吸血鬼は、血の気が多い?!

無限飛行

選べっ…ない。

「君の口唇は、美しい。真っ赤な血のようだ。食べてしまいたい」


また、こんの男は、はぁ

「あんた、前から言ってるでしょ!そうやって歯の浮くような台詞を吐くんじゃあなぁーい!!」


どすぅっ!


「はう?!さ、流石、僕の奥さん、見事にミゾオチに入れるとは…ぐはっ」

「誰が奥さんだ、誰がぁ!」


私は、馬鹿な事を言うボケ男を蹴り飛ばす。

男は、私の蹴りに壁にめり込んだ。

あ、やり過ぎた。

またコイツ、全治3ヶ月やん!



「ふ、流石、我が婚約者。殺ることがハンパない」

「お前も、勝手に人をにするな?!それに殺ってなぁい!!」


ドカァッ


「ぐはぁっ、良いパンチーっ、今日の君のパンチラも、白でステキだ~っ」


「ぎゃっ、いつの間に見た、この変態?!」


男は、私のパンチで飛んで行きなから、私の個人情報をオープンにしやがった。

この変態、いい加減にして!



どーして、こうなっちゃったかな。


▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


私の名前は、愛川 萌あいかわもえ

23歳。

都内の中堅商社に勤める、ただのOLよ。

幼馴染みの彼氏がいる。

中学、高校と一緒。

遠距離恋愛中。


『ああ、萌。そっちは変わりない?俺の方も大丈夫だ。また、じゃが芋と玉ねぎ、最高のものが出来たから送るよ。6月には、一度、そっちに行くから、待っていてくれ。それじゃ、また、掛けるよ。愛してる、おやすみ』


「おやすみなさい、一樹」


私の彼氏、遠藤一樹えんどうかずき

高校卒業後、北海道の実家の農家を継いだ。

私は、卒業と同時に都内の大学に進学し、そのままこっちで就職した。

彼とは高校時代から付き合っていて、大学を卒業したら地元に戻るつもりだったけど、其れなりの大学を出たので、一度は其れなりの企業に勤めたいと、彼を説得したのだ。


まあ、大学を出た私の意地かな。

其れなりの結果が残せたら、地元に戻るつもり。

それに今の会社でも北海道支社があり、インターン制度もある。

来年には、応募するつもり。

そう、思っていたんだよね。

……


▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


先日の、新入社員歓迎会の時。


「やあ、僕は財閥の御曹司、眉墨 光太郎まゆずみこうたろう。こうちゃんって呼んで。萌えちゃん」


「は、はあ」

いや普通、自分で自分の事を、財閥の御曹司って言うか?!


この馴れ馴れしいのは、社会勉強と称して私の同期として入社した、文字通り自称、眉墨財閥の御曹司、眉墨 光太郎まゆずみこうたろう

新人研修から馴れ馴れしく接してくる、ウザい奴。

しかも髪の毛、茶髪ロング。

服装は、上下別の超ブランドブレザーを着て、めちゃくちゃチャラい。




「私は、田岡 正信。君の一個、先輩になる。宜しく頼む」


「判りました、田岡先輩。その、近いです。もう少し、下がって下さい」


この人は一期先輩で、新人研修の講師を勤め、私が入社した田岡物産(株)の会長の長男にして、次期社長の 田岡 正信たおかまさのぶさん。

ビシッとしたブランドビジネススーツ、オールバックで細メガネ。

一見、礼儀正しいのだが、やたら密着するスキンシップをとるセクハラ男だ。


「ふむ、いいだろう。次回の楽しみに取っておこう」


「冷凍庫で忘れて、あとで捨てて下さい」



「あ~っ、田岡先輩、萌ちゃんに近い、近い。間に僕が入れないじゃない」

私達が話していると、自称御曹司の光太郎が間に入ってくる。


「ふ、貴様は、命じた仕事が終わってないだろう。半人前に、萌に近づく権利はない」

田岡先輩は、細メガネをクイッと上げると、自称御曹司の光太郎に言った。


「あの田岡先輩、勝手に私を呼び捨てにしないで下さい」

この人、何か全てに近いんだよ。

勘弁してほしい。


この二人、新入社員歓迎会終了と同時に、私を送ると言い出して、私が入居している独身寮までついてくると聞かず、三人でここまで歩いてきていたのだ。

私を真ん中にして。


「ところで萌ちゃん、もしかしてハーフ?なんか目が赤いよね?肌もかなり色白だし」


「ああ、おじいさんがナーロッパのトランシルバニア公国の出身なんです。親の代はあまり出なかったんですけど、隔世遺伝ってやつですかね」


「なるほど、だからこんなに美人なのか」


「いや、あの、先輩?また、近い!」

また、この人。

くっついてくるんだけど!


「あーっ、また、先輩、僕の萌ちゃんにくっついてる。もっと離れなよ!」

いや、誰が僕のなのよ?!


もう、ちょっと、はっきり言った方がいいわね!


「あの、私、北海道に彼氏がいるんです。来年には、地元に戻るつもりなんで」


「そっか、じゃあ、あと一年もあるんだ」

光太郎は手のひらの指を折って、何かを数え始める。

おい、自称御曹司、何数えてんだ?


「ふ、障害があれば、燃えるものだしな」

おい、セクハラ先輩、何が燃えるんだ?


駄目だコイツら、私の話しを理解できないのか?


ドクンッ


え?!

何?急に身体が熱い?

私、どうしたのかしら!?


「ああ、萌えちゃん。今夜、晴れてれば、特別な夜だったんだけど、残念だったよね。彗星の天体ショー、曇っちゃったからなぁ」

自称、御曹司が夜空を見上げながら言った。

彗星?一体、なんの話しよ?


「彗星、300年振りのブラットポップ彗星だったか」

先輩が言った。


300年振り?、話しが見えない。

なんか苦しい、喉が無性に渇くんだけど。


あれ?でも、何かスッゴい美味しい匂いが辺りからする。

うわぁ、なんか私の好物の白い恋人のクッキー?!

食べたい、食べたい!

頂き、マース!


ブシュッ


▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


次の日、私は会社を休んだ。


新人研修後に直ぐ休む新人なんて、使えないレッテルを貼られかねない案件だ。

真面目一筋できた私にとって、耐え難い苦痛だが、正直、今はそんなもの、吹き飛んでしまった。


なんでこんな事になっているのか。

本当に誰か、説明してほしい。

何でかって?


それは、今私の目の前が、あり得ない状況にあるからだ。


ここは、私の自室。


そして私は、自分のベッドに全裸で寝ていたようだ。


私はいつも、パジャマを着ないと寝ない主義だ。

まして全裸で寝るなど、考えられない事だが、とりあえず、自室のベッドだし、そこまではとしよう。


けどさぁ、なんで、なんで私のベッドに全裸の男が二人、私を囲んで寝てるの?

全く、理解できないんだけど。


あ、なんか腹が立ってきた。

「あんたら、とっとと起きんかい!」



バカァンッ

「「うわあああっ!?」」



へ?

ベッドを叩いたら、ベッドが真っ二つに割れたよ?

え、ええ?!一体、どうなってるの?

「な、何?腐食でもしてたわけ?」



「萌ちゃん~っ、酷いよーっ」

「未来のダンナに、酷い仕打ちだ」



酷くない。

酷いのはアンタラだ。

誰が、誰の未来のダンナだ!


私は混乱する頭の中で、シーツで身体を隠しながら、二人の全裸男に対峙する。

多分、私は今、真っ赤に震えながら怒っているだろう。

よくも、私にこんな事を。

絶対に許さない。


「二人供!酷いです。私が酔って、正体不明になったところを、勢いで襲うなんてーっ!ぜーっ対に許さない!」



私の言葉に、何故かキョトンとしている二人。

はい?、人を襲っておきながら、その態度は何!?


自称御曹司のくそ野郎が、頬を掻き、明後日の方向を見ながら、口を開く。

「あ~っ、その、萌ちゃん?最初に襲ってきたの、萌ちゃんの方だけど」


はあ?!

いうに事欠いて何言ってんだ、コイツ。

ふざけてんのか?


「あーっ、確かに最終的に君の好意を受け入れてしまったのは、すまない。だが、私は断じて君を襲ってはいない。あ、なんだな、やはり、君に襲われたというか…」


はぁ、何言ってんだ、オールバック。

いや、今は、頭グシャグシャ細メガネ。


「先輩、仮に私が先輩を襲ったとして、大人の男性二人、女の身の私が襲えるとでも?」


「ああ、普通はそうなんだが、あの時の君は力が凄くてね。その、なんだ。抗う事が出来なくってね…」

何、乙女チックに身悶えてんだ。

このくそメガネ!

そんな常識外れな……ん?


「そうだよ、萌ちゃん。さっきだって、ベッドを叩き割ったじゃない」


自称がなんか言ってるが、ベッド?

確かにベッドが割れる前に、叩いた事は認めるけど、あれは古くて腐ってたからじゃないの?

私は、男どもに机や椅子に掛けてあった、奴らの服を投げ、男達をベッドから退かして、折れたベッドを見直す。


よく見たらベッドの骨組みは、木ではなく、鋼鉄製で、私が叩いたと思われるところから、見事に曲がっていた。

はい?


私は、辺りを見回して、置いてあったステンレス製マグカップを片手に持った。

そして、軽くマグカップを握る。


パコンッ


マグカップは、僅かな力にも関わらず、簡単に潰れた。

その後に訪れる静寂。

私は、呆然とそのマグカップの成れの果てを見ながら辺りを見ると、二人の男も目を見開き、口を開けたままだった。


「な、にが、起きて、るの?」

ペタンッ


私は、その場に座り込んでしまった。

二人が頷きあって、私に上着を掛けてくれたけど、訳が判らない。


数分ぐらいだろうか?

私が我に返ると、二人はずっと側にいてくれたようで、左右にしゃがんで待っていた。


「ごめんなさい、二人とも。今日は帰ってくれる?」

私はなんとか、声を絞り出して言った。


二人はお互いを見合せると、頷き立って、出て行った。

そして、静寂が訪れる。




プルプル、プルプル、プルプル


びくっ、私は突然の音に肩が跳ね、ビックリした。

スマホの着信音だ。

うう、今は出たくないけど、この着信音は久しぶりに聞く着信音だ。


でも、おかしい。

あり得ない。

だって、この着信音は、大好きだったあの人の着信の音……


恐る恐る、私はスマホを取る。


「も、もしもし?、え、はい?!?」


▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


ここは、とある東京タワー近くの喫茶店。

私はここで、ある人と会う約束で来ていた。


チリンッチリンッ


「いらっしゃい」


「連れが、先に来てるのでね。ああ、あの席だ」


懐かしい、とても懐かしい声が、背後でする。

でも、あり得ないのに、私の気持ちは、何故か、すんなりと其れを受け入れて、しまえるくらい冷静だ。


「待たせたな、萌」


正面の座席に座ったその人は、私が最後に記憶しているままの、懐かしい姿のまま、そこに立っていた。

私は、涙が止まらない。


「おじいさん」


其処に立っていた人物は、10年前に亡くなったはずの私の祖父だった。


▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


それから、祖父から聞いた話しは、信じられない事だった。


祖父は、吸血鬼の一族だった。


トランシルバニア公国の北西部には、吸血鬼の一族が住まう領域があるという。

祖父は、その一族の出で、たまたまトランシルバニア公国に訪れていた祖母と恋仲になり、日本で暮らす事にしたらしい。


◇トランシルバニア公国の吸血鬼は、伝説にある吸血鬼と違い、日の光にはやや弱いものの、日焼けしやすい程度で、太陽の下でも平気なんだとか。

◇また、吸血行為については、嗜好的な部分があるだけで、吸血行為を必要とする訳ではない。

◇力は、夜だけ人間より強くなるものの、意識的にコントロールは可能だ。

◇あと、寿命が人間の倍以上あり、見た目も20代からあまり変化がないらしい。

その為、祖父はある時から変装して、顔を年寄りに見せていたようだ。


そんな事もあり、祖母亡き後、家族で話し合って、死んだ事にして公国に帰っていたそうだ。

私達については、父が吸血鬼の能力に目覚めなかったので、吸血鬼は劣性遺伝でもあり、混血に発現しにくいので、大丈夫だと思っていたらしい。

そして私に発現した力は、やはり吸血鬼の力だったそうだ。

隔世遺伝って奴。


けど、何故、劣性遺伝でありながら、隔世遺伝で、私に発現したのか。

そして、その事を祖父が何故、知る事が出来たのか。

その理由を祖父は、次のように語った。


「今、ブラットポップ彗星が300年振りに地球に接近しとるじゃろ?あれは、吸血鬼の血を活性化させる波動を地球に送っておるんじゃ。だから、血の弱い混血の間で、吸血鬼の血に目覚める事例が相次いでおる。それで、家族が心配になって、電話をしたんじゃよ」


「そうだったの。お父さんは大丈夫だったのかな」

「ああ、真っ先に電話したが、発現はしておらんかったよ」


「良かった」

私が安堵した表情をすると、祖父は寂しそうに私を見る。


「吸血鬼も悪い事ばかりでは、ないんじゃがの。生涯の伴侶を間違いなく、捜せるしの」


「生涯の伴侶?」

私は、祖父から気になるワードが出たので、祖父に確認した。

それは…


「吸血行為が、生涯の伴侶を見つける為の行為なんじゃ」


「吸血行為が?それは、どういう?」




それは、とんでもない話しだった。


吸血鬼の能力として、血の匂いを識別できるそうだ。

そして、生涯の伴侶を見つけた時、その匂いはもっとも好物の匂いになり、本能的に吸血行為に及ぶらしい。


「え?其れって、まさか、お菓子の匂いとかも?意識が飛んだり?え、ええ?!」


「すでに覚えがあるかの?それは、めでたい事じゃ」

にこやかに笑って言う祖父。

その笑顔に、私は悩ましい気分で確認する。


「いや、おじいさん。とんでもない事になってます。それと、その生涯の伴侶は、一人とは限らないって事、あります?」


「そうさのう、確か、公国では妻を二人、三人連れとる者もおったかのう。まさに両手に花かの。羨ましい限りじゃわい。はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」


私は震える拳で、この能天気ジジィを殴りたかったが、喫茶店内の為、さすがに踏みとどまった。

ただ、確認する事は、もう一つある。


「その吸血行為に及んだ相手に対しての効果は、何かあるんですか?」


「そうさの。吸血された者は、吸血した伴侶を大事に思う気持ちが強くなる。まあ、浮気は出来んようになるのぉ。吸血した伴侶以外とは、結ばれる事は出来んじゃろ」


ガタッ

「なんですって!」


何て事。

じゃあ、あの二人は、私以外とは結ばれる事が出来ない。

一生、私は、あの二人に付きまとわれるって事じゃない?!


▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


喫茶店を出た私は、迷わずジジィをぶん殴った。

ジジィは、流石に吸血鬼で頑丈。

吹っ飛ばしたが、ニコニコと何食わぬ顔で、横浜中華街に向かった。

土産に、豚まんを買って帰るらしい。

ちなみに、ニンニクは好物だそうだ。

変な吸血鬼だ。


▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


そして、冒頭に戻る。


「はぁ、このしつこさ、どうにもならないの?」


うう、でも、私の吸血で二人は、こうなった訳だし、責任はとらなきゃいけないかも知れないけど、日本は重婚は認められてないのよ。

どうしたらいいの?!



プルルルル、プルルルル


「はい、萌です。あ?か、一樹?ん、元気よ。はい、え?いまから、ここに来る?い、いや、ま、待ってよ。部屋は散らかってるのよ。え?もう、ドアの前!?ちょ」


「はーい、第二夫の光太郎です。よろしく」

「私が第一夫の正信だ。君は、第三夫に」




「あんたら、うるさい!え?今の男の声は何?え、えーと、その」


「自称、未来のダンナ2号」

「ふ、私が1号だな」


「……………」






「…………もう、誰か、助けて~っ!!」





fin

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