第12話 錬金男と異世界美少*

「まあテキトーに座れ。……しかし、どういう風の吹き回しだ?」

 俺を店の奥に招き入れたゼンが煙草に火をつけながら言う。

「クロキにはたくさん迷惑かけてるからな。世話になってる礼のためにお金が必要でさ」

「へぇ。アイツの方が迷惑かけてそうだけどな。突っ走るしズレてるしお人好しがすぎる」

「そうか? たしかに変な奴ではあるけど意外と常識はあるぞ。あと居候してる俺にも優しい」

 ゼンの耳がぴく、と反応する。

「なにお前……居候してんの? 領主の息子たぶらかしてヒモ生活?」

 トーンの落ちた声。吐いた煙の中で睨みを利かせているのが感じ取れる。

「違う違う! 敵意を向けるな! 居候させてもらえてるのは完全にクロキのご厚意! 死にかけてたところをほんとにたまたま助けてもらったんだよ!」

 死にかけたというか死んでるけど。

 しつこく疑うことはなく、すっと表情が元の無関心そうな悪人面に戻る。

「ふーん。死にかけた、ねぇ。とんだ訳あり猫だな。家出でも追放でもなんでもいいが、クロキには迷惑かけんなよ?」

 俺は得意げに胸を張った。

「モチのロンよ。だから感謝の気持ちとして今回プレゼントを用意する運びになったんだ」

「プレゼントって? アイツの好みとかわかんの?」

「そこは心配ない。クロキのとこの使用人たちにも相談したぞ。……聞いて驚け、テンナンショウを贈るんだ!」

「へぇ……! テンナンショウか」

 少しだけ関心のありそうな返事をする。

 これは良いモノを選べたんだろうと確信した俺は鼻を精一杯に天狗にする。

「我ながらいいセレクトだろ? 我というか使用人のセレクトだけど」

「ああ。純愛だねぇ」

「ちげえよ! あくまで感謝の気持ちをだな……」

「わかったわかった」

 雑に諭して立ち上がる。

「じゃあ早速、働いてもらおうかね」

「おう! 煮るなり焼くなり好きにしやがれ!」


「じゃあまずこのレシピ通りの材料を俺のとこに持ってこい。ピッキング作業ってやつだ」

「ピッキング……鍵開けは得意だぜ!」

 実は田舎特有の立て付けの悪くなった引き戸の鍵を簡単に開け閉めできる特技があるのだ。

「やめろ前科持ち」

「ぜぜぜんかちゃうわ! こちとら生涯善人じゃい!」

 まるで前科持ちかのような振る舞いをしながらも俺はレシピの図の通りの材料を棚から探す。

「茶色のイガっとしたやつと緑のスモっとしたやつと……あっ」

 その中のひとつ、青い小瓶を落としてしまう。

「おい、なんの音だ?」

 小瓶が割れ、液体が煙となって霧散するのを見たゼンが少し声を荒らげた。

「猫、鼻塞げ! 息止めろ!」

 とっさに言われた通りにするが、少しだけ煙を吸ってしまう。

 男性向けの香水特有のサッパリとしたフレグランスが香る。

 小瓶に入っていた液体が少なかったからか、煙はすぐに消え香りも無くなった。

 消えゆく煙をぼーっと眺めていたら急に強い力で両肩を掴まれた。

「おい猫、大丈夫だったか?」

 顔が見えるようぐるりと向き直させたゼンの表情には珍しく心配の色が見えた。

「その顔からして……吸ってないよな? よかった」

 一方の俺はそんな顔をされる理由がわからない。

「いやあの……ちょっとだけ吸っちゃったけど……ヤバいやつこれ?」

「は?」

 やけに不思議そうな顔をされた。

「吸ったのにその反応か?」

「え、うん。ちょっと爽やかな香りがしたくらい、かな。ダンディな感じの」

「そんなことあるのか……?」

 ゼンは肩を手離し、落とした小瓶を再確認する。

「俺……なにか変?」

「……お前が落とした小瓶。これは対女性用の護身スプレーだ」

「対女性用? この香りが?」

「そこだよ。本来は女性にとってこの小瓶の匂いはかなりの悪臭に感じるはずだ。まるで夏場に大衆馬車でデブどもに囲まれた時のような強烈な悪臭だ」

 夏の満員電車でたまに出くわす臭いが想起される。

「それが大体24時間鼻に残るのがこのスプレーの効果だ」

「うへぇ……考えただけでも吐きそう。よく助かったな俺」

 胸を撫で下ろし、ふと気づく。

 悪臭ってのは一種の毒物と考えると……俺、毒物無効か状態異常無効の転生特典持ちなんじゃないか……?!

「ちなみに使用者が自爆しないように、刺激がない物質を使用している」

 には……?!

「……ッ!」

 ど、どっちだ……?!

 どっちの恩恵なんだ……?!

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異世界美少女に転生した俺がイケメンたちに迫られすぎて正直ツラい ちだはくさい @Chief08

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