第三十六話
豆粒のような
「つ、つっついてもいいかな?」
「かわいいな……」
「おやめなさい。眠っているのに、かわいそうでしょう?」
その日の真夜中、“弐”が、なにやらパラパラした音に目覚めると、見張りをしていたはずの“四”は、案の定というか、気絶するように眠っている。
「おいっ! 夜に弱いから……って、弱すぎるだろうが!? 普通起きるだろう!? この大雨に強風、そして落雷! なぜ、起きないんだ!?」
そう、彼らが知らぬ間に、雨はどんどん勢いが増し、高い位置に結んだはずの綱は、すでに大木をひっぱるようになっており、すっかり水かさが増えて、周囲を覆っていた
彼らが流されなかったのは、大木がずばぬけて高くそびえている上に、案外頑丈であったことと、ほんのちょっぴり、
「いやはや、大木のお陰で助かったけど……背が高いだけあって、落雷が怖いような……」
「龍」の方に乗っていた、“四”には、“壱”のその言葉は、聞こえていなかった。なぜならば、「
わずかに水から浮いているとはいえ、強い水の流れや風に引きずられていたのであった。
「龍」に乗っているのは“弐”“四”“伍”と桜姫に、
「お――い、大丈夫かえ――!?」
真っ黒な墨を流したような、
「桜姫さま――龍神であるのなら、この雨、どうにかなりませんか――!?」
「え!?」
流れてゆく「
「ひとくちに龍神と言っても……そこはそれ“
言いずらい!! そんな様子の彼女を見つめていた“弐”は、ため息をついてから、心の中に浮かんだ言葉を素直にぶちまけていた。
「よし分かった! だから内裏が燃えたとき、桜姫は役立たずだったんだ! 水出せないんだ! この
「しっ、失礼であるぞ! 少しくらいなら、水もどうにでもできるわ! この無礼者!」
「本当に? ひょっとして、
「燃やしておらぬわ! とにかく、もう船はあきらめよ! わらわが、みなを乗せてやる!」
桜姫は、とんだ濡れ衣を、着せられようとしていたが、まだまだ続く大雨と数々の災難に、それどころではないと、さすがに思い、本来の巨大な龍の姿になると、先に「龍」の船に乗っていた“弐”“四”“伍”と
それからすぐに、闇に飲み込まれそうにも見えた「
陰陽師たちは、目を丸くして、周囲を見渡す。“弐”が大声で桜姫に叫んでいた。
「雨が降ってない!」
「雲の上は、雨は降らぬ。雨は雲から落ちている故な……」
月明かりに照らされて、
「へ――おっと、あぶない!」
「にゃ――」
落ちそうになった子ネコを、いきなり人の大きさに変化した
「比叡山のあたりまで連れて行ってくれません?」
「…………」
こちらは、眠さで背中からずり落ちそうになる“四”を抱えた“壱”は、腕の力が持たないと、そんなことを言っていたが、桜姫が、「暗すぎて比叡山の方角が分からない」そんなことを言い出したので、目を閉じてしばし考えてから、彼女に方角を指示していた。
「やれやれ、ひどい目にあった……」
「みな無事であるか?」
明け方近く、一行は、どうにか雨の上がった山のふもとにいた。山の名前は「
「少し間違えていたか……」
「
「わ、わらわのせいではないぞ!?」
「今回はそうですね……」
「す、少しだけ寝かせてくれ……いまから比叡山はキツイ……」
今回の桜姫の言葉には、さすがに誰も文句を言うものはなく、小さな姫君にもどった桜姫は“伍”が下げていたカゴに潜り込むと、すやすやと眠りだし、いつの間にか、黒い子猫はいなくなっていた。
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