凶器の拳銃

キャラメル太郎

第1話  拳銃





 ──────他人を傷つける言葉は凶器というだろう?





 バカ。アホ。安直なところで……死ね。キーワード自体は何でも良い。その言葉が、相手にとって心を傷つけるものであれば、それは立派な凶器となりうる。


 では、この言葉の凶器というものを判りやすくナイフで例えてみようか。ナイフは振りかぶって降ろせば、肉を斬れる。切っ先を使えば突き刺せる。手に持つ柄の部分の頭、そこで殴れば鈍器にだってなるんだ。どうだ?多種多様の使い道がある立派な凶器だろう?人に向ければ簡単に死ぬと思わないか?


 ……そうだ。死んでしまう。でもそのナイフを使っても一撃では無理だ。何度も何度も、相手に向けないと相手は死なない。あぁ、勘違いするなよ。好き好んで相手を殺したいという訳じゃない。例えだ。ナイフで殺すなら、何度も使う必要があるという話だ。


 ならこの例えで使っているナイフを、拳銃に変えてみようか。ナイフのように、近づかなくても相手に向けて引き金を引くだけで相手を傷つけられる、誰がどう見ても解る凶悪な凶器だ。一撃の威力もナイフとは比べものにならないだろう。


 ナイフを構えた不審者と、拳銃を持った不審者。君ならどちらを恐れる。私なら……断然拳銃だな。近づかれずに遠くから狙われると考えると怖いものだ。すくみ上がってしまう。だが不思議ではないだろう?相手に害を与えるもの、凶器の話なのだから。


 言葉は凶器。ナイフのようにチクチクとしたものもあれば、拳銃のように強いものもある。私はね、そういった凶器を何故簡単に他人へ向けて使えるのかと不思議でならないんだ。私は滅多なことでは他人に凶器を向けない。向けたくもないね。何せ、相手が傷つくと解っているのだから。


 斬られれば痛い。撃たれれば死んでしまうと思う。いや、中には痛みに耐えかねて死にたいとすら思う人もいるのではないか?こんな苦痛を味わうくらいならば、死んで楽になろうと。この世に居る人間は千差万別。十人十色。色々な考えを持つ者達が居るんだ。1人くらいは居るだろう?


 そう、居るんだ。そういう考えの人が居るんだよ。いや、……と言った方が正しいかな。実際にそのに会った訳じゃなくてね、本当に居たのかは知らないんだ。でも、私にそんなことは関係無い。言ってしまえばね。


 問題は、言葉という凶器で傷つけられ、これからもその苦痛を感じるくらいならば、いっそのこと死んでしまおうと考えて実行に移した子が居たという点なんだ。かわいそうだね。きっと苦しかった筈だ。悲しかった筈だ。優しい子だったらしいよ?あぁ、これも私は知らないよ。実際に会っていないからね。会ったのはその子の母親さ。


 うん?どうしたんだ、そんなに震えて。……あぁ、私の話から察してきたようだね。そうだよ。。君がナイフや拳銃でその子を傷つけて死なせたんだ。……ん?違うな。君が殺したんだよ。立派な凶器でね。


 私はそういった苦しみの声から依頼を受けて、同じような凶器を使って相手を傷つける仕事をしている、汚れた大人だよ。本当はこんな事したくないんだけどね、死んでしまった子のことを考えると、どうも冷静ではいられないんだ。


 言葉は凶器。立派な凶器。他人を簡単に殺せてしまう、怖い凶器さ。学んだかな?解ったかな??君は死ぬよ。間違いなく。今すぐに。他人に向けた拳銃と同じく、向けられた拳銃によってね。





 ──────来世では真っ当に生きてくれることを、切に願っているよ。おやすみ。





「みんなも気をつけようか。人に向ける凶器の凶悪さをしっかり理解し、把握しておくことだね。いつどのタイミングで、最悪が起きるか分からないものだ。そしてね、そういう最悪が起きると……私のような汚い大人が凶器を向けるよ。ナイフにはナイフを。拳銃には拳銃を」





 相手が傷つきやすい拳銃を使えば使うほど、が楽になるだなんて……皮肉だよねぇ?





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凶器の拳銃 キャラメル太郎 @kyaramerutarou777

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