Column4 「一石二鳥」がなぜ「二羽」ではなく「二鳥」なのか

*今回の話ははっきりとした結論がでるものではないので、読む際はお気を付け下さい。


「一石二鳥」は、子どもでも知っている四字熟語ですよね。意味は「一つの行為で二つの利益を得ること(『明鏡国語辞典 第三版』より)」です。元々は英語のことわざで「To kill two birds with one stone.(『四字漢語辞典』より)」(もしくは kill two birds with one stone.『ウィズダム英和辞典』より)」と書きます。


 さて、この「一石二鳥」なのですが、「二鳥」と書くのは不思議ではありませんか?

 鳥を数えるなら普通「一羽」「二羽」と書きますよね。それなら、ここでも「二羽」と書けばいいのでは……と。


 何故こんなことを書いたのかというと、私が『NIHONGO』シリーズを執筆する際によく利用している、『日本人の知らない日本語4』という書籍にその疑問が載っていたからです。


『日本人の知らない日本語』という書籍は、外国人に日本語を教える日本語教師の日常生活がマンガ化されたものです。日本に住んでいると気づかない母語や文化を、外国人の方を通して知ることができる面白い作品なので気に入っています。(全4巻あります)


 そのなかに「『一石二鳥』を、なぜ『二鳥』と書くのか」と、ロンドン大学に通う学生からの質問があるのです。

 確かにその通りだなと思ったのですが、質問の答えはマンガには載っていなかったので、独自に考えてみようと思った次第です。


 私は単純に「一石二羽」と書いたら、「鳥」を取ったのか「うさぎ」を取ったのか分からないからと思いました。ネットで検索してみると、同じ質問が上がっていて回答も私と同じものがありました。

 ただ、私が持っている様々な日本語関連の書籍のなかでも、これに関して明確なことが書いてあるものがなかったので、英語のことわざがどういう経緯を辿って「一石二鳥」になったのか辿りつつ、背景を考えてみようと思います。


 さてさて。

 前置きが長くなりましたが、まず「一石二鳥」はどこの国の表記なのかを調べてみました。私は中国から入って来たのかと思ったのですが、『全訳 漢字海 第四版』によると和製の漢語でした。


 実は中国語には、別の言い回しの言葉があるんです。

 南宋の文人だった陸游という人の詩に「壮年、一箭いっせん双鵰そうちょうヲ落トス」があります。これは「一本の矢で二羽のワシを射た」という意味で、弓の技術がある人のことも言ったのですが、後に「一石二鳥」と同じ意味を持つようになったのです。後者の意味となった経緯として、英語のことわざの影響があったかどうかは分かりませんが、似たような言葉があるのは面白いですよね。


 とはいっても、中国でも一石二鳥は使われるようで『小学館 中日辞典 第3版』や『小学館 日中辞典 第3版』にも出ていました。以下引用です。


*****

【一石二鸟】『小学館 中日辞典 第3版』より

yī shí èr niǎo 

〈成〉一石二鳥.

*****


+++++

【一石】『小学館 日中辞典 第3版』より

一石二鳥

一箭双雕 yījiàn-shuāngdiāo

+++++


 ちなみに、中国では鳥を数える際は「只」という漢字を使います。

 ここからも「一石二鳥」というのは、日本独特の助数詞による紛らわしさを回避するために、「一石二羽」ではなく「一石二鳥」としたのではないか、という想像が一番当てはまりそうな気がします。


 説明は以上です。

 とはいえ、「一石二鳥」が「二鳥」である理由の仮説(しかも学者でも何でもない私の仮説……<笑>)でしかないので、いつものようにテキトウに聞き流して下さいませ(笑)

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