Column3 「筆が立つ」は字が上手い人のこと?

 ――Aさんって、筆が立つよね。よかったら、賞状に書く受賞者名を書いてもらえないかな。


「筆が立つ」という言葉を、上記のような例文で使ったことはあるでしょうか。「筆」から「習字」を連想して「字が上手い」という意味に捉えられたのかなと思うのですが、それは誤りで、「文章が上手い」が正しい意味です。


 そのため、「筆が立つ人だ」というと「文章が上手い人だ」となりますし、「Aさんって、筆が立つよね。よかったらコラムを書いてもらえないかな」と言われたら文章を書く能力を買われたということです。


 さて、今回「筆が立つ」を調べるにあたって、「筆」に関する言葉を調べてみたら沢山ありました。


 例えば、「筆が荒れる」。これは「文章が雑になる」という意味です。文章を書くのであればできれば避けたいところですね(笑)


「筆が滑る」はどうでしょうか。「調子に乗って余計なことを書く」という意味です。「調子が良く執筆が進む」という意味で捉えている方もいるようですが、これは本来誤りなので使うときは気を付けたいところです。


「すらすら書く」という意味で使うなら、「筆を走らせる」というのがぴったり来そうです。「筆を馳す(『精選版日本国語大辞典』)」とも書くようですが、こちらは古風な言い方ですね。


「筆をく」はいかがでしょう。

 これ、カクヨムの作者さんがちらほらと使っているところを目にします。「書くのをやめる」という意味ですが、特に「文章を書き終えたとき」に使います。「長編小説の筆をく(『明鏡国語辞典 第三版』より)」と使います。


 注意したいのは「く」という漢字です。「置く」ではないので気を付けたいところです。


く」とは「手に持っていた物を下に置く(『角川新字源 改訂新版』より)」ということです。つまり、「筆記用具を手から離す」という意味からきていることがお分かりになると思います。そのため、長らく連載していたものが終わって筆記用具を手から離した、という意味で「筆をく」と言います。


 ここだけで五つご紹介しましたが、『精選版日本国語大辞典』で「筆」の項目を引いたところ、二十八個も慣用句がありました。多いですね。それも結構文章に関係する意味のものがほとんどだった印象です。「筆」で絵も描きますが、文字や文章も書きますから切っても切り離せない関係なのでしょうね。



*「筆を擱く」について、『ことば』という作品の中で訂正をしています。ご覧いただけると幸いです。

https://kakuyomu.jp/works/16817330649551067479/episodes/16817330654332004376

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る