第十八話
そうめん神社は、由緒正しい、いにしえの神が
そんな由緒正しくも、神意なる神の御神体である神山を、大急ぎでかけ下りた真白陰陽師たちは、ようやくたどり着いた社務所で、ことの成り行きを詳しく聞いていた。
「
祝詞というのは、神への祈りであり、儀式で奏上する言葉であり、一言一句、間違えることは許されないものである。このように由緒正しい神社で、まず、起こりうる話ではなかった。
「その、間違えからして、怪しいですね……」
「しかし、なんにでも効果がある神社じゃのう。広いし……仕えている者が、ちと、頼りないようじゃが……」
「しっ!」
“伍”は、不審そうな神職から、桜姫が入っているカゴを素早く隠すと、一緒に来ていた“弐”と“参”にあとは任せ、用意されていた近くの宿とやらへ、先に行くことにした。
一の鳥居をくぐり、しばらく歩くと、聞いていた通り、このあたりの荘園を管理している国主が用意してくれたという、小さいながらも行き届いたやかたへ、ようやくたどり着く。
「もういいですよ」
そう桜姫に声をかけた。
「やれやれ……今日は酷い目にあった。重たい荷物(“伍”たち)は運ばされる、カゴはふりまわされる、しかも、まだなにも食べていない」
花の女房たちは、京へ置いてきたので、桜姫は、ひどく疲れた様子で、用意されていた一番の上座、分厚い畳に置かれた、座布団の先祖のような、美しくても平べったい、
口にはしないものの、大きな龍になるのは、いまの彼女には、かなり負担なのであった。
「…………」
そんな桜姫を“伍”は、しばらく見ていたが、そっとその場を離れると、やがてやって来た、手伝いらしき下働きに、指示を出しながら“弐”たちが、やってくるのを待っていたが、彼らがやってくることはなかった。
***
その頃“伍”が待っていたふたりは、用意された『本物のやかた』で、顔をしかめていたのである。
「あいつ、どこに行った?」
「……いやな予感しかしない」
「先に準備しておくか……あれ? 筆がない! “参”筆貸してくれる? どうせ自分で書けないし、いいじゃないか!」
「~~~~」
“弐”と“参”のふたりは『一字一妙の秘法』と呼ばれる、簡単に言ってしまえば、九字切りの威力を上げる秘術で、左手に『切』という文字を特別な念のこもった墨で書き、本来であれば、右手を握りながら、七回詠唱するはずの呪文を、狩衣をまくり上げ、そちらも、それぞれの右手に七回分書き込む。
この墨はしばらくの間、彼らの腕の上に文字をくっきりと浮かべていたが、やがて沈み込むように、腕の中に消えで行った。
「こういうことは、あまり“伍”には覚えて欲しくないですけれど……」
「なんで? うるさいこというなよ! これができること自体、俺らが凄い証拠なのに!?」
使える能力は使う、それが“弐”の身上であった。
そんなふたりの言葉が示す通り“伍”が入り込んだのは、わざわいをなす
***
『オカシナ者ガ、ヤッテ来タソウナ……』
『美味ソウジャ、美味ソウジャ』
神聖なる神山に紛れ込んでいた『妖・あやかし』は、里に降りていた仲間からの知らせを受けて、夜の闇に紛れ、次々と里へと下りてゆく。
はからずも彼らの狙いは、“伍”ではなく、疲れ切ってスヤスヤと眠る桜姫であった。
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