Column2 「を」の話

 そういえば、「を」って現代では格助詞としてしか使われませんよね。興味本位で『明鏡国語辞典 第三版』を引いてみたら、五つの項目しかありませんでした。


「五つもあるの?」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、格助詞に関連するものばかりです。唯一あった名詞は「ヲコト点」(「漢文を訓読するために漢字の四隅・上下・中央などに記入した符号(『明鏡国語辞典 第三版』より)」のこと。)だけ。

 ほかの辞書もだいたいそうです。あったとしても、現代では使わないような言葉が掲載されています。


 ん? 現代では使わないような言葉? じゃあ、昔の言葉だったらあるの? と思った方、鋭いです。その通り。古語辞典をひらくと「を」の項目に沢山の言葉があります。

 皆さんがよくご存じの「をかし」もそうですが、今では「おとこ(男)」「おんな(女)」となっているものも「をとこ」「をんな」などと表記されていました。つまり、当時は「otoko」ではなく「wotoko」と発音していたんです。前回の◇相談箱◆をお読みになった方は、きっとお分かりになると思います。


 元々、一般男性を示す「男」という言葉は「を」でした。

 対義語は「め」。メスのことですね。動植物や、神や人間なんかも全て「を(雄・牡・男・夫)」・「め(雌・牝・女・妻)」で表現していたんです。

 しかし、「を」は「本来、生物のおすをいう言葉」のため、卑しい身分の男性などを指していたようでした。それがのちに一般男性を指す「を」を「をとこ」とするようになったのです。


「をとこ」の「をと」は、動詞の「をつ」という言葉から来ています。「をつ」とは「生命力の発動をするさまを表わす(『古典基礎語辞典』より)」言葉で、「こ」は「子」のことを指します。つまり「活力に満ちた男性」のことなんですね。


 ちなみに「をんな」は「をみな」という言葉の撥音便形です。「をみな」は「若く美しい成人の女性」という意味がありました。元々は未婚の女性を意味する「をとめ(少女)」と区別していたようですが、徐々にそれがなくなり老若問わず「をんな」と言うようになります。それは「をとこ」も同じです。


 こんな感じで、何気なく使っている言葉も元を辿ってみると、なるほど面白い経緯があるなと思います。


 

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