《能力強奪》 中編

 次の日、力を試しに、ボロドは一人でダンジョンに潜っていた。


 無能力のボロドが一人でダンジョンに潜るなど、自殺行為に等しいのだが、ボロドは死ぬ気でいたために、実行した。


 力については女神のことを未だに信じておらず、死ぬ前にダメもとでやってみるかと思っていた。


 狭いダンジョンの通路を歩くボロドは、前方に赤い光が見えたので、立ち止まった。光だけでなく、音も聞こえる。


 誰かが能力を使って戦闘をしているようだ。


 ボロドが壁に隠れながら様子を伺うと、女のガキが炎魔法を使ってスケルトンと戦っていた。


(魔法か……)


 魔法はボロドが子供の頃からの憧れであった。特に見た目が派手で殺傷能力も高い炎魔法は使ってみたいと思っていた。


(そうだ…! 実験台はあの子にしよう)


 どうせ本当かどうかわからない力をダメもとで試すだけだ。特に問題はないだろう。


 ボロドはそう考えて、力を使おうとした。


(念じるって何を念じればいいのだろうか)


 女神は念じれば発動すると言っていたが、なにを念じればいいのかは教えられていない。


(とりあえず……)


─アレガ……ホシイ……─


 ボロドがそう念じた瞬間、ボロドの脳を重たい衝撃が襲った。


 突然のことに驚き、ボロドは思わずうずくまってしまう。


 それにつづいて、不思議な事が起こった。


 ボロドの脳に、炎魔法の使い方に関する記憶が入ってきたのだ。


 今なら炎魔法を放てるような気がした。


(なるほど……これが力か……)


 ここでボロドは、女神が言っていたことが本当であったことを理解した。それと同時に、長年求めていたものが手に入ったことに歓喜した。


 しかし、ボロドのその歓喜の時間はすぐに終わることになる。


 いきなり前で戦っていた女が押され始めたのだ。このままほっとけばスケルトンの剣に串刺しにされるのも時間の問題だろう。


 ボロドは迷った。


 いつものボロドなら、助ける義理も、力もないので、見ないふりをするだろう。


 だが、今のボロドには力がある。


 ボロドが悩んでいると、女が転んでしまった。スケルトンの剣が女の頭上にせまる。


 ボロドは咄嗟に壁の影から飛び出し、女の前に滑り込むと、ナイフでスケルトンの剣を受けた。


 そして、そのまま押してスケルトンを突き飛ばし、炎魔法を放った。


 炎魔法はかなり強力で、一撃でスケルトンを燃やし尽くした。


(すごい……これが俺の力……)


 ボロドは振り返り、目を丸くしながら尻もちをついている女に手を差し伸べた。


「大丈夫かい?」


 ボロドは笑顔で話しかけた。


「あ、ありがとうございます」


 女はお礼を言うと、立ち上がってホコリを払った。そして、壁に手のひらを向けてなにかを言っては、首を傾げている。


 「どうしたんだい?」


 ボロドはその謎行動の理由を尋ねた。

 女ははっとして答えた。


「あ、すみません。なぜか突然能力が使えなくなりまして。さっきのピンチもそのせいなんですけど…」


(あれ? これってもしかして俺のせい?)


 ボロドは女の不調の理由に感づいたが黙っていた。そして、そのことを棚に上げてボロドは言った。


「そうか。それでは帰るのも大変だろう。俺が送ってやろうか?」


 とんでもないマッチポンプだが、ボロドとしては罪滅ぼしのつもりだった。


「重ね重ねすみません。よろしくおねがいします」


 女がボロドに頭を下げ、ボロドは満足気に頷いた。


────────


ボロドと女はダンジョンを抜け出した。


「ありがとうございました」


「はは。困ったときはお互い様だろ」


「そういえばまだ名前を言ってませんでしたね。私は冒険者のラニです。あなたの名前はなんですか?」


「俺か? 俺はボロドだ」


「ボロドさんですね。このお礼はいつか必ずします。さようなら」


「じゃあな」


 ボロドとラニが別れたとき、ボロドにとって不都合なことが起こった。


 今ボロドたちが出てきたダンジョンから、前のパーティーメンバー、つまりライトたちが出てきたのだ。


 ボロドは必死に関係ないふりをしようとしたが、向こうから話しかけられてしまった。


「お、ボロドじゃないか。ここにいるってことはダンジョンに潜ったんだな。無能力のお前に新しい職場が見つかったようで良かった」


 ボロドは無視した。


「おいおいボロド、無視とはつれねえじゃねえか。これでも元パーティーメンバーだろ? まあクビにしちゃったのは俺たちだけどさ。一応お前の今後についてみんな気にしてたんだぜ?」


 元パーティーメンバーの中の一人がだる絡みしてくる。そいつがボロドの肩に触れようとしたので、ボロドはその手を振り払って叫んだ。


「うるせーんだよ!!」


 元パーティーメンバーはボロドの突然の反応にたじろいた。そして、ボロドはそいつに向かって《能力強奪》を発動した。


 ボロドは、毒噴射の能力を奪い取った。そして、すぐさまその能力を使用する。


「な、お前! 無能力のはずじゃ!?

 それにその能力!?」


 能力を奪われた男が驚いている。

 そしてボロドは言い放った。


「ははは! 俺は力を手に入れた!

 お前らから奪う力をな!」


「な、奪うって……まさか!?」


 男は自分の能力を使おうとした。

 しかし、それはボロドに奪われていたため、発動することはなかった。

 男の表情が一度絶望に変わり、それから怒りに変わった。


「お前ふざけんじゃねえよ!」


「そうよ! あんまりだわ! 返しなさいよ!」


「ボロド! 仲間だったのにどうしてそんなことするの!」


 後ろから他のメンバーもよってきてボロドに抗議する。ボロドは無慈悲にも彼女たちに《能力強奪》を使った。

 ボロドはまた2つの能力を奪い取った。


「わはははは! これでお前らは揃って無能力だ! せいぜい無能力パーティーとしてやっていくんだな!」


「ひ、ひどい…」

 

 その言葉に3人は絶望してうずくまった。

 ボロドはそんな3人を見て高笑いしていた。

 

 突然、ボロドの横っ面に衝撃がはしり、ボロドは倒れ込んだ。ボロドが上を見ると、ライトが怒りの形相を浮かべて立っている。


 ボロドは自分が殴られたと気づくと同時に、怒りが湧いてきた。


「この野郎!」


 ボロドはまた《能力強奪》を発動し、ライトから回復魔法を奪い、見せつけるようにそれを使って回復した。


 だが、それを見てもライトは顔色一つ変えずにつぶやいた。


「……そうか。僕からも奪ったんだな」


 そして、ライトはボロドを睨みながら言い放った。


「さっき無能力だけのパーティーと言ったな。いいだろう、やってやる。このままのメンバーで成り上がってお前にお前をクビにした真の理由を分からせてやるさ」


 何を言っていやがる、とボロドは思った。

 それではまるで、クビの件は無能力とは関係ないみたいじゃないか。


 いや、そんなはずはない。無能力であるが故にみんなはボロドを見下していたのである。


 ボロドはそう自分に言い聞かせた。


 ボロドが呆気にとられているうちに、ライトたちは去っていった。


 ────────


 ボロド達のやり取りを一部始終見ていた者がいた。


 ラニである。


 当然、能力を奪うとかいう話も聞いていた。

 

 そして、ラニは静かに一人ほくそ笑んだ。


 ────────


 ライト達が消えて、ボロドがぼーっとしていると、遠くから一つの人影が走りよってきた。


 ラニである。


 ラニは石像のように動かないボロドに話しかけた。


「ボロドさん、無能力ってどういうことですか? ボロドさんはダンジョンで火魔法を使っていましたよね?」


 突然話しかけられたのと、その内容によって、ボロドはすごく焦った。


「あ、え、え、えと」


 そんなボロドに、ラニは追い打ちをかける。


「それに能力を奪う力とかも言ってましたよね。あ、もしかして私の能力と関係があったり?」


 ここでボロドは勢いよく顔を地面に擦り付けた。つまり土下座である。


「す、すいませんでした!」


 そんなボロドをラニはゴミを見るような目で見つめている。ボロドはそれに更にビビりながら言い訳を言った。


「突然怪しい奴に力を貰って……それで試したくなって……」


 ラニは深くため息をついた。


「はあ〜〜そうですか。それで? 元には戻せるんですか?」


 ボロドは更に深く頭を擦りつけながら答えた。


「戻す方法は知らないです。多分そんなことはできないかと……」


 ラニは完全に呆れ返っていた。


「……もういいです許しましょう。助けてもらったのも事実ですからね」


 その言葉にボロドの顔が明るくなる。


「ただし、条件があります」


 ボロドの顔がまた暗くなった。そして、どんな条件が来るのかと身構える。


「私とパーティーを組んでください」


「え?」


 ボロドは拍子抜けした。

 てっきり金でも取られるのかと思っていた。

 ボロドの顔を見て、ラニは言った。


「別にそんなに不思議な事じゃないです。今の私は無能力ですから、まともに冒険者稼業を続けられません。これでは生活に困ってしまいます。あなたから金を取るにしても、あなたがそんなに持っているようには見えませんしね」


「……つまり俺はあなたを守ればいいってことですか?」


「守る、という言い方が癪に障りますがまあそういうことです」


 ボロドは思ったより軽い条件、というかむしろボロドとしても望ましいそれに即同意した。


 こうして、元無能力者と、元能力者のパーティーが新たに結成された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黒い女神の贈り物 多多多 @tatata050613

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ