第2話 元傭兵団長と酒場
【ラサール王国】
ラサール王国は、アグネシア大陸の最南端に位置する。
日中は暑く、夜は寒い、気温の差が激しい地域。
ラサール砂漠という広大な砂漠があることで有名だ。
そんなラサール王国の繁華街には、昼間から空いている酒場があった。
店自体はあまり綺麗とは言えないが、多くの荒くれものを中心に休む日も無く酒を浴びに、この店を訪れるため、年中この店からは喧騒が絶えない。
その店に、濃い緑のフードを被り、二刀の剣を背負った少年、アルトが店に入った。
「いらっしゃい、お客さん」
大柄で目に傷がある、明らかに堅気ではない風貌の店主が、扉を開けたアルトに気づき、声をかけた。
「おい、おっさん。聞きたいことがある」
アルトは、迷わずに店主の前の空いているカウンターに座り、席に着くや否やマスターに尋ねた。
「おいおい、お客さんここは酒場だぜ。まずは酒を頼むのが礼儀だろ」
「残念ながら、酒は飲めないんだよ」
アルトの言葉に、店主は眼光を鋭め、呆れながら口を開く。
「酒が飲めないなら帰りな、クソガキ。背伸びするには不向きな店だぜ、出直しな」
「チッ、わかったよ」
アルトは、店主の言葉に舌打ちして、不承不承な様子でそう答えた。
そして、横で呑んだくれている、スキンヘッドの男に声をかける。
「おい、ハゲ」
「あぁー、にゃんだぁぁあ?? だれがハゲだとぉぉ? 喧嘩売ってんのか? あぁん?」
男は、呂律が明らかに可笑しく、ヘベレケの状態であった。
「チッ。酒くせぇーな。はぁ、酒おごってやるよ、なにか頼みな」
アルトはそんな男の様子に辟易しながらそう言った。
「おぉー、まじぃかぁぁぁあ!! お前いいやつだなぁあ!! あ、チューしてやろーか、チューしてやろーか」
抱き着こうとしてきた大男に右手でアイアンクローをかます。
「酒クセーのが近づくな、気色悪い」
「いてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
アルトが頭から手を離すと、大男は額を押さえる。
「くそ馬鹿力だなにーちゃん。いててててぇ。
ここは酒場だぜえい。酒くせーのはしょうがないだろぉー」
「うっさい。酒はいらないのか」
「いる、いるいる! マスター、樽をくれ!」
「あいよ」
店主はぶっきらぼうにそう答えて、樽を運ぶ。
「このハゲ、ブチのめそうかな」
アルトが今度は額を抑え、店主から聞く情報がクソだったら、このハゲと店主をブチのめすことを決意する。
そして、気持ちを落ち着かせるように、衣嚢の中から、煙草とマッチを取り出した。
「酒は飲まないのに、煙草なんて高級品な嗜好品は嗜むんだな。ほらよ、灰皿」
店主は気を利かせたように、鉄皿を差し出した。
「あんがとよ」
アルトは煙草の煙を薄く吐いて、灰皿を受取り、煙草を2、3度叩いて灰を落とした。
「で、聞きたいことってなんだ? どんな情報が欲しい?」
店主は、スキンヘッドの大男が樽注文をしたこともあってか、気分良くアルトにそう尋ねた。
「英雄の遺物についての情報だ」
アルトは、ラサール砂漠に遺物があるという噂を聞いてこの国に来ていた。
「英雄の遺物か。お客さん、英雄志願者か?」
店主はどこか揶揄うようにそう言う。
英雄の遺物の話は、この大陸は有名な話。
誰もが一度は、英雄の遺物を見つけ出し、英雄になることを夢見ている。
だが、やはりそれは夢物語。
そんなに簡単に見つかるものではない。
今の時代、本気で英雄の遺物を探っているのは、歴史家か、お登りの冒険者もどきだげだった。
「ああ」
そんな中でも、アルトは恥ずかしげもなく、短くそう答える。
「はははっ、すまんすまん」
店主はそんなアルトの態度が逆に可笑しくて、初めて笑みを見せた。
「なんで謝る?」
「いや、なんでもない。英雄の遺物だったな。そうだな、一時期、砂漠の街【クスラ】の遺跡に英雄の遺物があるって噂が流れたな」
「砂漠に街なんかあんのかよ」
「オアシスがあるからな」
「オアシス?」
「砂漠にある湖だよ。緑なんかもあるからな生活はできるんだよ」
「へぇー、そんなんあるんだな」
アルトは、感心したようにそう呟いた。
「話を戻すぞ」
「ああ、すまんすまん。続けてくれ」
店主はグラスを拭きながら再度話を始める。
「砂漠の街【クスラ】は、昔からある何にもない小さな遺跡だが、実は英雄王がそこを訪れたっていう記録が残っているらしいんだ」
「へぇー、まじかそれ?」
「さぁな。あくまで噂だ」
店主は肩をすくめながら続ける。
「ああ、だから色んな国の、色んなやつらが、その遺跡を訪れていた。まあ、結局、誰も見つけることはできなかったがな」
「そうか」
怪しい話だ。街の遺跡という簡単に辿り着ける場所に、英雄の遺物があったとしたら、200年経ってもなお見つかっていないのはどう考えてもおかしい話だ。
(十中八九、ホラ話だな。ま、でも、他に当てはないし、とりあえず行ってみるか)
アルトは、煙草を灰皿に押し付けて火を消しから、立ち上がった。
「あんがとよ、いくらだ?」
「銀貨5枚だ」
店主は顔色変えずにそう答えた。
「チッ、高けーな。ここは高級レストランかよ」
アルトは舌打ちをし、愚痴りながら財布から銀貨5枚を、ドンっと強くカウンターに置いて、店を出る。
スキンヘッドの大男には「にーちゃん、あんがとよぉー」と手を振りながら見送られた。
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