと唇を重ねる。
初めてのキスは、とても甘く幸福の味がした。
この時、俺と千歳はお互いの頬に大きな一粒の涙が伝った。
「…コーくんと私付き合ってるんだよね?ずっとずっとコーくんと恋人になりたいって夢見てたから、現実感が全然ないよ」
「俺もだ」
俺達はキスを終えると、手を繋ぎ二人で余韻に浸る。
千歳と結ばれたのが幸せ過ぎて、自分で告白したくせに現実感が薄い。
だが、これは現実。俺はどういうわけか過去の世界に戻ってきたのだ。
横を見ると、頬を緩ませニヤニヤと幸せそうな千歳がいる。
未来から戻ってきた俺は、早速過去を変えた。だが、まだ気は抜けない。
千歳は神崎に俺を襲うと脅され、自身の身を差し出しす可能性がある。
そこをどうにかしなければ、また前と同じような未来を辿るいや、もっと酷い未来になるかもしれない。
「千歳。付き合う上で一つ約束したいことがあるんだ」
「ん、な〜に〜コーくん。約束って」
近い将来起こる事件をどうやって、解決するか考えながら俺は千歳にとある約束を一つ取り付けるのだった。
俺がタイムリープをして、暫くの時が流れ一年生の秋を迎えたある日。俺が学校を休むんだ、次の日千歳の様子がおかくしなった。どうかしたのかと聞いても、アハハッ何でもないよと乾いた笑みを浮かべ誤魔化される。明らかに変だ。
俺は千歳にいくら聞いてもはぐらかされるため、一旦素直に引き下がった。そして、その放課後千歳は俺を置いて先に帰ると言って何処かへ消えた。
が、どこに向かうかは目星が付いている。俺は忌まわしい記憶を植え付けられた、あの場所へ足を運んだ。
「返答は決まったか?千歳」
「はい、決めました。ただし、約束は守ってくださいよ」
「ぐへへ、分かってるよ。俺は約束を守る男だ」
「おい、人の彼女に何しようとしてんだ?ゴミ野郎」
旧校舎のとある一室。神崎が発情期の猿のように間抜けな顔を浮かべ、千歳の豊かな胸を触ろうとしていたところを腕を掴んで阻止する。
「あん?野神君邪魔しないでくれるかなぁ?千歳はたった今俺の彼女になったんだ」
「コーくん!?」
突如現れた俺に驚く千歳と、お楽しみを邪魔をされ眉間に皺を寄せ睨みつけてくる神崎。
「へぇ、千歳はまだ何も答えてないのによくそんなことが言えるな」
俺はそんな神崎に冷めた目を返す。
「当然だよ。だって俺たちはお互いを好き合っているんだから。ね、千歳?」
「う、うん。そうだね。コーくん、私と高雄くんはお互いのことが好きで」
「お前は頭湧いてんだろ?どこからどう見ても、千歳は脅迫されて嫌々言ってんだろ」
そう言って俺はポッケに入っていたスマホを取り出し、とある動画を流した。
『千歳ちゃんいきなり呼んでごめんねぇ〜。話っていうのは、分かっていると思うけど告白。千歳ちゃん、好きだ。俺と付き合ってよ』
『すいません。私にはコーくんと素敵な彼女がいるので』
『うん、知ってる。だけど、俺の人の女の方が燃えちゃう性でさ。どんな手を使ってでも、手に入れたくなるんだよね。特に男の方をボコボコにして地べたに這いつくばらせた状態で、女の子を呼んで無理矢理とかお気に入りなんだ』
『なっ!?そんなの犯罪じゃないですか。許されませんよ』
『やだな〜千歳ちゃん冗談じゃん。そんな過激なことはしないよ。まぁ、それより少し優しいことなら、親父に頼めば揉み消してくれるからよくやるけど。で、千歳ちゃんはどうする?』
『少し時間をください』
「で、これでも同じことが言えるか?神崎君」
動画を止め、神崎に再度訊ねる。
「ッチ!面倒くせぇ!野神動画を消せ」
目を血走らせ怒声を上げながら、突撃してくる神崎。
「そんな頼み方で消すわないだろ。馬鹿が。後お前はもうお終いだよ」
俺はそう言って合図を出すと、警察官が教室に数人突撃した。
「神崎 高雄。脅迫罪で逮捕する」
「はっ、警察かよ。だが、捕まったところでどうってことねぇ。親父がいつものように事件を揉み消してくれる。すぐに戻ってきて野神と千歳の二人をぐちょぐちょにしてやんよ」
「残念だがそれは叶わない。神崎少年。何故なら、そこの彼女が今この状況を生配信していたからだ。流石に君のお父上である神崎議員でもインターネットを通して物凄いスピードで拡散された動画を全て消すことなんて不可能だよ」
「は?」
間抜けヅラを浮かべる神崎に向けて、千歳が今までずっと配信状態で隠し持っていたスマホを見せつけた。
画面には沢山のコメントが流ている。『クソヤンキー君人生終了のお知らせ』、『女の子脅して迫るとか最低だな』その全てが神崎を非難するものばかり、誰も神崎を擁護する者はいない。
「はっ、はっはっは。俺の人生終わり?こんな奴らのせいで、俺のバラ色人生が、ふざけるなよーー」
ネットに自分が脅迫しているところ拡散されたと理解した神崎は狂ったように笑い出し、ナイフを取り出して俺に向かって駆け出してくる。
「確保!」
「ちょっ、離せよ!ゴミども。俺はアイツらの人生をぐちゃぐちゃにすんだ!はなせーーー!」
が、神崎は警察によってすぐに取り押さえられ、教室の外へ連れ出された。
それを見届けた俺は、千歳のスマホを操作し生放送を閉じる。
「はぁ〜〜、緊張した」
緊張が解け、その場にへたり込む千歳。
「なかなかの名演技だったぞ、千歳。本当に脅されて葛藤している女の子みたいだった」
「えへへ、そうかな。結構ぎこちなかったと思うけど」
俺は彼女の側に駆け寄り、手を差し出し褒めると千歳は嬉しそうに顔を綻ばせ手を取った。
皆んなもう分かっているだろうが、この一連の騒動を解決するために俺は千歳に協力してもらっていた。
前世あったことをボカして、神崎が彼氏を亡き者にすると脅す最低の野郎だと説明し、もし、アイツに呼び出されたら俺に通話をかけて録画開始状態にして行くよう頼んだ。
そして、次の日は普段と少し違う態度を取ってくれと指示をしたら、前世高雄に奪われた時と同じくらいよそよそしくて、一瞬本当にまた同じ未来を辿るんじゃないかと思ってしまったほどだ。
その演技のおかげで、神崎が違和感を持つことなくここに呼び出すことができた。
俺はポンポンと千歳の頭を撫でる。それをひとしきり終えると、通報して来てもらった警官に呼ばれ改めて今回の騒動について説明するのだった。
その後、神崎は過去に揉み消された被害者達から改めて訴えられ、多くの罪が明るみになりその一生を牢屋で過ごすことになる。表に出てくる心配はなくなった。
俺は千歳とその後も良好な恋人関係を作り、大学を卒業すると結婚。娘が一人生まれた。
名前は、千冬。
こんなことをしてもアイツにはもう会えないと分かっているけど、娘にはこの名前を付けようと決めていた。
最後の最後まで面倒を見れなかった俺の後悔を晴らすための身勝手な理由だが。
千歳は何も聞かず、娘にこの名前を付けることを許してくれた。
本当に感謝している。
「アイツ何してんのかな?」
未来で一人上手く暮らせているだろうか?千冬はしっかりしてたから大丈夫だと思うけど。
「パパ、カレーまだ?」
「もう出来てる、椅子に座って待ってろ」
娘の千冬にカレーを早く出すようせがまれ、思考を中断。俺は二人分のカレーを用意し、テーブルに置く。
千歳の分を用意していないのは、アイツは友人達と県外へ旅行に行っており、今日は家に帰ってこない。
だから、普段料理をしない俺が珍しくカレーを作っているというわけだ。
「いただきます」
「いただきまーす」
手を合わせ食前の言葉を口にする。
千冬はそれを終えると、真っ先にカレーを口にする。
「美味いか?」
「普通」
そう言って、俺はカレーを黙々と食べる千冬を見て苦笑すると、対照に千冬は目を細めはにかんだ。
短編置き場 3pu (旧名 睡眠が足りない人) @mainstume
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