第十話
【前説・大内裏(霞ヶ関)における官庁と官位、そして
このざっくりとした平安時代での官庁と官位は、主に二官八省で構成され、太政官、神祇官、そして八省からなり、
が、前世の行いがこの世の生まれ……そんな風に絢爛豪華な王朝文化にどっぷりつかったこの世では、どちらかといえば大貴族の子弟たちの通過儀礼的なポスト、名誉職であり、世間からの見立ては『映える貴族の揃った帝や後宮の警備担当 兼 簡単な秘書室』であった。
いまのところ……。
***
「ほう…… “
あっという間に、呪縛の“呪”をかけた料紙からでてきた桜姫は、声のした方に
「なんじゃそなた? わらわは
「さ、桜姫! その方は!」
「人の身である公卿など、なにほどのもの……おや? そなたどこかで……そなた
「よう覚えていらした。ならばご存じであろう? わたしの
「~~~~」
その畳を寄こせと、上座の公卿に向かって偉そうにしていた桜姫は、むっとした顔をして、どう言い返してやろうかと思案する。
そう、とある公卿とは、内裏でひと際に輝ける存在との呼び声も高い『
本来であれば、左右の大臣のどちらかが兼任してもおかしくない地位でもあるが、ここ数年、大臣たちは諸事情もあって、先帝の女御の弟であり、さして欲もなく
「ふん! 二位がどうした。わらわは聖なる龍神の姫君……まて、やめろ! やめさせろ! また、わらわを下敷きにするつもりか!?」
視界の隅に見える、まるで美しいの山の景色を移したような、広大な庭にある築山と呼ばれる山に模した物が浮かび上がり、さっと視線を向けた先にいる“六”は、なにかブツブツと“
『下敷きは二度とごめんじゃ!』
桜姫はひょいと飛び上がると、またカゴの中に隠れて隙間から別当をにらみ、大いに腹を立てていたが、それでもまあ“壱”が「京とはおさらば」と言っていたので、『呪いのやかた』の持ち主であるこの男との話が終わればもう終わる話だと思い、カゴの蓋をしっかり閉めると、中にあった油で揚げた、唐菓子と呼ばれる菓子を、かじっていたが、やがて満腹になり、うとうととまどろんでいると、いつの間にか揺れ出したカゴの感覚に、「これで京とおさらばじゃ」そう思いながらのんびり昼寝をしていた。
***
〈 数刻後 〉
「……どういうことじゃ? ここは元の“呪いのやかた”ではないのかえ?」
「……気のせいじゃないですか……わっ! いや、ほら、先程の別当との話を聞いていなかったんですか!?」
巨大化してゆく金色の蛇に“伍”は大いに焦りながら、御殿飾りから出てきて、顔を真っ赤にして腹を立てている桜姫を、なんとかなだめようと、必死で説明をしながら説得をする。
「別当が自腹で雇ってくれた? 京に大和国(奈良)からやってきた妖怪を退治するために? で、旅に出るのをやめて、このやかたに戻った? 家賃も半額に……?」
「そう! そうなんです! そういうことなんです!
「よこせ……うまいなこれ……」
「……しかたないのう。それではこれからは、そなたら妖怪退治に頑張るのじゃぞ……このやかたは、わらわが留守を守ってやるゆえ」
「桜姫にも“命”が下っております」
「……え?」
「一応は“
「……え?」
「奈良の壊れた鬼門の修繕が終わるまでのことなので、そう心配ありませんよ」
ぽとりと
『鬼門の修繕が終わるまで』
簡単に言うが、それは最終的に、あの鬼門を壊した“あやつら” 『畏れと祟りの世界』の真白の神を倒すなり、話をつけるなり、どうにかするしかない訳で……わらわがどうこうできるものじゃ……。
「え――、わらわ、小さい姫君だから、やっぱり留守番していようかな? “
「嫌とは言わせんぞ? どうしても嫌だというなら、そなたの依り代である“深緋”をへし折る。どうなるか楽しみだな?」
「そなた! わらわを殺す気かっ!? あっ! いや、その、なぜその秘密を知ってっ……」
「明日の朝には
「~~~~~~」
御殿飾りに逃げ込もうとした桜姫は、無情にも捕まった“六”にそう告げられてから、心配そうに、小さな御殿から、「事」の成り行きを見守っていた花の女房たちに、ぽいっと投げ渡されていたのであった。
以後、桜姫はなるべく目立たないように、妖怪退治に参加することに、あいなったのでございました。
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