第二十話
だれも近寄れぬようになっている“比叡山の鬼門”の壊れた扉につながる深淵の奥から、ふたつの銀色の光が扉をくぐりり抜けてゆく。
真白の神が投げた「銀色の松葉」は、門の近くで、あのときの騒動で命を落とし、焼き尽くされて、野ざらしになっていた髑髏のまなこに、それぞれ入ってゆくと、その
穴から強い光が放たれ、ふわりと浮かび上がり、それぞれに同じ武将の姿に変化した。
松葉のふたりは、
彼らは無言で、桜姫たちがいる御神体の神山がある、
松葉のふたりは“伍”と桜姫を探していた“弐”と“参”のふたりに、その姿を見とがめられたことには、気づいていなかった。
「いまの何者だ……?」
「少なくとも、まっとうな存在ではないでしょうが……この騒ぎを起こした者にしては、力が強すぎる……恐らく狙いは、あの大喰らいでしょうね……」
「桜姫か……」
「“伍”なんて、ひとたまりもないですよ?」
「“伍”が
“参”が、開かぬ門の前で、自分が使役する鬼神を使役して、扉ごと門を破壊し、ふたりで中へ押し入ると、やかたの奥から、『白狐の呪い』の気配がする。
桜姫の声も聞こえた気がしたが、その程度の呪術師相手ならば、別に大丈夫だろうと、ふたりは先に消えた
「お——い“伍”——どこに行った——?」
「あの馬鹿、余計な力は使いたくないのに……」
小声ではあるが、酷い言われようである。
武将とぶつかる前に、少しでも戦力を探そうと、ふたりが気配を探っても“伍”は、どこにも見つからない。
「しかたがない……」
「なにする気だ?」
真っ白な式神用の
『痛い! 痛い痛いっ!』
「そこにいたか……」
「乱暴が過ぎるぞ……」
“伍”は、小さくされて、火鉢の横に置いてあった、餅の間に挟まれていたのである。ふたりは、見つけた餅から、“伍”を、無理やり引きはがす。
「痛い! 酷い! 痛い!!」
「うるさい、静かにしろ。ここの
「!!!!」
そんなこんなではあるが“伍”は、なんとか元の大きさに戻って、先輩ふたりのあとを、ヨロヨロと歩いていた。
「助けても、役に立たなかったような……」
「言うな……今更遅い……“伍”桜姫がヤバいぞ、力を振り絞れ……」
「やっぱり、書き込みしてて、よかったでしょう?」
「…………」
その頃、空腹を抱えた桜姫といえば、やはり真白の神の予言通り? 白虎の女を軽々と仕留めたまでは、よかったが、案の定、松葉の武将たちに前後を囲まれて、窮地に陥っていた。
「ええい……普段であらば、このような、つまらぬ者ども、ひと息で仕留めてくれるのに……腹が空いて……力がでぬ……」
元はと言えば、あの役立たずたちのせいだと、桜姫は「真白陰陽師」たちを思い浮かべながら、それでも、すべての力を集中させて、金色の蛇を巨大化させていた。
「“伍”……それか誰でもいいから、誰かおらんのか……いても、なんともならん気はするが……」
桜姫を守るように、金色の大蛇が、まわりを、とぐろを巻いて、松葉の武将たちに、身を切り刻まれている中、姫君の意識はうっすらと、この世界から旅立とうとしていた。
***
その頃、畏れと祟りの世界では、真白の神が、水鏡をのぞきながら、紅姫に、つぶやいていた。
「ちょっと、やり過ぎたかな? どうしようかのう?」
「なにをしたいのか、お考えが、まったくわかりませんが……」
「色々との……」
「はあ……」
紅姫は、一応“伍”が最後のお願いをしてくるかな? などと思ったので、約束を果たすべく、大和国へ向かう用意をするために、姿を消そうとしたが、真白の神に咎められ、どうしたものかと考えを巡らせながら、彼の側に控えていた。
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