第二十八話
自分が去ったあとに起きた、ふたりの騒ぎも知らず、桜姫は、やかたへと近づくと、龍の姿から、いつものように、「小さな桜色の姫君」の姿になり“伍”の気配をたよりに、丸い光で自分を包み、気配を消して正門の隙間を、ふわりと潜り抜けて進みゆく。
正門から入ってすぐには、広い馬場のような場所があり、東の対屋と呼ばれる建物が見えた。
東の対屋の近くには、「
いまは相手にしている暇はない……桜姫はそう思い、こっそりと、静かにそこを通り過ぎ、鬼たちも、桜姫を覆っている丸い光のせいか、彼女には気づかぬ様子であった。
遠くに見える大きな池には、朱塗りの
“伍”の気配は、池の遠くに見える、中央の寝殿からしている。桜姫は少し迷ったが、おそらくは先ほどの眷属のような、手のかかる存在が、多数いるであろう建物の中を進んで、見つかる危険よりもマシであろうと思い、ひょいと空に上がり、池の上を飛ぶと、池に続く庭から、中央の寝殿へと続く
そこには、四方を様々な刺繍がほどこされた、絹で仕立てた
周囲には、やはり人ではない、そんな匂いのする女房たちが、数人控えている様子が見てとれる。
桜姫は、天井の薄い紙が張られた「
中には、
「祟り神のくせに、厄除けとは、片腹痛い……うん?」
畳の上に何枚かの
『なんじゃ、心配して来てみれば、紅姫のところで、さぼっていただけか!』
桜姫は、そう思い、なんだか分からないモヤモヤとした気持ちがしたが、
「紅姫ともあろう女が、なにごと……うわっ!?」
つぶやきと同時であった。いたはずの“伍”の姿が消えたかと思えば、そこには、どこまでも美しく、残酷な笑みを浮かべる。そんな、「真白の神」が“伍”の白い装束を着て、にたりと笑って、こちらに手を伸ばしているのが見えたのは。
「そっ、そなた! “伍”は? “伍”をどこへやった!?」
「はて……どこへやったかのう? あのようなつまらぬ者に成り代わっていたのは大層苦痛であったが、ようやく来てくれたので助かった。よく来たな桜姫、否、公主殿、わが、
「わらわを、その名で呼ぶでない……そう呼べる者が、いまだおったとしても、それは、そなだ如き“出来損ないの神”ではないわ、この痴れ者が……」
「……余が出来損ないの神であるなら、そなたは何者か? 最後の神獣、龍と言う名の、見さかいもない、たかが
「そなたよくも……」
真白の神が、そんな会話をしつつも、桜姫を愛おし気に、そう呼びながら、手を高く上げ、
桜姫が、
「ややっ……!」
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