マイナス4話(中学生編三節)

目の前に血の池が二つ。転がった肉体が二つ。そして、俺を呆然と眺める拓斗。

「っ…。よく、やった、わ…。」

「師匠、だめです無理に話したら…。」

刃物が胸を貫通している師匠をゆっくり床に寝かせる。

「今救急車を」

「いえ…もう助からないわ、私は…それより誠…手を貸しなさい…。」

ゆっくり師匠が差し出した手を握ると、師匠から何らかのエネルギーが流れてくるのが分かった。

「これは…。」

「私の最後の切り札であり、形見、とでも言おうかしら…。」

「そんな…。」

ゆっくりと瞼を閉じ始める師匠。

「し、師匠!、せ、せめて最後に名前を…。」

「…椿…。」

「椿…ツバキさん…今まで、ありがとう…。」

師匠、椿さんは、俺の手の中で静かに息を引き取った。

「拓斗さん…。俺は一体、どうしたら…。」

いつの間にか我を取り戻していた拓斗に問う。

「…あいつは、お前にあるものを託した。それは…。」

いきなり目の前に何かの扉が現れる。

「あいつの能力、時空を操る能力だ。」



 拓斗に言われるままに時空の狭間とやらに入る。そこには広大な草原が広がっていた。

「ここが…時空の狭間。あいつの隠れ家さ。」

拓斗が指さした向こうには小さな木造つくりの和風の家があった。看板が小さく掲げられていて、[なんでも屋]と書かれている。

拓斗と小さな店と…振り返り、くぐって来た時空間の穴を見つめ、俺は決心した。

「拓斗さん。俺…今日で大山誠、やめます。」

「どういうことだ…?」

「今日から俺は…霧崎静火と名乗ります。」

「…まさか。」

「俺の父親になってくれませんか?」

すると拓斗はニッと笑いこう答えた。

「もちろん良いぞ。」



 「ところで、家はどうします?」

一度自宅に戻りながら拓斗に聞く。

「お前に任せる。」

仕方ないのでお金や売れそうなものを探し出し師匠の家に運ぶ。と、その時

「…お前誰だ?」

金目の物を漁っている最中、母親のクローゼットの中で一人の少年を見つけた。ものすごくやせ細っている。

「…大山…康太。」




康太から聞いた話を一言でまとめると、俺の隠し弟で、小学5年生らしい。

「お前…どうする?」

血まみれになった両親を見て吐いている康太の背中に声をかける。しばらくすると返事が返ってくる。

「お兄ちゃんたちについていく…。」

「…

名前も変わるが、良いか?」

こくりとうなずく康太。

「じゃあ、今日からおまえは…霧崎優希だ。」


「本当に良いんだな?」

自宅の庭に3人並んで立った所で拓斗に聞かれる。自宅は…中も外も外壁も灯油を垂らしてあった。

「これから僕らは新しい人生を歩むんだ。…昔の痕跡なんて残しておくだけ無駄だ。」

心配そうに俺を見る拓斗に俺は笑って言った。

「さ、俺の気分が変わる前に燃やすぞ。」



~こうして、霧崎一家の新しい生活が始まった~



おまけ

拓斗、優希と時空の狭間で始めてから五日後…。拓斗の発案により、万事屋の経営を俺が引き継ぐ事になった。

「静火、来てくれ。」

車庫へ拓斗に呼び出される。車庫にはまだ何もないはずだ。

「わぁ…。」

思わず声を漏らした。昨日まで車一台しかスペースがなかった車庫が車が五台は楽に入るスペースになっていたのだ。そしてその車庫の真ん中には

「…何、これ?」

青のスポーツカーが二台停められていた。

「こっちは元俺の愛車、{SUBARU IMPREZZA GC8}だ。」

「…元?」

「こいつは、お前にやる。運転は教えてやるよ。」

「まじか…。」

その、一見古そうなスポーツカーを眺める。

「…こっちは?」

「あぁ、これは…椿の愛車だ…。NISSANの180SXってやつだ。」

「…。」

「こいつは俺が受け継ぐさ。」

この時俺は知らなかった。その俺のものになった車に魂が宿っていて、ましてや俺を守るなんて…それは、また別のお話。

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万事屋霧崎の不思議な事件簿(過去編) 万事屋 霧崎静火 @yorozuyakirisaki

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