第4話 元傭兵団長と砂漠の主②
【ラサール王国 ラサール砂漠】
砂漠を歩き続けて約3時間ようやく窪みが見えてきた。
砂漠というのは、歩くと足を取られるためいつも以上に疲れる。
また強い日照りのせいもあって、体力は消耗されていった。
(あぁー、まじでフード被ってきて正解だったな。こいつがなかったら日照りで死んでたわ)
アルトが、ラサール出身の傭兵仲間にこのラサール砂漠のことを聞いたとき、気温の差が激しいこと、太陽の光が強いことを伝えられていた。
ちなみにこの傭兵仲間は遺物の場所までは知らなかった。
窪みに近づくと、錆びれた剣や、折れた槍などの古びた武器たち、そして、10を超える数の人骨が大雑把に転がっていた。
おそらく、砂漠の主に挑んで死んでいったものたちの残骸だろう。
「なーむー」
アルトはそんな残骸を見ても、全く怖じけた様子がなかった。
「さて、どんなやつが来るか楽しみだなー」
アルトは興奮気味に、背中から双剣を取り出す。
それは、刃長60センチのもので、無駄な装飾など一切なく、鋼と魔物の素材で出来た片刃の剣であった。
「おぉ、来るな〜」
そして、双剣を構え、アルトの言葉を発したと同時に、窪みから、見たことのないような巨大なミミズのような形状で、荊のような鋭利な漆黒の鱗を持ったギガントサンドワームが現れた。
ギガントサンドワームは円口の口内余すことなく万遍に何百と生えた凶暴な歯を覗かせながら、縄張りに入るなという咆哮をあげた。
それは、耳を直接揺さぶるようなずしんと響く重低音の声だった。
「うるぇーいッッッ!!」
アルトも負けじと、笑いながら雄叫びを上げる。
「稲妻纏え【フルグル】」
そして、雷の魔力を血液のごとく体中に巡らせた。
一閃の稲妻の如く、ギガントサンドワームに肉薄する。
この世界では、魔力の多さ、少なさ違いはあれど全ての人が魔力を先天的に保持している。
そして、その魔力には属性があり、火・水・地・風・雷・光・闇の7属性があった。
そこから派生する氷や聖属性、無属性など後天的に身につける属性もある。
ちなみに、アルトはその中の雷の属性を有していた。
ギガントサンドワームは、アルトの速さを、目で追えず動けずにいた。
百戦錬磨のアルトがその隙を逃すわけもなく、に双剣でギガントサンドワームの口付近に連撃を繰り出す。
それは一瞬の間にも関わらず、幾百もの連撃だった。
しかし、ギガントサンドワームはその硬い鱗で連撃を受け止め、それは意味はないと言わんばかりに頭部付近をしならせ薙ぎを行った。
アルトもその薙ぎを当たる寸前のところで宙返りし、大きく後方に回避した。
「さすがに硬ぇーな、ただの連撃じゃ、そりゃ喰らわないわな」
ギガントサンドワームは、苛つきを露わにするように、またもや強い咆哮を上げた。
アルトは、その咆哮の圧に、恐怖するのではなく、寧ろ笑顔を見せた。
「残念ながら、俺に、咆哮【フィア】は効かないんだよ」
そして、再び稲妻の如くギガントサンドワームに接近する。
「双剣に雷纏え【トニトゥルス・テールム】」
今度は双剣を交わらせ天に掲げ、体だけでなく、剣にまで雷の魔力を流した。
「いくぜッ!」
そして同じ部位に雷を帯びた双剣で、幾千の連撃を繰り出した。
全く同じ箇所に、同じような攻撃を繰り出しているのに、ギガントサンドワームは、先程と同じように、全くアルトの速さについていくことができずに、されるがままに連撃を喰らっていた。
「チッ、これもあんま喰らってねーな!!」
しかし、いくつかの鱗の表面は削れても、内部には攻撃が通っているようには見えなかった。
アルトの双剣での最大の攻撃は、ギガントサンドワームの硬い鱗に阻まれてしまった。
「あー、クソッ! 双剣じゃあの鱗切れねぇな」
アルトは嘆きながら、ギガントサンドワームから距離をとった。
どうやらギガントサンドワームの鱗は簡単には打ち破ることができないようだ。
この攻撃が通らない状況に、アルトはこいつをどうやって倒すか思考する。
その思考を邪魔するようにギガントサンドワームは大きな口をあけて周りの空気を吸うように溜めを作ってから、大玉の溶解液を吐きだした。
アルトは余裕を持って避けるが、それに当たった古びた武器たちは、一瞬で煙を出しながら溶けて消えた。
「ははっ! こりゃー当たれば即死だな」
アルトはこのピンチにまたも笑った。
この溶解液は一撃でも喰らえば即死は免れない。
しかし彼は死という恐怖よりも、この強敵との戦いが楽しいという想いが勝り、自然と笑みを浮かべるのであった。
はたから見ればまさにそれは狂人の図。
そして、再びギガントサンドワームに接近する。
今度は、相手の弱点を探るために、稲妻纏え【フルグル】を使わずに、やや駆け足程度の速さで近づいていく。
もちろんこの速さには、ギガントサンドワームは容易についてくる。
アルトがテリトリーに入った瞬間、ギガントサンドワームは頭部で突進をかますが、それをアルトは横回転で華麗に躱す。
ギガントサンドワームは避けられるのは想定内であったのか、間髪入れずに今度は今までの数倍の機敏さで獰猛な口で噛みつきを行った。
「おっーと、あぶなーい」
今までと違い、巨体から繰り出したとは思えぬ程の攻撃にアルトは、横に身を投げ出しながら回避し、その勢いのままに前転することて体勢を立て直す。
危機一髪のものであっても、アルトの余裕な態度は変わらなかった。
ギガントサンドワームはアルトが体勢を立て直すタイミングで口を大きく開けて空気を吸いながら溜めを作る。溶解液を吐く為の前動作。
アルトは、この隙を逃さない。
「そんな大技、喰らうかよっ! なめてんのか、コラッ!!」
アルトは双剣を背中に納めてから、素早く腰付近にあるナイフホルダーから、両手に1本ずつ銀のナイフを取り出す。
「銀の刃に雷纏え【トニトゥルス・テールム】」
そして、雷の魔力を込め、大きく開けた口内に向かって投擲した。
アルトの両手から繰り出された2本のナイフは、一直線にギガントサンドワームの円口の口内に突き刺さった。
ギガントサンドワームは甲高い声を上げる。
溶解液を吐くことを止められ、内部に攻撃を受けたことで、今までの威圧のような咆哮とは違い、悲鳴のような声だった。
(外の鱗とは違って口の中までは硬くないみてぇだな)
「稲妻纏え【フルグル】」
そして、このチャンスを逃すものかと、背からアルトは双剣の片方だけ右手に持ち直し、稲妻を体に纏わせギガントサンドワームに肉薄する。
悲鳴をあげてはいるが、渾身の攻撃を止められ、ナイフの投擲による攻撃をうけたギガントサンドワームの体は硬直していた。
「紫電一閃【アクタ・ルークス】」
この大きな隙に、雷の魔力を右の剣に纏い、口内の上部を真っ直ぐに斬りつけた。
再びギガントサンドワームは悲痛な声を上げる。それは先程の投擲を喰らったときと比べものにならないほど甲高く、耳に響く悲鳴だった。
斬られた部位からは溶解液と同じような黄緑色の血が噴き出す。
アルトはその悲鳴から逃げるため、そして体に血が触れないようするためにと、すぐさま稲妻の如き速さで後退した。
どうやらアルトの血が触れないようにした直感は当たっていたようで、斬りつけ返り血を受けた剣は、ジュゥッと音をたてながら刃の部分が溶け始めていた。
(うるせぇーし、くせぇーし、やばい液体吐くし、こいつめっちゃいらつくなッ!! あーあ剣とけちまったじゃねーかよ! クソったれ!!)
アルトは子供のように不貞腐れた態度で、溶けた方の剣をギガントサンドワームに投げ捨てる。
その剣は、ギガントサンドワームの頭部にあたり、コツっという戦闘に似つかない可笑しな音を立てた。
大きなダメージを受けたことと、先程の投擲とは違い挑発するようなアルトの態度に激怒したギガントサンドワームは、今度は悲鳴とは違い、濃密なプレッシャーを放ちながら怒気を含んだ咆哮を上げる。
「何回叫べば気が済むんだよ、デカブツっ! 成長しねぇーなッ!!」
アルトはギガントサンドワームのプレッシャーを感じながらも再度、ナイフホルダーから銀のナイフを取り出し、一本ずつ両手に持つ。
そして先程の投擲とは違い、雷の大量の魔力を銀のナイフに込めた。
バチバチバッと強烈な高い音の光がナイフを覆う。
そして、それをおもいきり腕を鞭のようにしならせ、空気を裂くようにして投擲する。
「銀の刃に稲妻纏え【トニトゥルス・テールム】」
全身全霊の投擲は、咆哮を上げているため開いていた口内、剣で攻撃し深い傷を負った部位を、深深と抉りつけた。
「楽しめたよ」
ギガントサンドワームは、のたうち回る動きを止めて、大きな砂埃を上げながら、最後は弱々しい悲鳴を上げて地に倒れた。
戦闘が終わったアルトは、一仕事終えたようにして、煙草を取り出して口に咥えた。
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