貴族

@0000_nishiki

豪華客船


___ベネット家の元に一通の招待状が届く。


届いたのは建設費100億をも超える豪華客船_!


"Masquerade Rose" 号

(マスカレード・ローズ 号)


へ乗船の誘いだった ____。



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「…と、いう事らしいから是非皆で行きましょう…!」


ベネット家の長女、エレノア・ベネットはいつも通り優しく微笑みながら両手を合わせ皆に話しかけた。


「日にちは何時いつなのかしら…、それにチケットは何枚同封されていたの?」


同じくベネット家の長女、レイラ・ベネットは首を傾げ質問した。


「明日と書いてあるわね、枚数は…1…2……8枚入ってるわ」


「…。エレノア、本当に明日…?」


「招待してきて明日は不敬すぎるでしょ…」


ベネット家の次男、ジュリー・ベネットは不満そうな顔をしながら椅子に足を組んで座っている。


「ええ…、招待状にはそう書いてあるわ」


「…招待状が余って、その分が丁度ベネット家へ来たのかしら」


エレノア・レイラは"明日"という事に不思議がり、ジュリーは差出人の態度に対して怒っていた。


「そうですね。それに差出人が遠くから送ってきていて届くのが遅くなってしまった、…とか」


そうベネット家の長男、ソフィア・ベネットは疑問を解決するべく考えを言う。


「でも…せっかく誘われたのなら行かせて頂きたいわ」


「そうね。」


「僕も豪華客船乗りたい!!」


元気良く笑顔で目を輝かせながら言ったのはジュリーと同じくベネット家の次男、アルム・ベネットだ。


「なら…私も乗りたいです!」


アルムの後にベネット家次女のノラ・ベネットは小さく手をあげて言った。


「私も、お嬢様が行くのでしたらご一緒させて頂きたいです」


ノラと同じように小さく手を挙げそう言ったのはベネット家の執事、オスカー・キャンベル。


「ええ、…オスカーも一緒に行きましょう」


レイラは頷きながら言葉を返す。


「では、今此処にいる皆さんと…あと一人は…」


オスカーは顎に手を添えて周りを見回す。


「もちろん!わしだじぇ!!!!」


「そうですね、リアムさんでも誘いましょうか」


「なんでだじぇ?!やだやだやだーー!!わしも行くー!乗るー!」


「…子供のように駄々を捏ねないでください」


いきなり飛び出して来た、ベネット家と幼少期から関わりのあるシャルルは床に寝転び手足をバタバタと動かす。


「…良いわ、シャルルも行きましょう」


「レイラ〜〜!!流石レイラじゃ!!分かってるのぅ!!」


「お嬢様…、宜しいんですか?客船内で暴れ出したりしたら…」


「暴れるなんてしないじぇ!びゅーんて走り回るだけだから大丈夫だじぇ!!」


「…暴れるのとあまり変わらないんですよ、それは」



その光景を見てエレノアは微笑ましそうに笑う。


「ふふ、楽しそうで良いわね」


「…。そうですね、」


ソフィアは一瞬 楽しそうか…?と疑問に思ったがエレノアに対して反論するのはどうなのかと思い胸に留める。


「船って楽しいよねー!今まで何回も乗ったけど海が綺麗だし〜…」


アルムはそう言ってキラキラと太陽に照らされて光り輝く海を想像する。


「そう…?船は揺れるしあんま好きじゃないんだけど」


「ジュリーはそう思うの?まぁ確かに沈没したとか聞くと怖いよね」


「私もです!船はすごーい楽しいけど沈没するのは怖いですね…」


アルム・ジュリー・ノラも豪華客船の事を話し合っていた。

アルムは楽しそうに船の事を話し、ジュリーやノラは不安交じりの表情で話している。



__そして豪華客船へ翌日行くと決まった彼女らはパーティの支度や各々おのおのの事をする為解散した。



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「よし、お前らー!出陣だじぇー!!!」


「ふふ…シャルル様、出陣ではなく出発じゃないのかしら?」


「お?まぁそんな感じじゃ!」


「…適当」


ジュリーは呆れた表情でシャルルを見上げる。


「何故あの方が1番盛り上がっているんでしょう?」


「…きっと、楽しみなのよ」


同じく呆れるオスカーが軽蔑を含んだ質問をするとそれを見ていたレイラが答える。



「お兄様、今日はお洋服が違うんですね!」


「ああ、うん。気づいたの?」


「はい!!…なんていうお洋服なんですか?」


ノラは興味津々にソフィアの周りを歩いてまわる。


「ダークスーツかな、パーティとか正式な所に着ていく服だよ」


ソフィアはノラに視線を合わすよう、しゃがみながら言った。


「ダーク…ダークなのにダークじゃない…?」


「ふふ…、ダークカラーは黒だけじゃなくてネイビーやグレーも入るからね」



__正式な所に行くので、普段と服を変えてソフィアはネイビーのスーツに下は白シャツ、そしてネクタイは少し明るめの青色をしたものを付けていた。

他にもエレノアやレイラは普段ボンネットを付けているが今回は髪のアレンジをしている為、エレノアはふわっとした三つ編みを前に流し、頭には白い造花をあしらった冠。レイラは横の髪を少し前へ垂らし、頭の下の方で髪を軽くまとめていた。そしてアクセントの黒い造花の髪飾りをまとめた所でとめている。

普段はズボンのノラも今回は可愛らしい沢山の色の薔薇が付いている白いワンピースだ。髪型はいつもより高い位置で結びツインテールにして、白色のリボンを付けていた。



「くらい色のお洋服着てるの珍しい…!!」


「明るいと主催者でも無いのに目立つかなって…。ノラもいつもと雰囲気が違って可愛いね、似合ってるよ」


ソフィアはノラの頭を撫で、微笑みながらそう言った。

普段と格好が違う兄を前にしてノラは顔が少しだけ赤くなる。



「あ、船が来たー!!」


アルムがそう言うと皆荷物の確認と全員揃っているかの確認をし始める。



「全員居るわね。…さぁ、船が着いたわ!行きましょう…!」


エレノアのその声を聞き、8人は豪華客船へ乗船した。



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豪華客船に乗り込むと、船内員に案内されホールへ向かう。


ホールで待っていると辺りがいきなり暗くなり、前にあるステージがパッと光った。


「レディース アンド ジェントルメン〜…!今回は豪華客船・マスカレード ローズへのご乗船本当に有難うございます!!この豪華客船には此処、ローズホールをはじめとし様々な設備が御座います!未成年の方はご入場頂けませんがカジノ・ダーツなどの娯楽…そして皆さん各々のお部屋までついております!他にも設備は沢山あるので是非心ゆくまでお楽しみ下さい!…それでは!」


ステージ上に登壇していた男は光が消えると共に舞台裏へ消えていった。


「なんか、…なんか凄いね!!」


「何が凄いの」


アルムは船に乗る前より一層目を輝かせて言い、それをジュリーは呆れた表情で見ながら質問した。



「ディナーまで沢山時間があるわね…」


「ふふ、そうね。レイラは何処か行きたいところがあるのかしら?」


「特に無いわ、この豪華客船の事だってあまり知らないし…」


「それでしたら…1番上の階にある展望台はどうでしょうか?昼間でも良い景色が見られると評判ですので」


オスカーにそう言われ、レイラは少し考えた後頷いた。


「…そうね、行ってみるわ」


「あら、展望台へ行くの?私も着いて行って良いかしら…?」


「ええ。エレノアも行きましょう」


「…お嬢様!どこか行くんですか?」


エレノアがレイラと立ち去ろうとするのを見てソフィアは話しかける。


「ふふ、…ええ。レイラと展望台へ行ってくるわ」


「なら、僕も___」




『なに?!この子…!!』


いきなりホール内に大きな怒声が響き渡った。


客が一斉にその怒声がした方へ向く。


「前を見ないでこちらに走ってきたと思ったら…!急に私にぶつかって来たのよ!!」


「おー?!喧嘩か?喧嘩だじぇー?」


「シャルルさん…!今は駄目です」


空気を読まず向かおうとしたシャルルの袖の裾をソフィアは急いで掴み引き止める。



「……ご、ごめんなさい…ごめんなさい……!!」


少女は女性に謝り、そのまま走り去ってしまう。


…が、そのぶつかって来たという少女が涙を零しているのを見たノラは咄嗟に追いかける。


「あ、」


「走って行っちゃった…!…僕達も追いかけよう、ジュリー!」


「でも、…〜〜〜ッ分かったよ」


一緒に話していたジュリーとアルムはノラが行くのを見て同じく追いかけてしまう。



「んー…白いの白いの〜!!」


シャルルはソフィアの肩に腕を乗せながら話しかける。


「なんですか?…静かにしないと怒られますよ」


「違うじぇ!!!!!!ほら、走ってってるからわしも一緒に走りたい〜って思っただけじゃ〜」


シャルルはそう言うと手が出ていない裾で走り去って行くアルムとジュリーの方を指す。


「違くない……。…え、あの二人…!走って…」


走って何処かへ行ってしまう二人を見てソフィアはすぐエレノアの所へ行く。


「ごめんなさいお嬢様、少し…あの、…追いかけてきます」


「…ソフィア?」


エレノアはいきなりそう言われたことに驚いて呆然とし、何処かへ行くソフィアを見つめる。


「急いでいたようだけれど…」


「何かあったのかしら…?」


エレノアとレイラは顔を見合わせる。


「…。シャルルさん、先程何かありましたか?」


「さきほどー?なんもないじぇ?」


オスカーはシャルルの態度に少しイラつきながら再度聞く。


「見てたのは貴方しか居ないんですけど…、本当に?…何も?」


「おずがー今日は沢山話しかけてくるんだじぇ!!だからみんなたのしそーにわーって走っていっただけじゃ!」


「方向は」


「あっちだじぇ!」


先程ノラ達が向かった方へシャルルは何故かドヤ顔で指を指す。


「お嬢様…とエレノア様、皆さん走りながらあちらへ行かれたそうです。」


「そう…。取り敢えず、広い客船の中でもし迷子になられたら困るわ…。私達も行きましょう」


「ええ…!」


「わしも行くんだじぇ〜〜!!!!」


「……全く、お前は…」


楽しそうに着いて行くシャルルを心底呆れた顔で見ながらオスカーはため息をついた。



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「ノラちゃーん?いる?いるなら返事してー!!」


「静かにしないと怒られる…。…お兄様も言ってたし…」


「でもノラちゃんが…あ、いた!」


少女と話しているノラをアルムとジュリーは見つけ、駆け寄る。


「泣いてるんですか、?大丈夫?」


「う、…ッ…あ、あなたは…?」


「私は…ノラです!ベネット家のノラです!」


「の、ノラ…ちゃん?」


ノラは出来るだけ同じ位の歳であろう少女を安心させようとして笑顔で話しかける。


「僕はアルム・ベネットです」


「…ジュリー」


着いてきていた2人はノラの後ろから顔を出して同じように挨拶する。


「あ、ついてきてたんですか?」


後ろからした声に反応してノラは振り向きながら言う。


「うん、ノラちゃんが走って行っちゃうから」


「ごめんなさい…この子が泣いてて…」



「ジュリー、アルム!…とノラ!」


「あ、お兄様…!…ごめんなさい、勝手に走っていってしまって」


ジュリーは人が変わったように申し訳なさそうな顔をして謝る。


「それは大丈夫だけど…良かった、みんないる…」


走って行った全員がいるのを確認してソフィアは安心する。


「あ…、その女の子は?」


「誰なんだじぇ〜〜??」


シャルルはまた突然後ろから現れ、ソフィアの言葉に続けて質問した。



「…!…やっと…追いついたわ…」


「…大丈夫ですか?お嬢様、そちらでお休みに…」


「有難う、…大丈夫よ」


「歩きづらいものね」


後ろから来ていたエレノア達もノラ達の元へ追いつく。



「…わ、私は…メアリー。…メアリー・ローズ」


「メアリー様って言うんですか?よろしくお願いしますね!メアリー様!」


ノラは同年代の彼女に手を差し出す。


「私と…?良いの?」


「どうしてですか?お友達になりましょ!!」


「…!うん!」


メアリーは怯えていた顔から一転し明るい表情に変わる。

そして差し出されていた手と握手をした。


「ノラちゃん達は、…のベネット家の皆様ですか?」


「うん、そうですよ」


ソフィアはメアリーの質問に対して優しく答える。


「ベネット家…。…えっとー…お名前…」


「…!ごめんなさい、自己紹介をしてなかったですね。僕はソフィア・ベネットです。」


「エレノア・ベネットよ、宜しくお願いしますね」


「同じくベネット家のレイラよ。」


「レイラお嬢様の執事のオスカー・キャンベルと申します、よろしくお願い致しますね。」


「わしはシャルルだじぇ!!!!」


「しゃ、シャルル……。」


メアリーは一段と元気なシャルルに少し驚いて微笑むが…すぐまた悲しそうな顔に戻ってしまった。


「…メアリー様?大丈夫ですか?」


ノラは悲しそうな顔をしてるメアリーをじっと見つめて心配する。


「……私、…皆さんにお願いがあるんです。」


「お願い?なになに、なんでも聞きます!」


アルムがメアリーの傍に近付きながら言う。


「私の…お父さんを止めてください!」


「お父さん…?って、」


ノラが首を傾げる。


「この船の1番…偉い人……。皆さんに招待状を…多分、送った人です」


「…。貴方のお父様はジャンク・ローズ様と言うことかしら?」


レイラは確認する為、冷静に質問する。


「はい…」


「止めてってなに、どういう事」


ジュリーも少し興味が湧いてきたようでメアリーに問いかける。


「私のお父さん、この船…夜に沈没させようとしてて。夜…ディナーの後、花火のショーがあるんです。…その時に、」


「…。メアリーのお父さん、なんでそんな事しようとしてるんですか?」


ノラはメアリーの父が何故そんなことをしようとしているのか理由が知りたく、質問した。


「分からない…私にも分からないの…!だから…!!お願いします、助けてください…」


メアリーはまた泣きながら頭を下げてそう言った。



「…。そういう事でしたら、私達より警官の方へ相談した方が___」


「分かりました」


「………。」


オスカーの提案を遮り、ソフィアはメアリーのお願いを承諾する。

遮られたオスカーは何か言いたげに横目で見るが、表情をすぐ戻して前へ向き直す。


「私も、メアリー様のお願い聞きます!お友達だから…!」


「僕も出来ることはしたいです!」


ノラとアルムは続いて、メアリーの手を握りながらそう言う。


「ね、ジュリーも!」


「は、?!なんで僕…」



「うんうん!良いのぉ!!楽しそうだじぇ!」


「頭の中に"楽しそう"の考えしかないんですか?…貴方は。……態々巻き込まれる必要は無いのに」


「なんだじぇ〜?黒いの!そんな顔して!」


「いえ、何も。…ただ、私達だけで解決出来る事とそうでは無いことの区別を分かって頂きたいと思っただけです」


「ふむ……?」


シャルルは理解した様な理解していない様な顔をして片方の袖を頬に付け、少し首を傾げた。


「大丈夫かしら…。約束というのは責任が生じてしまうし…彼女の頼みを聞いてしまって、」


レイラは少し不安気な顔でノラ達を見つめる。


「きっと大丈夫よ。それに私達もいるわ」


不安な顔をしているレイラに向かって、エレノアは優しく微笑みかけながら言う。


「…。そうだと良いけれど…」




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メアリーの父が船を沈没させるという計画をしている事が分かった後、今後どうしようかディナーまでの間自室で少し休みながら考えようと思ったレイラ。レイラに着いて行くオスカーは2人で船内の廊下を歩いていた。


「本当に沈没を起こそうとしているのなら」


レイラは歩きながら、急に口を開き言った。


「…はい」


「彼女の…無謀なお願いを聞くことは正しいのかも知れないわ」


「…。ですが、私達に相談する事では…」


オスカーがそう言うと、レイラは歩くのをやめて振り向く。


「自分の父親よ。…警官に言ってしまったらきっと直ぐに取り押さえられるわ。…裏切るような感覚になってしまうんじゃないかしら」


「その父親の計画を私達に伝えた事がまず裏切りなのでは…?私達から警官へ伝える事も出来ますし。彼女の年齢より私達がお伝えした方が説得力もある」


「そうね。…でも、…信用してくれたのよ。…私達が他の"上級貴族"とは違く、優しそうに見えたから」


オスカーはレイラにそう言われ、一瞬黙ってしまう。


「…彼女を助けるとしても、計画しているのは彼女の父親自信なのに…。どうして父親の方も助けなければいけないんでしょう」


「………。彼女が言った"助けてください"は計画を実行しようとしている張本人の父親の事も…入っているのかもしれないわ」


「…!」


レイラから静かにそう言われて、オスカーは言葉が出なくなってしまう。


考える程難しく、複雑な心境になっていった。


「ああ…そうだわ。…ディナーまでに貴方も着替えてきたらどうかしら」


「着替え…?…いえ、私は大丈夫ですよ」


「…エレノアがアルムやジュリーに行ってあの二人も着替えると思うわ」


「ですが、私は執事の身なので…」


無理強むりじいはしないけれど…、良ければの話よ。では、またディナーの時に」


レイラは自身の部屋の前に着くと軽く微笑みドアを閉じた。


「…はい、時間になりましたらまたお迎えにあがります」


オスカーもドアの前で一礼し、部屋の前から立ち去った。



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「めっいくるーむ!めっいくるーむ!」


シャルルは片手を上げながら大声を出し廊下を歩いていた。


「ふふ、まさか船内にメイクルームもあるなんて…驚いたわ」


「そうですね。それにメイクルーム専用の従属員もいるみたいですし」


前を元気良く歩くシャルル、アルム・ジュリーを遠目に見ながらエレノアとソフィアとノラは後ろを歩く。


「楽しみだね!ジュリーはどんな服着たいの?」


「え、僕…?僕は…なんでも良いけど」


「わしはキラキラしたやつがいーじぇ!」


「あはは、良いね!似合いそう」


「そうですね!シャルルさんなら似合うと思います!!」


そして話しながら歩いていくとメイクルームに着く。


「ん〜??おーー!!おずがー!!!!!」


シャルルはオスカーが向かい側から来ているのを見つけて手を振る


「うわ…。なんで貴方も居るんですか…」


明らかに嫌そうな顔をしてオスカーもメイクルームの前へとまる。


「なんでってわしもめいくして貰うんだじぇ!!」


「…。メイク…と言うより髪のアレンジや服の貸出・気付けドレッシングでしょう」


「めいくとなにが違うんだじぇ、それ」


シャルルは質問するがオスカーは答えるのが面倒くさくなったようで無視する。


「私達は部屋の前で待っているから、行ってきて良いわよ」


「おーけーじゃ白いお人形!!!…よし、行くじぇ!!」


シャルルはGO!と上に手を掲げ、他の3人も部屋の中へ入って行った。



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4人は約1時間後部屋の外から出てくる。


「あら…、」


「あ!」



ジュリーはフリルが付いたブラウスに黒色の紐状のリボン、そしてグレーのジャケットを上から羽織り紫がかった白のショートパンツを履いている。普段は下ろしている前髪を両サイドに分けていた。

アルムは蝶ネクタイでは無く普通のネクタイをつけ、海のように綺麗な青色のジャケットを上に羽織り、下はいつも通りに黒のショートパンツ。正面から見て右の髪を耳にかけている。

オスカーは黒いシャツに青いネクタイ、グレーのベストを着て上も黒いジャケットを羽織り胸のポケットには黒い薔薇のブローチが付けてある。

髪型も正面から見て左分けをし、髪を上げていて黒色の手袋を付けていた。

そしてシャルルは少し水色がかったシャツの襟を少し開け、上にはダークグリーンのジャケットの前を開けて羽織り、胸にエメラルドグリーンの造花のブローチを付けている。髪は長い襟足を正面から見て右にまとめ紐状のリボンで結び前へ流していた。




「4人とも…凄く似合っているわ…!ね、ソフィア、ノラ」


「え、?ええ…!はい…!」


「はい!凄くかっよくて可愛いです!!」


エレノアは嬉しそうに微笑みながらソフィアとノラに話しかけ、話を振られると思って無かったソフィアは少し戸惑いながら答え、ノラは元気良く笑顔で答えた。


「どうしよう……俺…イケメンだじぇ?」


シャルルは目を輝かせてポーズを決めながら言う。


「あーかっこいいー凄いですね〜」


「なんじゃ黒いの!嫉妬しても良い事ないじぇ」


「誰が嫉妬するか」



「ジュリー!似合ってるね!!」


「えっ、あ…ありがと。アルムも似合ってるよ」


「本当?!レイラお姉様にも見せに行こうよ!」


そう言うとアルムはジュリーの手を掴んで自室がある方向を指差す。


「休んでるんじゃないの?…いきなり行って騒いでも迷惑じゃ、」


「そっか、…うん、そうだね!じゃあディナーの時に見せに行こ!」



「お嬢様はこれからどうしますか?…ノラも行きたい所はある?」


「そうね、…レイラと行こうと思ってた展望台へ行ってみようかしら」


「私も展望台へ行ってみたいです!」


「はい、分かりました」


「ソフィアは何処か行きたい所はないの?ふふ…、気になる場所があるなら行ってきても良いのよ」


エレノアは少し首を傾けて微笑みながら言う。


「特に無いので…お嬢様について行きますよ」


「そう?なら行きましょう」


エレノアがそう言うとエレノア・ソフィア・ノラは展望台へ向かった。



「なぁ〜〜暇じゃ〜…みんなどっか行っちゃったんだじぇ…」


「…では、私はディナー会場の方を見てくるので」



『〜……から………だ、………む』


オスカーが立ち去ろうとすると小声で話している従業員であろう2人が横を通り過ぎる。

気にせずオスカーは進もうとするがシャルルは通り過ぎて行った2人を追いかけ始めてしまった。


「…。」


着いていくシャルルを見て邪魔をしないか心配になりオスカーも後をつける。



「シャルルさん、邪魔をするつもりなら__」


「違うんだじぇ、なんか…あの二人嫌な感じがしたから…」


「野生の勘…ですか(笑)」


「…野生の本能じゃ」


「野生という事は認めるんですね」


2人は小声で話しながら後をつける。



すると従業員の2人は奥にある部屋の中へ入ってしまった。

ドアは付いていないようで、同じように部屋の中へ入り、2人は物陰に隠れる。

…が、従業員の男達は黙っているままだ。



「…。これ以上は干渉出来ませんし、戻りましょう」


「ん〜…」



『……沈没の計画はどうなっている』


「…!」


話し始めた従業員の1人の言葉を聞き、オスカーは目を見開く。


「?! けいか___んー!!ほふふぁー!!ふぁふぃふふふふぁふぇ!!!!(オスカー!何するんだじぇ!)」


「しー…!静かに」


叫ぼうとしたシャルルをオスカーは咄嗟にシャルルの口を手で抑えて止め、口元に人差し指を持っていく。


『…?そこに誰か居るのか…!』


「い、いや〜迷い込んだだけだじぇー!!!な?おずがー!!さぁ探検の続きじゃ〜〜!またのぉ!!!」


「…ッ。…あの馬鹿、」


従業員に見つかってしまい、シャルルは態とらしい言い訳をして部屋から走り去って行く。

その後を急いでオスカーは追いかける。


___


『……。名簿を見てあの二人を調べろ。関わっている奴らを船から降ろすよう仕向けるんだ。…無理矢理では無く何か降ろさせる理由を作れ』


『分かりました』




『あれは確か………ベネット家の…』



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「見て、ジュリー!壁の色んな所に宝石が埋め込まれてるよ!…可愛い色してるね、なんていうんだろ?」


「……ローズクォーツ。」


宝石を見ていたアルムを見ながらジュリーは小さく答える。


「えっ、ジュリーよく知ってるね。宝石に詳しいの?」


「いや…有名な宝石だから誰でも分かるよ」


アルムとジュリーは飾ってある展示品を見て回っていた。



「…ね、ジュリーなにみて___」


「特に興味無いけど…石像」


「避けて!!!!ジュリー!」


ジュリーが見ていた展示品の石像がグラッと動き、倒れてきていた。


「…は、」


アルムはジュリーの元へ駆け寄り、ジュリーの身体を思いっきり押す。


…そしてアルムの頭へ倒れてきた石像が当たり、アルムはその場に倒れてしまった。


「え…あ、アルム…?アルム!!!」



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「眺めが良くて…綺麗ね」


「海がきらきらーって宝石みたいに輝いて見えます!!」


「そうだね、本当に宝石みたい…」


展望台へ着いた3人は膨大に広がる海と空の景色を眺めていた。



『お寛ぎの所申し訳ございません…、エレノア様達のご家族のアルム・ベネット様が医務室に…。ですので来て頂けませんでしょうか…?』


後ろから従業員の男が頭を下げながら話しかけてくる。


「医務室に…?分かりましたわ、今すぐ向かいます…!」



「アルムくん…?大丈夫かな…、」


エレノア・ソフィア・ノラはアルムが運ばれた医務室へと向かった。


男は3人が向かったのを確認し少し微笑む。


「…?」


男が微笑んでいるのを見たソフィアは不審に思いながらも展望台をあとにした。



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レイラは椅子に座り、窓の外の広がる海を見ながら紅茶を飲んでいた。


するとドアをノックする音が聞こえる


「…どうぞ、お入りになってください」


「失礼致します、ご寛ぎの所本当に申し訳ないのですが…アルム・ベネット様が医務室に運ばれて……。なのでご家族のレイラ様も来て頂けないでしょうか?」


エレノア達に話しかけたように同じ従業員の男は頭を下げる。


「…!…承知致しました、今すぐ向かわせて頂きます。」


レイラは驚き一瞬表情が変わるが、すぐ冷静になり急いで席を立って部屋をあとにした。



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「…アルム、!」


レイラは医務室の前へ着くと静かにドアを開けながらアルムの名前を呼ぶ。


「ああ…!レイラも来たのね…!」


「エレノア…!…アルムは大丈夫なのかしら、」


「ええ、損傷は特に無くて…気絶して眠っているらしいわ」


「…そう、良かった…」


レイラは張り詰めた表情から少し安心した顔に変わる。


「石像が当たったという頭に傷はありませんが…一応専門医に見て頂いた方が宜しいかと。なので近くの港に寄り、下船する事を推奨致します」


医務室にいる医者の従属員は真剣な顔をして話す。


「………。下船、させて頂けますでしょうか」


「…!お姉様、船…降りるんですか?」


「レイラ…」


レイラが辛そうな顔をして判断したのをエレノアは心配そうに見つめる。


「そうね…。本当に、残念だけれど…ノラ、申し訳ないわ…」


「…大丈夫です、!アルムくんが心配ですし…!」


ノラは泣きそうになるのをやめ、前を向いて言う。


「僕のせいだよ…あの時ちゃんと周りを見て避けてれば、」


「…その場に僕は居なかったけど、ジュリーのせいでは無いと思うよ」


「…お兄様、」


自分を責めてしまうジュリーをソフィアは安心させるように言った。



「今回は降りることになってしまったけれど…またいつか行きましょう…!全員で」


エレノアは暗い雰囲気を変えようと微笑みながら柔らかな声で言う。



「…、ん」


「アルム!」


眠っていたアルムは目を覚まし、それ気づいたレイラはベッドの元へ急いで行く。


「大丈夫…?具合は?」


「あれ、お姉様…。うん、大丈夫だよ?…あ!見て!衣装とか髪とかやって貰ったんだー!」


「…そう、そうね。…よく似合っているわ」


レイラは優しくアルムの頭を撫でながら言った。


「ねぇ、もうすぐディナーの時間でしょ?早く行きたいな〜!」


「………。」


「お姉様?」


アルムの楽しみそうな声を聞き、レイラは余計に下船する事を言いづらくなってしまう。


「…今回は最寄りの港で下船、するのよ」


「え…?降りるの?どうして、?」


「アルム、頭に石像が当たったんでしょう?…直ぐに病院で診てもらうため、…降りるの」


「僕は大丈夫だよ…!元気だし…降りるなんて、平気だよ!」


「駄目よ。…アルム、貴方の為なの」


レイラはアルムの手を握りながら、分かって貰えるよう真剣に話す。


「でも…でもこれから…楽しい事があるし…!家、帰った後でも……だって…、」


アルムは言いながら涙を流し始めてしまう。


「……ごめんなさい、私が着いていれば良かったわ…」


エレノアもまた申し訳なさそうな顔で下を向く。



「…では、下船の手続きを…」


「待ってください」


医者がそう言い手続きを始めようとした時、ソフィアは言葉を発した。


「ここに、専門医の方を呼ぶ事は出来ないんですか?」


「……!いえ〜、でも…」


医者が途端に焦り出すのを見て何か別の理由があるのではと察したソフィアは更に言葉を重ねる。


「何か問題があるんでしょうか?…こちらへ呼ぶ時のお金は勿論ですが、全てベネット家が負担しますし」


「他の…お客様への迷惑にも〜…」


「船のルートを変え、態々近くの港へ行き1度船を止めて待たせる方が迷惑になるんじゃないんですか」


「………。」


医者は悔しそうな顔をするとそのまま黙ってしまう。



「……どうぞ、お呼びください…」


呼んではいけない理由が無くなった医者はこれ以上無理に反論しようとすると怪しまれると察して小さく言う。



裏で見ていた従業員の男は不満げな顔をしてその場を立ち去った。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「うん、何とも無いですね。大丈夫ですよ」


急いで向かってきてくれた専門医はアルムをしっかりと診察し、大丈夫な事を確認した。


「良かったわ…!」


「ええ…、本当に…」


エレノアとレイラは安心しきった顔でため息を着く。



「じゃあ、まだ船降りなくて良いの?!」


「出発した港へ帰るまで、降りなくて良いのよ」


エレノアは手を合わせて微笑みながら言う。


「やった…!良かった、」


「…良かった。」


喜ぶアルムを見ながら降りなくて良い事を知ったジュリーも安心して言う。



「アルム…、それとジュリー。安心するのは良いけれど…。同じ事にならないよう気をつけるのよ」


「はーい!」「はい」


レイラに注意をされてアルムは大きく手を挙げて、ジュリーは強く頷く。


「それと…ありがとう、ソフィア。貴方が言ってくれたおかげよ」


「いえ、…僕は思った事をそのまま言っただけです」


珍しく素で微笑んだレイラを見てソフィアは笑い返しながら言う。


「もうすぐディナーの時間ですね!!」


ノラが満面の笑みをし明るい声で言った。


「…あっ、」


「?どうしたの、レイラ」


「オスカーが…ディナーの前、部屋へ迎えに来ると言っていて…。」


「ふふ、先に会場へ行っているかもしれないわ」


「…そうね、行きましょう」


エレノア達はディナー会場へ向かうべく、医務室を後にした。



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__その頃、オスカーとシャルルはディナー会場内を歩いていた。


「誤魔化し方を知らないんですか貴方は…知らないでしょうけど」


「誤魔化すのは良くないじぇー?」


「物凄く下手に誤魔化していましたけどね」


オスカーは呑気に話すシャルルを横目に見て呆れながら言う。


「ディナーの時、貴方が何かやらかさないか……あ、」


「ん?どうしたんだじぇ!」


「お嬢様を迎えに行くんでした…、今は何時ですか…!」


「んーと…今は〜〜。分からないのぅ!!」


「使えないな、!」


オスカーは急いで向きを変え、早歩きでディナー会場の入口の方へ向かう。



「……!おずがー!!上!うえー!」


シャルルはオスカーが向かう先の真上にある小さいシャンデリアが落ちてきている事に気付き声を上げる。


…が、急いでいる為かシャルルの話を無視しオスカーは歩いて行ってしまう。


周りの客が悲鳴を上げ出し、オスカーはその異常さに気づいて立ち止まるが丁度真上にあったシャンデリアはオスカーの元へ落下して行く。



「んーーーーー!!しょうがないじぇ、!」


シャルルはこの際、周りの目を気にせず身長を伸ばしてオスカーの元へ駆け寄り、抱えて逃げる。


その直後"ガシャーンッ!!"という騒音と共にシャンデリアが床へ落ちる。

シャンデリアの破片がオスカーの頬を掠め、赤い線が出来るが、大事に至る怪我はせずそれだけで済んだ。


「…シャンデリア、」


「ふぅ…危なかったじぇ〜…」


オスカーは今起こったことが分からず唖然とする。


わっ、と周りから歓声が上がるが…それと同時にあの人居たっけ?という疑問の声も上がる。



急いで周りの従業員が駆け寄り、シャンデリアの残骸を片付ける。




___そしてそれを裏で見ていた従業員の男は「…チッ、」と舌打ちをしてまた何処かへ行ってしまった。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



『…まだベネット家の奴らを下船出来ていない…?どういう事だ、早くしないと警官に伝えられる…!聞かれたんだぞ沈没の事を!……良い、怪我をさせる以外の方法でも…何でも良いから急いでくれ…』


船内の管理室にいた男は苛立ちを混ぜた声で電話をしていた。


「…!」


それを聞いていたメアリーは父親がベネット家を標的にしている事を知り、驚いた顔になる。


「お、お父さ…」


「…ん、ああ。メアリーか。どうした?」


「何の…なんの電話をしていたの?」


「メアリー、お前には関係ない事だよ。お前はこのマスカレード・ローズ号をただ楽しんでいれば良い」


「……うん。」


メアリーは父親にそう言われ、管理室を出る。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「…助けてくれた事は有難うございます」


「ふふーん!感謝して欲しいんだじぇ!」


「その態度には感謝出来ませんが、」



「…やっぱり先に着いていたのね、オスカー。ごめんなさい…少し用事が出来てしまっていて部屋に居なかったわ、」


ディナー会場へ着いたレイラはそう言うと申し訳なさそうに頭を軽く提げた。


「…!お嬢様…!…いえ、私も用事がありお迎えに上がれませんでしたので…」


オスカーも急いで頭を深く提げながらそう言う。


「そうなの…?なら…、良かったわ」



ディナー会場で合流したオスカー達とレイラ達は席へつこうと歩く。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


ディナーの時は何も起こらず、ステージ上で踊るダンサーや芸を見ながら楽しく料理を食べていた。


____


「…お嬢様」


「…?どうしたの、オスカー」


「食後にはワルツやブルースがあるらしいので…ご一緒にどうでしょうか?」


「…!え、ええ。…良いわよ」


レイラは珍しくオスカーから社交ダンスを誘ってきた事に驚いて少し顔を赤く染める。



「あの…皆さん」


食事が終わった後、メアリーは皆に話しかける。


「あ!メアリー様!!こんばんはー!」


ノラは席から立ち上がるとメアリーの元へ駆け寄ってお辞儀をする。


「今…少し、お時間よろしいですか?」


そう言われ、メアリーに全員は着いていった。





「メアリーさん!お話ってー?」


アルムは興味津々に話しかける。


「…まず、ごめんなさい…!!」


メアリーは思い切り頭を下げる。

いきなり謝ってきたメアリーを見て全員驚いてしまう。


「もう、…もう大丈夫です。…ごめんなさい、こんな事に巻き込んで…。」


「メアリー様…?どうしたんですか?」


「協力してくれて…本当に有難うございます。…後は私1人でお父さんを止めるので……大丈夫なんです、…もう…」


メアリーは俯きながら話す。


「…。メアリー様、何か訳があるなら私達に話して頂けないかしら…?」


エレノアはメアリーを心配そうに見つめながら言う。

…が、メアリーは黙ったままで何も答えない。


「なにかあったとしても私達が絶対助けますから!大丈夫です、メアリーさ___」


「関わらないで欲しいんです…!!!…私と関わるとみんなを傷つけます…!こんなに優しい人達を傷つけるなんてこと絶対に嫌です…!!傷つけたくないんです…っ、」


メアリーはノラの言葉を遮ると、涙を流しながら走り去ってしまった。


「メアリーさん!」「メアリー様…?!」


「今は…追いかけない方が良いんじゃない」


アルムとノラはメアリーを追いかけようとしたが、それをジュリーは止めた。



「メアリー様…どうしたのかしら」


「…。私達を危険に晒すのが嫌だったのでは?」


レイラは走っていくメアリーの後ろ姿を見つめ言い、それに対してオスカーは返答する。



「傷つけたくないと言っていたけれど……。彼女に傷つけられた覚えはないわ、」


「…そうね。…傷つく、。…もしかして、」


エレノアが疑問に思っているのを聞き、レイラは考え、アルムが医務室に運ばれた事を思い出す。


「…。」


それと同時に話を聞いていたオスカーもシャンデリアの事を思い出した。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「これからどうしよう…。」


「どうしたら良いんですか…」


「…。」


涙を流し走り去って行くメアリーの姿を思い出してアルム・ノラ・ジュリーは悩んでしまう。


「…。花火が上がる時間、何時ですか」


「確か…20時からと書いてあったわ」


「今は…」


「19時30分頃ね」


「…!ありがとうございます」


時間を確認するソフィアに対してレイラは答える。


「メアリー様は何処かへ言ってしまったし…どうしましょう、」


エレノアは心底困った顔で考える。


「メアリーさんのお父さんを探しましょう、何かしようとしているなら見つけ次第止めます」


ソフィアはそう言うと、メアリーが走り去って行った方へ向かう。


「あ、ソフィア…!」


エレノアは心配し、その後を追いかけた。


他もエレノアが追いかける姿を見て着いて行く。



メアリーの父親を探すソフィアは、ディナー会場の前でメアリーの父・ジャンクを見つける。


「…!ジャンクさん、…ですよね。」


ジャンクはソフィアの方を向いて1度目を見開くが、逃げるように会場内へ入って行く。


「待ってください…!」


「子供が…。私に着いてくるな!…そいつらを取り抑えておけ!」


"そいつら"と言われたソフィアは後ろにエレノア達がいる事に気づく。


ジャンクが取り抑えておけ、と言うと周りの従業員が一斉にこちらの方へ向かってくる。



「うわ、あいつら全員仲間なんだじぇー?!」


「お嬢様は危ないですので、エレノア様達と一緒に先に進んでいてください」


「先に…進んでって…」


目の前に沢山いる従業員達を見てどうすれば…という表情にレイラはなってしまう。


「前だけを見て…走ってください、私達が彼らを止めますので」


オスカーはそう言うと一礼して出口へ手を向ける。


「…、分かったわ。…行きましょう、エレノア!アルム、ノラ…ジュリー!」


レイラはそう言ってから決心した顔で走り出す。


「ええ、!」


「はい…!」


「分かりました、」


「…。」


エレノア達もあとを着いて走っていく。




オスカーは後ろから追い掛けてくる従業員から逃げ、大きな食器棚へ向かう。そして何か無いかと瞬時に探してフリスビーの様に相手へ銀食器を投げた。


全て当たる訳では無いが…顔へ直撃した従業員は次々に倒れて行く。


「うわっ!!!黒いの!おずがー!!!今わしをわざと狙ったじゃろ!!」


勢い良く銀食器が飛んできて、シャルルは出ていた角を急いでしまい避ける。


「貴方の後ろに従業員の方がいたので…、この状況で態と狙うほど余裕はありません…!当たりたくないのなら自分から避けてください」


「理不尽だじぇ?!!!」


ソフィアはテーブルの上にあったテーブルランプのランプを叩き割って壊し、ポール状にして剣のように持ち、構える。


そして向かってくる従業員を受け流し、首の付け根を打つ。


「あれ…首の骨折れそうだじぇ………」


それを見てシャルルは少し引き気味で震える。


「暴力的ですね」


「いや、食器投げるのも十分暴力的だじぇー?!」


何故かツッコミ役に回っているシャルルを他所に従業員は次々に倒れて行く。


「シャルルさん…何もしてないなら先に行ったらどうです?」


オスカーはリアクションをしているだけのシャルルの方を呆れて見ながら言った。



「…!オスカー!」


シャルルに呆れて話しかけるオスカーの後ろから従業員が鈍器を持って降りかかろうとしているのがソフィアに見え、ソフィアは近くにあった燭台を従業員に向けて思い切り投げる。


燭台はオスカーの横を掠めて従業員に当たる。


「余所見しないでください…!」


「白いのが呼び捨てするなんて珍しいじぇ〜〜??」


「……いえ、咄嗟に言ったので…」


「…有難うございます」


オスカーは少し下を見ながら小さく言う。



「どーーん!!」


シャルルも楽しくなってきたのか従業員に突進し始め、突進された従業員は倒れて行く。





出口へ向かい走るレイラは段々苦しそうになり、スピードが落ちていく。



「レイラ…、大丈夫…?」


「…ええ。」


「どうしよう…後ろから追いかけてきます!」


「……。」


ノラの焦る声を聞いてレイラは無理矢理速度を上げようとするが、転びそうになってしまう。



「…ッ、!…動きにくいわ」


と、レイラは次の瞬間思い切りドレスの裾を掴んで破った。


「レイラ…!ドレスが…」


「大丈夫よ、これくらい良いわ…。さぁ、行きましょうエレノア!」


レイラはそう言うと、エレノアの腕を強く掴み、走り出す。


「…。う…」


アルムは走っている途中フラ、とよろけてしまう。


「アルムくん…、大丈夫ですか?」


「やっぱり…頭を打ったのが…」


ジュリーはまた自分のせいだと暗い顔になってしまう。


「…。私に乗ってください!おんぶします、私はアルムくんのお姉さんですから…!」


「…え、」


「はやく…!」


アルムは一瞬戸惑うが、ノラにそう言われておんぶをして貰う。


「あと!ジュリーくんは何も悪くないです。お兄様も言ってましたし…!」


「…!…うん。…ありがとう」



そしてレイラ達は出口まで辿り着き、扉を開こうとする。

…が、まだ残っていた従業員の1人がノラの腕を掴もうとする。


「…触んないで貰える?」


ジュリーはノラへ伸びたその手を強く掴んで、従業員を睨み付ける。


従業員は掴まれた手でそのままジュリーを思い切りはらい飛ばす。


「…ッ!」


「おー、ごーるいーん!」


はらい飛ばされたジュリーをシャルルが受け止め、そのまま従業員の方へシャルルは突進した。


…そして最後の一人が倒れたのを確認して扉を開き、8人は真っ直ぐ廊下を走る。



____


操縦士がいる室内へ入って行ったジャンクは後ろから鈍器で操縦士を殴ろうとしていた。


…が、部屋のドアが勢いよく開いた瞬間ソフィアはジャンクに駆け寄り、鈍器を持っている手を掴み、奪い取る。



「…もうすぐ花火が上がりますね」


「はぁ…?!なっ…なんなんだお前ら…!!邪魔しやがって…!」


「……私の大切なお友達です」


と、ジャンクはソフィア達の後ろからした声の方を見る。


見た先には自身の娘、メアリーがいた。

ジャンクは目を見開く。


「メアリー…?」


「私、お父さんにこんな事して欲しくないの…!!だから…」


「つまり…私の計画を邪魔したのか?」


「…。そうだよ」


「なんで……」


実の娘に裏切られたジャンクは絶望の顔に変わっていく。


「なんでって…それは私が聞きたいよ…!!何でこんなことするの…!」


「俺は…俺は……!感情が無くて氷のように冷たい…ッ!!あいつら…上級貴族のせいで俺は…!!土地を奪われて妻を病気で亡くして…!!!娘のメアリー…お前だって友達から嫌味を言われ続けてきただろ?!」


「…!」


メアリーはそう言われ言葉が出ない。


「元々お前らベネット家は誘うつもり無かったんだよ…ついでだついで。…はは、ほらだって…ベネット家も悪い評判が立って他の上級貴族から見下されてんだろ…?俺らと同じだしなぁ…?」


「だから…だから…!」


ジャンクは目を見開きながら感情的になり叫ぶようにして言った。



「…どんなに酷い仕打ちを受けてきたとしてもそれは理由にならない」


「…はぁ、?」


「僕は…僕のベネット家を貴方達と同じだなんて思われたくないです」


ソフィアは冷静な目で…だが少し悲しそうな顔をしてジャンクを見つめながら言う。


そしてレイラもソフィアと同じように前へ出る。


「…ジャンク様、貴方のした事はどんな境遇だろうと罪になる…参加して下さっている皆様には絶対…許されないわ」


「此処にいる上級貴族の皆さんが本当に全員…元々恵まれた環境で生まれ育ったのかをよくお考え頂きたいです」


レイラは同じく冷静な顔でそう言った。


「俺は…ただ…ただ、見下してきた奴らを見返して……!」


「何言っとるのか分からんのぉ〜…だってもう見返してるんだじぇ?」


「…え?」


「こんなおおきい船つくって凄いんだじぇ!!こんなの中々出来ないからのぅ…!まぁわしだっ__」


「そうですよ…ジャンク様。私達はこの豪華客船の設備や造りにとても感動させて頂きました」


エレノアは真剣な表情でジャンクを見つめて言う。


「そうだよ…!お父さんはどんな苦しい時でも諦めないし…!!たっくさん勉強して業績をあげて…!こんな大きな船を造るまでに上り詰めていったじゃん…!」


「メアリー…」


「つまり…あまり言い方は良くないですが、沈没までしたら見返せているはずだったものが一気に消えて無くなってしまう、という事ですよ」


「そうね…オスカーの言う通りよ」


「僕達も楽しかったよね、ノラちゃん!ジュリー!」


「はい、勿論です!」


「うん、…楽しかったよ」



ジャンクは皆の言葉を聞き、泣き崩れてしまう。


「そうか……、俺は……っ!………ごめん、ごめんなさい…。……救おうと思っていたメアリーを…自分から傷つけて……!」


「ううん、もう救われてるよお父さん。…だって、友達にこんな凄いお父さんがいるんだよーって自慢出来るもん!」


そうメアリーは笑って自身の父と抱き合う。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


『…是非、この後のショーもお楽しみください』


ジャンクは疲れた顔をしていたが、優しく微笑んでお辞儀をし、メアリーと一緒に立ち去った。


気絶させてしまった従業員達もジャンクに頼み直ぐに医者を呼んで手当をして貰った。



____



「今日は…凄く色々な事があったわね」


「そうですね」


「ふふ…、貴方の判断に沢山助けられたわ。ありがとう、ソフィア」


エレノアはそう言うと今日で1番優しく微笑んで、ソフィアの頭を撫でた。


「…!は、はい…!ありがとう…、ございます」


いきなり頭を撫でられたソフィアは少し驚きながら言った。




「疲れたわね…」


「今日は出来事が多過ぎましたから、無理もないです」


「…。ダンスは…また今度かしら」


「…!…覚えていたんですね…」


「…ふふ、勿論よ。…その格好、良く似合っているわ」


「…ありがとうございます、」


微笑みながら言うレイラを見てオスカーは少し顔を赤らめお礼を言った。





「今日は…楽しかったですね!!」


ノラが皆の方を振り向きそう言うといつの間にか真っ黒に染まっていた背景に、大きく綺麗な花火が打ち上がった。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



__そして屋敷帰ってきた彼らは自室に行き、倒れ込むように寝たらしい。




「船に乗ったなら……今度は飛行船に乗りたいじぇー!」


シャルルはそう言い、両手を元気よく上へ上げた。


(終)

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貴族 @0000_nishiki

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