第33話 最終話 命
「本当に食べないんですか? 」
「普通の食事には興味が無い。でも真日君は食べなきゃ駄目よ、人間の成長期なんだから」
「はい・・・」
「どうした、真日、元気ないな? 」
実は個人的なことでコリコに聞いてみたいことがあった。
「うん・・・それがね・・・お母さんが体調が悪いみたいで。この前おじいちゃんが癌で亡くなったばかりだから、心配なんだ。その・・・・・」
「珍しい、おまえが個人的な頼み事か」
「良い子ね・・・優しい・・・」
「大丈夫だよ、お前のお母さんは食あたりみたいなものだから」
「食あたりにしては、長いけど・・・」
「真日君、心配ないって、大丈夫よ、コリコには見えてるから。自分の心以外は」
「なんだよ! 」「ハハハハハ」
「カシガジさんは帰りも歩きですか? 」
「もちろん!! 登山用のリュックに必要なものは全部入れてある、山に隠しているけど。ああ、日帰りでしょ、コリコ、もうそろそろ帰る時間じゃないの? 」
「帰りは電車ですから・・・あ・・・コリコ・・・カシガジさんを」
「ああ、お前のことだから言うと思った、カシガジ、送ってやるよ。道すがらちょうど油目ステーションもあるだろう? お菓子配りも出来るしな、ちょうどいい」
「ありがとう! コリコ!! やっぱりあんたは最高!! ああ、抱きつきたいけど、アクリル板があったわね」
食事を終え、道からそう離れていないところに見えないようにしてあるカシガジのリュックを見つけ、コリコはまた車に変化した。
「早いわね・・・相変わらず・・・考えられないスピード」
ため息交じりでカシガジは言った。妖怪としてのコリコは、やはり憧れなのだ。でもそのコリコが消える寸前まで追い込まれ、また復活したことを、きっと普通の妖怪たちは喜んでいるに違いない。
「大丈夫か? 駅まで送らなくて、真日」
「すぐに高速に乗った方が良いよ、雨が降りそうだから」
「それは面倒だ、じゃあな、また。カシガジ、運転席に座ってくれ、真似だけして」
「最近自動運転があるでしょ、大丈夫じゃない? 」
「その車種じゃないから駄目、ハンドルから手を放すなよ」
「結構面倒」妖怪同士の楽しげな会話が続く中、僕は一人、駅に向かうバスに乗った。
「すごいな・・・歩いてか・・・妖怪も努力しているんだ」
コリコが僕をカシガジに会わせた意味がわかった気がした。でもhi一人で電車に揺られていると、急に不安になった。
「まさか・・・今日が最後って言うわけじゃないよね、このまま永久に会えなくなるなんて、忘れてしまうなんてないよね」
そんな考えが体中を巡り、緊張したけれど、何故か僕は疲れと興奮から、少し眠ってしまった。そしてはっと目が覚めたとき、それが乗り換えの駅のすぐ手前だった事よりもコリコのことを覚えている自分にほっとして、ホームの階段の上り下りを、誰よりも楽しい気持ちでやれた。
でも家に帰ると、やっぱりお母さんはちょっと体調が良くなさそうで、夕食の時、改まって僕に言った。
「真日、お父さんとも話したんだけれど、お母さん仕事を辞めようと思うの」
「え! 体調が・・・そんなに悪いの? 」
すると、お父さんがしばらく大笑いした。お母さんも何となくだけれど笑うので、僕は、ほんの少し安心は出来たけれど
「ほらやっぱり・・・真日はそうは思わないと言っただろう?
ハハハ!!! 」お父さんは、ちょっと失礼なほど笑ったままだった。
それにお母さんはちょっと怒ったような感じもした。でも
「あのね・・・弟か妹かが出来るのよ・・・」
「え!! 妊娠で・・・つわり・・・の症状だってことなの? 」
「そういうこと、高齢出産だから・・・まあもしかしたら色々真日に迷惑をかけるかもしれないから・・・よろしくね」
「どっちが良い、真日、男か女か、まだちょっとわからないんだって」
「どっちでもいいよ、お母さんも赤ちゃんも健康なら」
「真日! ありがとう!! 」
今度コリコに会うときは、どんな話をしたら良いんだろうと僕は思った。
妖怪新化世代 狐狸ボーイ @watakasann
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます