第3話 元傭兵団長と砂漠の主①
【ラサール王国 ラサール砂漠】
ラサール王国の城下を出て約1時間歩き続けると、視界いっぱいに砂漠が広がる。
綺麗な橙色の砂と、雲一つない青空のコントラストは、息を呑むほどの絶景であった。
日はまだ高いため、日照りが強い。
こんな絶景があれど、ここはラサール王国内でも最も暑い場所。
こんな時間に好き好んで訪れるものはいなかった。
太陽の光を遮るものがないため熱されているように感じ、強く吹く風も熱風。
アルトは今からひとり、砂漠の街【クスラ】に向かって約半日程度歩き続けなければならないと思うと、憂鬱な気分になった。
砂漠地帯に入ろうとすると
「ようこそ、砂の天国ラサール砂漠へ!」
とアグネシア語で書かれた看板があった。
「何が天国だよっ!」
アルトはイラついたように、看板を強く指で弾いた。
ちなみにこの大陸はどの国も共通でアグネシア語が使われているため、大陸のどこの国でも言葉や文字が通用する。
これはアグネシア大帝国の名残りであった。
アルトは砂漠を歩き始めたところで、すぐにコブのついた巨体の動物を手綱で引いている人を見かけた。
「そこのおじさん、ちょっといいか?」
アルトはターバンを頭に巻き外套状の長衣を着て、謎の動物を連れている男に声をかけた。
「どうした? 乗っていくか??」
「その生き物は乗り物なのか?」
巨大なコブのついた動物は、歯にキャラメルでも挟まっているかのように、口をむにゃむにゃさせていた。
「ああ、そうだよ。こいつは、ラクダっていうんだ。この辺じゃこいつに乗って移動する」
「へぇー、そーなんだな。ちなみにクスラまでいくら?」
このラクダってやつに乗れればだいぶ楽できる気がする。
さすがにこの暑い暑い砂漠を歩くのはアルトでもしんどかった。
「金貨2枚だ」
「高いな、さすがに無理だわ」
金貨2枚あれば安い剣やちょっとした魔道具すら買えてしまう値段だ。
「おいおい、これでも安いほうだぜ。クスラまではこっから1日はかかるからな」
「は? 地図ではクスラはそんな遠くないぜ」
アルトは荷物袋から雑貨屋で買った大雑把な地図を出した。
砂漠街【クスラ】は、ラサール砂漠のちょうど真ん中くらいに位置する。
地図ではおよそここから半日程度で着く距離だ。
「ああ、それはな、今はギガントサンドワームがいるから、最短ルートではなく、迂回しないといけないんだ」
ラクダを連れた男は嘆かわしいという表情をしながら言った。
「ワーム? そいつは魔物かなんか?」
「ああ、そーだよ。ワームっていうのはミミズみたいな魔物で、噛みついたり、溶液を吐いたりする厄介な魔物。まあ、動きは遅いがな」
「へぇー、なんかキモそうだな。でも、ギガントってのは、普通じゃないって感じか?」
「ああ、普通じゃない。ラサール砂漠の主って言われるギガントサンドワームは、普通のサンドワームの10倍ぐらいのデカさ。今までも多くの奴らが挑んだが、みんな返り討ちにあって食われちまったよ」
「へぇー、そいつ懸賞金かなんかかかってる?」
「ああ、勿論だ」
この大陸では、普通の魔物と一線画す異質な魔物がおり、そいつらは、大抵が膨大な懸賞金がかけられている。
(金もあんましねぇーし、その亜種に挑んでみるのもおもしれーな。退屈な砂漠歩きを1日するより、強い魔物と戦って半日砂漠を歩くほうが楽しそうだ)
アルトは元傭兵であるため主に戦場で人間と戦ってきたが、魔物との戦闘も少なくなかった。
「ちなみにそのワームの懸賞金っていくらなんだ?」
アルトはお金のことと、砂漠の主と戦うことを妄想し、少しにやけながら尋ねた。
「おいおいっ、悪いことは言わねえから、あいつに挑むのはやめときな。そうやって喰われちまったやつを俺はたくさん見てきた。こうやって話したやつがあいつに喰われるのは俺も目覚めが悪い」
「あんたのそんな事情なんて知らねぇから、いくらか教えてくれ」
アルトは、男の話に微塵も怖じけずにそう尋ねる。
男は、はぁとため息をつきながら、泣く泣くの様子でアルトの問いに答えた。
「そうだな、確かギルドであった懸賞金では、金貨200枚とかだったはずだ」
「金貨200枚ッ!! いいねぇー!」
アルトはさらに笑みを強める。
「で、そいつはどこにいんだ?」
「このまま真っ直ぐ行ったとこに大きな窪みがある。やつはそこにいるよ」
「そうか。ありがとよ!」
アルトは話を聞いて、徒歩で進み始める。
ターバンの男は、そんなアルトの背中に声をかけた。
「あ、ちなみにそいつは縄張りの窪みから出ないから、やばかったら走って逃げろよ! 追ってこないから!」
「へぇー、そーなんだな。親切にどーも」
「忠告はしたからな。死ぬなよ!!!!」
アルトは男の忠告に、手を上げて男に礼を伝え、窪みに向って歩く。
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