第二十三話
〈 京・呪いのやかた 〉
「よし分かった! みな集まるように!」
寝殿には、例の「鉢」を真ん中に、もう餓死寸前とばかりに、ふらふらになっている桜姫を手のひらに乗せて、心配そうにしている“伍”と、やはり腹の音か鳴りやまない、そんな陰陽師たちが集まっていた。鉢には水と一本の素麺が、ひょろりと水に浮かんでいる。
「たった一本の“そうめん”なぞ、なんの足しになると言うのじゃ……その元気のよさ、さては、そなただけ隠れて、なんぞ食ろうておるに違いない……」
最近、顔が映るような、うすい粥しか食べていない桜姫は、お腹がすき過ぎて“伍”の手のひらの上で、文字通り、ぐったりしていたが、最後の力を振り絞ったかのように、か細い声で“壱”に向かって、毒づいていた。
そんな桜姫の言葉を“壱”は、気にもせずに話しだす。
「最近ずっと、蔵で書物を読んで調べていると……どこからか、声が聞こえて来たのです」
「声? どうせ、
「いや、聞いたこともない声で、その尊き声は告げたのです」
「……なんて?」
やる気なく、ぼそぼそと“壱”と会話をしていた桜姫は、やはり投げやりに、か細い声で聞き返す。
「鉢に“そうめん”を一本入れ、桜姫に“ヒフミの
「え? わ……わらわ……?」
お腹が空いて、できれば、声も出したくないのに……彼女はそんなことを思ったが“伍”が、あまりにも期待に満ちた目をしているので、その手の上で、なんとか立ち上がり、鉢の側へゆらりと舞い降り、
「
そう、死者すら復活するヒフミの
「うむ……これは、すばらしい鉢である!」
「他の物も出ますかね?」
「どうかのう?」
たらふく“そうめん”を食べて、ご機嫌であった桜姫は、物はためしと、米を一粒入れて、みなが見守る中、
「“そうめん”限定みたいですね……」
「そうめん神社の賜り物ですもんね……」
「とりあえず、食うには困らんようになったな……」
その頃、天の世界では、真白の神が、雷公に説教をされるわ、そうめん神社の神へ、お詫びの
どうやら、神の世界にも序列はあるようであった。
***
「
「……まだ、食べているんですか?」
“伍”は、毎日毎日、いつも、いつまでも、そうめんを食べている桜姫に呆れて、そんな声をかけていた。
「わらわの鉢じゃ、文句はなかろう? それに、そうめんなら、いくらでも入る! あっさりしておるからの!」
「最後の一本は置いていて下さいね」
「わかっておる、わかっておる……大切な種そうめんであるゆえの。ほほほ……」
それから、呪いのやかたからは、毎日この
『
「また、そんなところで昼寝を……」
鉢の横でウトウトしている桜姫を見つけた“伍”は、優しい眼差しを彼女に向けて、そっと、寝殿の奥にある御殿飾りの中へ、彼女を運んでいた。
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