第三十九話
結界のはるか遠くから、雷公が、人の世界へと、足を向ける頃、騒ぎのことは、なにも知らぬ桜姫は、
結界が張られる前から、人の世界、こちら側に来ていた鬼ともは、次々と“呪”を詠唱し、使役する神を降ろす
それを静かに見守っていた
「あらまあ……」
少し困惑した様子を見せていた
流れ出した音に、自分が使役する十二神将を維持する体力の限界を、少し感じはじめていた“六”は、音色と共に、自分の中で力が自然と湧いて出るのに、気がついていた。
この旅に出てからというもの、いついかなるときも、弓を手放さず、なにしているときは、無理矢理に背中に、邪気を払うための弓を、背負っていた“弐”も、
比叡の山は、人には広く険しい道のりであったが、彼ら、「特別な存在である
“あの世の音”そう称される『
「桜姫と
「さあな……」
そんなことを言っていたのは、山のふもとで、比叡山から避難していた僧侶たちに、すべてが終わりつつあることを、重々しく告げていた三人であったが、その頃、しびれを切らした桜姫は、結界を無理やりに引きちぎると、最後の「結界」として、雷公が差し向けていた
「ソナタが、かき回さねば、
桜姫は、痛みに耐えながら、大きく口を開くと、桜色の稲妻を発しながら、
「桜姫! 桜ひめ――!」
空の上には、彼女を心配して叫ぶ“伍”の声は届かず、迫りくる鬼に取り囲まれていた彼が、ようやく、他のふたりと鬼の退治を終えて、目を凝らして空の上を見上げていると、
それから、おもむろに檜扇を取り出して、なにやら“呪”を唱え、彼女が開いた檜扇は、人を軽々と乗せられるほどに大きくなり、うながされるままに、そこに飛び乗った“伍”を乗せて、彼が望んだ、桜姫のいる空の上へと上がって行った。
「桜姫! 桜姫!?」
空に上がった“伍”は、桜姫を探していたが、彼女の姿は見えず、あちらこちらには、蒼と桜色のウロコが飛び散り、漂うように、見渡す限りの雲の上には、血の海が
「桜姫……
はらはらと血の海を見渡しながら、そう呟いていた“伍”が乗る檜扇が、なにやらごとりと傾いた。
「……じゃ……」
「え……?」
“伍”は、自分が一番聞きたかった、あの偉そうで可愛らしい声が、うっすらと聞こえたような気がして、あたりをきょろきょろと見回すが、なにも見えずに困った顔で、立ち尽くしていると、また、小さな声が聞こえる。
「そなたが踏みつけにしておる檜扇の下じゃ! なにが愛おしい
「さ、桜姫!?」
急いで彼が檜扇に乗ったまま、少し下をのぞいて見ると、傷だらけではあるが、ちゃんといつもの桜色の髪をした、小さな姫君が、ボロボロの十二単を着たまま、こちらを睨んでいたのであった。
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