第十一話
〈 呪いのやかたにある御殿飾り 〉
「姫君、そんなに飲まれると、明日に差し障りが……」
事情を理解した桜姫は、すぐさま放り込まれた御殿飾りの中で、頭の上に花々を載せた小さな女房たちが、彼女を取り囲み、オロオロするのも構わず、持ち込んだ白酒を、まるで、いまでいうところの、大相撲の優勝会見のように大きく見える、普通の人間サイズの漆塗りの盃で、浴びるように酒を飲んでいた。
やけ酒である。
外は
「は――外の声が気になって、楽しい気分になれぬ……そうだ、
彼女は、はたと思いつき、自分と一緒に蔵に閉じ込められていた、まだ蔵にいるはずの同じく
しばらくすると、外のぼそぼそとした話し声は聞こえなくなり、紅色の
『
「おやおや、食い意地に負けて、蔵から出てゆき、今度は、いきなりの呼び出し……一体どういうことかと思えば……」
頭に椿の花を載せた女房が、
「いくら、二位からの命とはいえ、そもそも我々は摂理を超えた存在。無視をすればよいのに」と、向かいに用意された畳に座りながら、檜扇で口元を隠しながら、彼女にささやく。
桜姫は、ちらりと
「……ほほほ、それこそ紅姫のように、なにかその“伍”とやらに、一、二度、助けの手をやれば、よいではないのですか? なに、その“六”とやらが、いくら腕が立つと言っても、われら三人にかなうものではないでしょう」
下敷き事件を聞いても
***
〈 翌朝 〉
「恩返しがお願いできる料紙?」
「はあ……桜姫が……」
「やはり今日は、
質素な朝餉を食べながら“伍”は他の陰陽師に、昨夜、花の女房が持ってきた桜姫の呪札とでも言うべき『料紙』の話をしていた。
御殿飾りからは、まだ酒の匂いが漂ってくる。桜姫が起きてくる気配はなかった。
「……ふうん、そういうつもりか」
“壱”はそう言うと“伍”になにか考えのある視線を向けていて、視線の先にいた“伍”は、必至で視線を逸らしていた。
「こっちを向け。そうかそうか、このような強力なモノを持っているならば“伍”には、別の仕事に行ってもらおう」
***
〈 昼過ぎの御殿飾り 〉
ようよう起きて来た桜姫は、まあ“伍”にやったご褒美は、他の陰陽師もいることだし、お守り替わり。何事もなかろうと、のんびり隙間から見える綺麗な庭を見ていると、慌てた顔で、椿の女房がやって来る。
「“伍”の陰陽師ですが、姫君の強力な守りがあるのだからと、他の怨霊事件に回されたそうです! なんでも、とても酷い者どもが、街中に集まっているとか……」
「……呪札は一枚しか渡しておらぬぞ?」
「ええ、そうにございます! もし桜姫を呼び出しなさっても、あの方の実力では……」
桜姫は眉を寄せて、両手をこめかみにあて、しばらく考えていた。目の前には女房たちが、いそいそと片付けようとしている、昨夜の顔よりも大きい盃。
「……片付けを少し待て」
「は……?」
桜姫はおもむろに立ち上がると、女房たちに旅の時に着る壺装束を持ってこさせて、着替えを急かして整えさせ、その盃をさかさまに返し、市女笠よろしく頭にかぶって顔を隠す。
「ちと散歩に行ってくる。正体がバレると、面倒だからのう……」
あとでその話を聞いた
『なんという同僚じゃ!』
そう、結局“伍”のことが心配になった桜姫は、まんまと“壱”の計略にかかり、変装? をして、呪いのやかたから、飛び出して行ったのでありました。
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