第6話 元傭兵団長と砂漠の街①
【ラサール王国 クスラ】
ラクダのダクラと別れてから数時間、目の前には壮大な湖が広がっていた。
砂漠にあるとは思えないほど青々とした樹木に、草花。そして、湖の水面には、赤く輝く夕日を綺麗に映し出していた。
「すげぇー」
思わず声に出してしまうほどに綺麗な景色がそこにはあった。
「うッ! さむっ」
そんな景色に思い耽っていると、アルトの肌を冷たい風が撫でた。
気温も下がり始め、結構寒くなってきた。
遺跡探索は明日にすることに決め、アルトは寝床を求めてクスラに入り、宿を探し始めた。
夕刻ということもあってか、酒場や宿以外の店はもう閉まっているようだ。
(ああ、疲れたし、腹減ったな。あのデカイの倒したことだし、ちょっといい宿でも探すか)
アルトは財布の中を確認する。
今現在、財布は軽い。だが、先程ギガントサンドワームを倒したこともあって、お金の心配はないため、アルトは少し良い宿を探し始める。
※※※※※※
アルトは、ある程度街を歩き、宿を探した。
最奥で、綺麗な【琥珀の宿】という所を見つけたので、今夜はそこに泊まることにした。
鈴の付いた扉を開ける。
「いらっしゃい!」
鈴の音とともに恰幅のいい30くらいの女店主が迎え入れてくれた。
アルトはそのまま入り口付近のカウンターに進み受付を行う。
「一泊泊まりたいんだが、飯付きでいくら?」
「夕食、朝食付きで銀貨貨7枚だよ」
アルトは財布から、残りのほぼ全財産である銀貨7枚を取り出した。
(あー、これで銀貨が無くなったぜ)
「はい。では、鍵どうぞ。部屋は2階の1番右端ね。夕食はすぐに出せるから食堂にどうぞ」
「あんがとう」
女店主から鍵をもらって2階の部屋に向かう。
掃除が行き届いた廊下を通って、右端の部屋に行き着いた。
もらった鍵でドアを開ける。
部屋の中は、大きなベットと木製の机と椅子があるシンプルなものだった。
アルトは軽装とナイフホルダー、フードを外す。
荷物袋と外した装備達を机に置いてから、溶けなかった双剣の片方と、財布を持って下の食堂に向かった。
食堂の客は数人であまり多くない。
空いているテーブルに座ると、先程の女店主がやってきた。
「下りてきたね。飲み物はなんにする? エールやワイン、蜂蜜酒なんかもあるよ」
「酒は飲めねぇーんだ、水をくれ」
アルトはいつものようにそう頼んだ。
「そうなのかい、わかったわ。うちのご飯は美味しいから楽しみにしてね。今日のメニューは、羊のクスクスとそら豆のコロッケ、キャベツのスープだよ!」
「ああ、おなかぺこぺこだから楽しみだよ」
アルトは満面の笑みで心待ちにしていることを伝えた。
「ふふっ、若いからたくさん食べるだろ! 大盛りにしとくねッ!」
女店主はアルトの答えにどこか嬉しそうにそう言った。
アルトはテーブルに備え付けられた灰皿を近くに持ってくる。
衣嚢から煙草をとりだしてマッチで火をつけた。
高い宿にはこうやって灰皿が置いてあるので有り難い。
少し待つと、女店主はトレンチに料理を乗せて運んでくる。
どれもかなり美味しそうで皿いっぱいに盛られていた。
「お兄さんはここには、観光かい?」
女店主は料理をテーブルに並べながらアルトに尋ねる。
「遺跡の噂を聞いて英雄の遺物を探しにきたんだ」
アルトは恥ずかし気もなくそう答えた。
「おお、これまた珍しいね。あんたみたいな人は久しぶりだよ。でも、あんな遺跡に、英雄の遺物なんと思うよ」
女店主はどこか可笑しそうに言う。
「それでも一応、行っときたいんだよ」
「そうなのかい。でも、それはやめときな」
「あ? なんでだよ」
アルトは女店主の言葉に顔を顰めた。
「今、あそこは盗賊団が住み着いてるからだよ」
「盗賊?」
(あの酒場の親父、盗賊団の話なんて聞いてねぇーぞ。銀貨5枚も払ったのにテキトーじゃねーか)
「そう、薄汚い盗賊さ。この街でも好き放題やってくれてね。みんな辟易してるよ」
「この街に、騎士や衛兵はいねぇーのか?」
(普通、街を襲う山賊など、すぐに衛兵や騎士に取り押さえられるものだと思うが)
「こんなとこで騎士や衛兵になるやつらの腕なんかたかが知れてるよ。それに、なんでもリーダーは元ラサール王国の騎士団員で、腕が立つみたいだしね」
「あー、なるほどな」
アルトはどこか納得したように頷いた。
「だからお兄さんも近づくのはやめときなよ」
女店主は心配してくれているなか、強く訴えかけるようにそう言った。
「はーい、わかったよ」
(遺跡調査のついでに盗賊団潰しとくか。盗賊ってのはほんとどこにでもいるなぁー、ほんとゴキブリみたいなやつらだ)
アルトは返事とは裏腹に、盗賊団を潰すことを決める。
「ほんとに危ないからね」
女店主は、アルトの軽い返事に不安を感じ、念を押すように言った。
そして女店主は、なにかを思い出したように話を変える。
「あ、そういえば今から3年前くらいに隣の国の王女様がこの遺跡に大勢の護衛引き連れてやってきたよ」
「へぇー、そーなのか。で、そんときも何にも見つからなかったのか?」
女店主は不憫そうな顔をする。
「それが探索どころじゃなかったらしい」
「というと?」
「それが、王女様が消えたのよ、遺跡の中で。それほど広くない、遺跡だから隈なく探したらしいけど、見つからなかったらしいのよ。護衛も大勢いたから、目を掻い潜ってどこかにいくってことは難いから、本当に神隠しじゃないかって噂されたみたいよ。あれだけ探したし、3年も経ったから、もう隣の国でも亡くなったことになってるみたいよ」
「神隠しか…」
(これは意外と隠し通路とかあるかもッ!)
アルトは思わずニヤリと笑った。
女店主はその笑みを不思議に思いながらも、料理を勧めた。
「話すぎたね、料理が冷めるから、ささっ、食べておくれ」
「ああ、ありがとう! いただきます!」
アルトも思考を止めて、冷めないうちにと料理を食べ始めた。
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