第7話 元傭兵団長と砂漠の街②

【ラサール王国 クスラ】


アルトは朝早くに目を覚ました。


遺跡の場所は、昨夜色々な人に話を聞いたおかげで大方の場所は把握できた。


昼を過ぎる頃には太陽の日照りが強くなるため、アルトは夜が明けると同時に宿を出た。


開店前の繁華街を通る。

まだ早朝だか、パン屋の煙突からは煙が上がっていた。

パン屋は、よく仕事の大変さから、「悪魔の仕事」とは言われるが、毎日こんな時間から働いていることを考えるとそれも頷けた。


しばらく歩き、街を抜けると、森が見えた。


砂漠の中の森。


来るまでは、半信半疑だったが、樹木が青々と生い茂り、それは間違いなく森だった。


「はっけん!」


そして、森に入ると、すぐに遺跡が見えた。


遺跡は言われ通りでとても小さい。

クスラで見た、牛舎の方がまだ大きいくらいだ。



そして、遺跡の入り口には、こちらも噂通りに、遺跡調査に来たとは思えない、程度の低そうな、2人の若い男がマンゴーシュを武装して見張りをしていた。



アルトは、見張りの実力を大方察して、準備など必要ないように遺跡に近づいた。


「なんだ、おまえ?」


「剣なんか背負って、探検ごっこなら他所でやりなッ!!」


2人は嘲笑いながら、脅すようにして腰のマンゴーシュを抜く。


「ゴキブリ退治にきてやったぞ、害虫ども」


アルトは、それに対して一ミリも恐怖を感じさせずに煽り返した。


「クソガキが舐めてんじゃねーぞ!」


「ぶっ殺してやる!!!!!」



煽り耐性ゼロの2人は、一瞬で憤慨して、斬りかかってくる。



アルトは、慌てた様子なく、銀のナイフを両手に取り出し、流れるように投擲した。



ナイフは、決められた場所に戻るかのように、真っ直ぐに脳天に突き刺さり、2人は一瞬で絶命した。



多くの戦場を経験したアルト。

殺しという、行為に躊躇いは微塵もない。


彼にしてみれば、殺そうとしたら、殺されても文句の言えないこと。

殺し合いに、情けは不要。それは、偽善だ。


そして、アルトは何事もなかったかのように、遺跡の奥に進んで行く。




遺跡の中は暗くて冷たい。ここが砂漠とは到底思えなかった。

所々にある松明があるおかげで、暗がりの中を歩くことには困らなかった。


だが、一つだけ不快なことがあった。

それは、この幻想な場所に似つかわしくない下卑た笑い声。


盗賊の達が、こんな時間から宴会を繰り広げていた。


明らかに、酔っ払っている。現に、未だにアルトの存在に気づいていなかった。


アルトは、さっさとやつらを片付けようと、残りの少ない銀のナイフを、指に挟む。



すると、やっとここで1人の男が、アルトに気づいた。


「だれたでめぇい? なに入ってきてんだよ」



その男の呂律は怪しいものだった。



「外の見張りのやつらはどうした?」



明らかに他のやつはとは、別のオーラがある、リーダーらしき巨体の男が続け様に、殺気を放ちながら尋ねた。




「あんなザルな見張りとは言わねぇーよ。まだ、野良犬でも置いてた方がマシだと思うぜ」



アルトは、歯牙にもかけない様子でそう答えた。


煽りを聞いて、若い連中が武器を抜いた。


「ざけんな、てめぇ!」「ぶっ殺しやる」

「クソガキがっ」


しかし、アルトはもう既に銀のナイフを構えていた。


盗賊共が、駆け寄る隙もなく、アルトはナイフを投げ、そのナイフはまたもや脳天に突き刺さった。


残るは、4人。


アルトは、背にかけていた、剣を抜いた。


「稲妻纏え【フルグル】」


雷の魔力を体に巡らせて、稲妻の如く速さで、1人の若い男に一瞬で接近し、移動したスピードを落とさず胴を切り裂く。


そして、そのまま流れる様に、近くにいた長身の男に回転蹴りをあびせ、呻き声をあげ上半身がくの字になったところで剣で斬り上げ、首を落とした。


百戦錬磨のアルト。

人間相手の戦いには、負ける要素が微塵もなかった。


残りは、後2人。


残ったのは、最初からにアルトに気づいた男と、リーダーらしき巨体の男だ。


「お、お、お前、な、何者だッ!!?」


最初に気づいた男は、酔っ払いの出来上がった真っ赤な顔から、夢から醒め現実に無理矢理、引き戻されたように真っ青な顔色をしていた。


恐怖で立っているのも難しいようで、震えながら腰を抜かしたように座り込んでいた。



「てめぇ、ラサールの騎士団のやつかッ? クソがッ! 今更になって、来やがってッ!!」



そして、リーダーの男は怒りを露わにしながら、顔を酷く歪ませていた。


「別に俺は、騎士団の者じゃねーよ。ここには、遺跡調査で来た。てめぇーらはそのついでだ」



アルトは表情を変えずに、剣に付いた返り血を払いながらそう言った。



「つ、ついで? ついでで来ただとッ⁉︎ ふざけるなッ‼︎ 」



リーダーの男は、アルトの言葉に激昂し、ハルバードを強く握りしめる。


「殺してやるうゥゥゥッ!! 死ねッ、ガキィィィ!!!!」


そして、叫び声を上げながら、大振りでハルバードを振り下ろした。



しかし、そんな大振りがアルトに通用する訳もなく、アルトは余裕をもって、なんなくそれ。躱す。



だが、リーダーの男の子攻撃はこれで終わらず力強く右足を一歩踏み出し、今度はハルバードの槍の矛先部分で突きを行い、そしてそのまま斧部分で薙ぎ払いを行った。


その一連動作は、この男が元騎士であることを窺わせるような、洗練されたものだったが、アルトはそれも半身をずらすだけで軽く回避した。


「もう満足か?」


回避から体勢を整えたアルトは最後にと、肩で息をするリーダーの男にそう問いかけた。



「て、てめぇ名前はなんてんだ」



大男は肩で息をしながら、最後に殺されるやつの名を聞こうとそう尋ねた。



「なぜそんなことを聞く?」


アルトにしたら、それは初めて予想外のことで、逆に問い返した。



「どうせ殺されんだ、名前ぐらい知ってもいいだろ」



リーダーの男は自虐したように答える。




それにアルトは鼻で笑って、名前を明かした。



「俺の名は、アルト・エイメ。元傭兵だ」



リーダーの男には、その名に聞き覚えがあったようで、驚いた表情をする。



「…ははっ、はははっ、はははっ、はははッ!まさか、ハナバストの英雄、アルマス大傭兵団団長、稲妻のアルトと最後に戦えるとはッ! 光栄だッ!!!」


リーダーの男は、騎士の、戦士の矜持として、最後は名高いものに倒されることに興奮しながらそう叫び、ハルバードを再度強く握り直した。



「元団長な。それにまだ英雄なんて大それたものを名乗るのはおこがましいぜ」



それに合わせて、アルトは右手の剣に魔力を込める。


「剣に雷纏え【トニトゥルス・テールム】」



「本気で来てくれるとはッ! ありがたい!」


両者は同じタイミングで、撃ち合う。



「紫電一閃【アクタ・ルークス】」


しかし、アルトの稲妻の剣は、男の何倍もの速さで一閃した。



斬りつけられた男は、血飛沫を飛ばしながら、膝から崩れて落ちた。



(ふぅー。これで終わりか。)



そして、男の子が倒れ気が緩んだ瞬間、ヒュンッとアルトの頭目掛けて矢が飛んで来た。


「なッ!」


アルトはそれを振り向き様に、人間離れした反応速度で左手で矢を掴んだ。


「チッ、あぶねぇー。あと1人いたんだった」



左手は、掴んだ矢尻で切ってしまい血が滲んでいた。



最初にアルトに気づいた男が震えながらクロスボウを持っていた。



 (はあ、俺も腑抜けてんな。戦場で、油断なんて笑えねーや)



アルトは自分を戒めて、再度剣を持ち直す。



そして、男のクロスボウを足で蹴飛ばしてから斬りつけ、盗賊団を壊滅させた。

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元傭兵団長は、英雄の遺物を求めて旅をする。 ぽぽぽぽーん @takumao3o

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