第5話 元傭兵団長と魔石
「こいつの魔石をとるのは一苦労しそうだな」
アルトは煙草を吹かしながら、嘆くように呟く。
魔物には、体のどこかしらに魔石というコアが存在する。
わかりやすく言えば魔物の心臓部分で、普通の動物と、魔物の大きな違いは魔石の有無だと言われている。
ちなみに、多くのギルドでは、この魔石を持っていくことで魔物の討伐が認められている。
そのため、懸賞金を得るためには魔石の剥ぎ取りが必要であった。
しかし、ギガントサンドワームの鱗はアルトの渾身の双剣撃さえも弾く強力なもの。
その鱗から内部にある魔石を取るのは簡単ではないと思われた。
また、血液は強酸であるため解体することで武器も体も無事では済まないだろう。
早く剥ぎ取りをしなければ太陽が沈んでしまう。この砂漠は夜になると激しく寒くなる。
アルトの今の装備では心許なかった。
どのようにして、この魔石を剥ぎ取るかアルトが思案していたところに遠く離れた背後から声がかかった。
「おーい、おーいッ!!」
アルトがなにかと思い、振り返ると、先程のターバンを巻いた男がラクダに乗り、走り寄ってきた。
「おお、あんたか」
「なッ!!!! ほ、ほんとに主を倒しちまったのかよッ!!」
男はラクダから降りて、ギガントサンドワームの亡骸をマジマジと見つめる。
わなわなと震えて、腰を抜かしそうであった。
「てか、あんたはどーしたんだよ。こんなとこまできて?」
アルトは思った疑問をそのまま投げかける。
「やっぱり自分より若いやつが死ぬのは黙っていられなくなってな、追ってきたんだよ」
男は、次第に興奮気味になっていき、アルトの手を両手でとって、激しく上下させながら、言葉を続ける。
「それがまさか倒しちまうとはな、夢にも思わなかったぞ。すごいな、あんたッ!!」
アルトは、男の興奮にやや気圧される。
「はぁ。わかったから落ち着けよ」
そう言って、強引に手を振り解いた。
「す、すまん。だ、だがな! こいつは何人もの戦士が挑んで勝てなかったやつだぞ...それに、俺の友人も何人も死んでいった。だ、だからほんとに、ほんとにありがとう!!」
男は一度、砂漠の主に挑んで死んでいった仲間のことを思い悔しさを滲ませる。
そして、かたきをとってもらったことに対して強い感謝を伝えるのであった。
(そんなに苦戦する相手ではなかったけどな。まぁ、言わないのが華だろう。こんなに喜んでくれるのなら悪い気はしねぇーしな)
アルトはそんなふうに思いながら男の礼を受け入れた。
「あぁ、倒せてよかったよ。」
その言葉をきいて男は満面の笑みを浮かべる。
「これであいつらも報われる! そして、砂漠の街【クスラ】にも、もっと人が来てくれる!感謝してもしきれない。ありがとう、英雄さん!」
「もういいよ、わかったから」
アルトは少し照れながらタバコの火を消す。
「なにかお礼をさせてくれッ!! なんでもいいぞ、なにか困っていることはないか?」
アルトは少し逡巡する。
「そーだな。倒したはいいが、こいつをどーするか困ってんだよ。俺は、早くクスラに行きてぇーからな」
そして、今現在一番困っている状況を伝えた。
「それなら俺にまかせろ!」
男は自分の胸をどんっ! と叩きながら話を続ける。
「俺の知り合いに魔物の解体屋が城下にいるからそいつに頼むよ! こいつの素材も使えると思うからな、そこらへんも俺に任せときなッ!!」
「それはありがたいけど、こいつを城下まで運ぶのもはさすがに大変だろ。それにこいつは、解体屋でも簡単には処理できねぇーと思うぜ」
「大丈夫、大丈夫ッ! 解体屋のやつはそれなり腕と知識があるから安心しな! 腐っても国一番だからな。それに運ぶのも暇な奴らと一緒に運ぶから、安心してくれ。砂漠の主を倒してくれたんだ、そのくらいはさせてくれッ!」
アルトは男の顔を見て、断るのは申し訳ないと思った。
「わりぃーな、じゃあ、頼むよ! あんがとな!」
「おいおい、礼なんかいい」
男はすぐにアルトの礼を手で制した。
そして、男は思い出したかのように手を叩く。
「あ、そーだ自己紹介がまだだったッ! すまん、すまん。俺の名は、ダクラだ。ラクダのダクラだ! 上から読んでも下から読んでも"ラクダのダクラ"だ! 覚えやすいだろ?」
「ああそう。俺はアルト、よろしく」
アルトはそう名乗り返し、フードを取って、顔をしっかり明かした。
「アルトか、よろしくな! へぇー、それにしても男前な顔してたんだな」
黒髪で目鼻が整い男前ながらも、少し幼さが残る容姿をみて、ふとダクラは本音をこぼした。
「ははっ、あんがとよ。それじゃあ俺はクスラに行くな」
アルトは少し照れながら、陽が沈む前にと出発を告げる。
「ああ、気をつけてな! また、城下に戻ったら、ニクトっていう解体屋に来てくれ! アルトがクスラから帰ってくる頃には処理終わってると思うからよ」
「わかった! あんがとよ!!」
アルトは礼を伝えた後、フードを再び被り、砂漠の街【クスラ】に向かい歩き続けるのであった。
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