第11話 美少女がお金を稼ぐ手段
――拝啓。お父さんお母さん、妹様。お元気ですか?
僕は異世界転生し、私になりました。
偶然領主の息子に拾われ、今はお屋敷に住まわせてもらってます。
まだ領主には会ったことはありませんが、使用人はみんな優しいし、オカは美味いし、控えめにいってヤバい良い暮らしをしてます。ほんとヤバい。
お父さんもヤバい時があるかもしれないけど、その時はこちらに会いに来てください。まじヤバいから。
その時はもしかしたら、お父さんじゃなくてママになってるかもしれませんね。ヤバ。
ではまた近いうちにお手紙を書きます。きっと。
愛しのショウより――
「お嬢様? 何を書かれているのですか」
部屋の掃除をしていた使用人のヨシノが俺の手元を見ながら言う。
「あーいや、手紙をね。家族に送るわけじゃないんだけどこれまでのあらすじ的な感じで」
初見さんに向けて、ね。
「手紙、ですか」
手紙を訝しげに睨んだ後、ヨシノが問う。
「……失礼ですが、何語でしょうか」
心にグサリと刺さる。
「俺そんなに字下手か……?! 丁寧に書いたつもりだったんだけど」
ヨシノは困った顔ながらも淡々と話す。
「いえ、決してそのようなことは。私の勉強不足で申し訳ございません、この辺りの言語では無いようでしたので」
皮肉を言っているようには見えない。
「あー、そっか。言葉通じるから気にしたこと無かったけど、言語が違うのか……」
言葉が通じるのが謎なのだがこれはきっと転生時になんか通訳システム的なのを搭載されたんだろう。異世界転生あるある。
改めて本棚を見ると、本の背表紙はどれも知らない言葉で綴られていた。
言葉の通訳は自動でも、文書は自動翻訳してはくれないらしい。
「読み書きできないと不便だよなぁ……」
オデアカリの識字率はわからないが御屋敷に住まわせてもらっている以上、文字くらいはできるようになっておきたい。御屋敷で俺だけ文字が読めないとか肩身が狭い。
クロキにでも教えてもらおうかなぁ。なんか教えるの上手そうだし。
「そういえばクロキは?」
「クロキ様は領主のお仕事で本日は外出されています。恐らく夕方までは帰らないかと」
「領主の仕事? お父さんが領主じゃないのか?」
「旦那様はここしばらくお身体の調子がよろしくないので、現在はクロキ様が旦那様の分までお仕事をされているんです」
「へぇ……大変だなぁクロキも」
そんな忙しい中、俺に街の案内とかしてくれてたのか。なんだか申し訳ない。
「そうだ、クロキに感謝の気持ちを伝えたいんだけどオデアカリではどんなものをプレゼントするんだ?」
「それでしたらよく渡されるのは……」
天井の板が突然外れ、黒い人影が顔を出す。
「お嬢様ァ!!」
「ぴぇっ!!」
屋根裏から逆さまに顔を出してきたのは使用人の1人、ツバキ。
「心臓に悪いからやめろォ!!!」
「失礼いたしました、お嬢様の可愛い声が聞きたくてつい☆」
「ついで寿命縮められてたまるか!」
指の間から漏れだしそうに跳ねる心臓を必死に押さえつけながら俺は涙目で訴える。
「ツバキ。お嬢様は親しく接してくださいますがお客様です。最低限の礼節をもって……」
「はあい」と軽く返事し、軽やかに着地する。艶のある黒髪が揺れ、椿のかんざしがきらめいた。
「とにかく、プレゼントなら断然アザレアです! これ一択、間違いなしです!」
人差し指を立て、ふんすと鼻を鳴らすツバキ。
「そうなのか?」
目線でヨシノに尋ねる。ヨシノは悩むような表情で呟く。
「ええまあ、男女間での贈り物という面ではたしかに王道なものですがクロキ様とお嬢様の間柄でアザレアをお贈りするのは少し意味合いが「ほらほらヨシノもこう言ってますし! ぜひクロキ様にプレゼントしましょう!」
ヨシノの言葉を断ち切るようにプッシュするツバキの熱量は不思議ではあるが、文化の違いを知らず下手なものを贈ってしまったら悪い。
餅は餅屋ってやつだ。
「そうだな……。そうしてみる。ありがとうな2人とも」
そうすればあとはプレゼントを買うお金を稼ぐ方法だが……。
「街に日雇いのバイトとかってある?」
「あるにはありますが、日雇いとなると土木系の重労働ばかりですね」
「肉体労働ねぇ……」
真っ白な腕の袖をまくり、力こぶを作ってみせる。
「ふぬっ。ふぬぬぬ……」
血管がはち切れそうになったあたりで初めて、ごくごく小さなこぶが必死に存在をアピールし始めた。しかしそれすらもぷるぷると震えている。
「わあ可愛い。ぷくっとしてておもちみたいですね!」
「餅屋だけに……って無理ぃ……」
息切れするレベルで疲れた俺はベッドに倒れ込む。
もっと自分に向いてるやつはないのか?
この可憐な身体でこそできること……。
「はっ! パパ活……?」
この顔面偏差値なら余裕で需要はあるだろうし、1時間でウン万は堅い。お話してるだけでお金がもらえるならそれはそれで……。
「いやきついだろォ……!」
実質おっさんと元男。そんな絵面のデートはむごすぎる……!!!
なによりおっさんに迫られて俺のメンタルが持ちそうにない! 確実に吐くか殴る!
「ぬおおおおお……!」
迫り来るイメージ映像のおっさんをかき消すためにぐりぐりと頭を振り回していたが、「お嬢様……?」とヨシノの心配した声で我に返る。
落ち着け、もっとマシな仕事があるはず。
重労働じゃなくて、安全そうな仕事……。
「あっ」と閃く。
ツテ、あるじゃん。
買い出しに行く予定だったヨシノとツバキを連れて街へ降り、俺はツテのある場所を訪れた。
ベルの付いたドアを勢いよく開けて「たのもー!」と呼びかける。
少しの間を置いて、性格の悪そうな声が返ってくる。
「なんだぁうるせーなぁ……」
グツグツと煮える音が響く店内。
アロマのような煙をかきわけて現れた銀髪。
「今日日道場破りでも言わねえぞ……お?」
店主と目が合って俺は陽気に手を挙げた。店主に負けないくらいの性格の悪そうな笑みを作る。
「ぃようゼン! 看板娘必至の美少女が働きに来てやったぜ」
店主もそれに返すようににやりと笑う。
「へぇ、クソブラックバイトへようこそ。歓迎するぜ野良猫」
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