第三十八話
〈 真白の神が住むやかた 〉
真白の神は、相変わらずなにも見えぬ「桜姫の龍球」を手に、寝殿の中で褥から外に出て、朝の支度をすませると、やはり部屋の隅に座っている、死神を無視して、ゆっくりとくつろいでいた。
そこに、春の色目、紅色の下重ねに、うすく下地の見える白の絹地、
「朝餉をお持ち致しました……」
「おうおう、紅姫、すっかり元気そうではないか、さすがは雷公の娘、黄泉がえりの前よりも、うつくしゅうなったのではないか?」
「もったいなき、お言葉にございます……」
「これは、
「わが使いである白狐たちからの珍しき供物、先日届きましたゆえ、まずにと持って詣りました」
「そなたの神使どもがのう……」
真白の神は、少し考えてから、包んである竹皮を開くと、
「???」
「お裾分けじゃ……」
「まあ、お優しい……」
紅姫は、口元に差し出された
ゆらりと彼の前にある竹皮に乗る
「酒も飲んではおらぬのに……」
それが、彼の最後の言葉であった。そう、毒は、
「どうかなさいましたか!?」
「は、早く雷公をお呼びし……きゃあっ!」
そう、真白の神が、その力で持って、作り出していた、白く輝くやかたは、みるみると崩れ始め、あわてふためく女房たちも、ただの紙切れとなってゆく。
美しい瞳に、どこかしら、悲し気な色を浮かべた紅姫は、なだれ込んできた神使、白狐たちの化身に命じて、他の主だった眷属たちが待つ『地獄の窯の中』へと、急いで真白の神を運ばせていた。
運んでいる途中にも、ぴくと、彼の手が動き、紅姫は、自分の額の前髪を上げていた、平額という飾りの下に挿している櫛を、そこに留めていた
そしてなんとか彼を、『地獄の窯の中』へ運び入れ、窯の底に開いた穴へめがけて、眷属たちが彼を放り投げてから、上を見上げていた。
そこには黒の束帯に、冠を、しかとかぶり、下重ねを長く引きながら、飾り太刀を下げて、手に杓を持って姿を現した雷公が、はじめてこの地獄の窯へと降りてくる姿があった。
そして彼は、あのとき、桜姫が“伍”を助けたときに唱えた、『ヒフミの
そして真白の神を、崩れ行く体ごと、「窯の鋳掛」に使い、彼の眷属たちは、真白の神の力によって、地獄の窯の中へと、密に納まっていた悪しき魂たちを、次々と消滅させいた。
長い争いのあと、
その姿を見送ったのは、くだんの死神である。彼は、ニタリと笑うと、真白の神の魂を、嬉しそうに刈りとって、どこかへと消え去った。
こうして、この世の摂理から外れた存在でしかない、それほどに美しかった、祟り神は、どの世界からも、死神が予言した通りに、姿を消したのであった。
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