第三十七話
『
「よくあんな真夜中に開いていたな?」
「一日中、出入り自由らしいですよ……」
「ほう……」
みなは、
「にゃ――」
黒い子猫は、
「おやまあ……しばらく待機か?……この大雨が憎い! いやはや……」
比叡山の鬼門の前で、そんな声を上げていたのは、以前、桜姫に腕を落とされた
「一応、鍵かけておくか……あの姫さま、おっかねえもんな……」
開けっ放しの鬼門から、直接殴りこまれるのは、少し勘弁して欲しかった「天」ちゃんは、鬼門に結界を張り巡らせて、どちらからも、行き来できぬようにしてから、元の世界へ戻ってゆくと、
***
「お申しつけの通り、鬼門の結界を戻してまいりました……だれひとり不審には思わぬはず……」
「そうか、よくやってくれた……では、いざゆかん……」
「雷公……!」
「その名は捨てた……我の名は、
「はっ!」
横にいた眷属第壱位、彼が生きていた頃の北の方、
「紅姫の準備もできております……」
「今までよく……否、あのときから、長くよくも耐えて仕えてくれた……」
雷公のその言葉に、彼女は指先も見えぬ、裄の長い優雅な袖で、そっと目元に浮かんだ涙をぬぐっていた。
彼に従う眷属は、その数の数え切れず、主だったものだけに、言い渡されていた計略に気づいていたのは、あの神に取り憑いていた、死神だけであった。
***
その頃、
「鬼門が閉じたとな……はて、おかしなこともあるものじゃ。まだ桜姫たちは到着した気配はないのであるが……いや、それどころではなかった!」
龍女は、この渦巻く嵐のような天候で、自分が暮らす島すらも、
***
みなが注目する中、桜姫が目覚めたのは、翌々日の朝、比叡山も
「あれ? 鬼門が閉まっている……」
「なんじゃ、来るまでもなかったのではないか?」
しゅるしゅると、元の小さな姫君に戻った桜姫は、自分には見える、かなり強力に張り巡らされた、土蜘蛛が編んだような、
「そなた……雷公の眷属、
「お初にお目にかかりまする……」
ふたりの間では、見えない結界の糸からいきなり、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます