想定と想定外

(前回からの続き)


 さて、私は三陸に住むことが決まった時から、地震・津波で避難することはある程度想定していた。津波の時には車を使うなとはよく言われるけれど、車を使って逃げることも想定内。高台までほとんど建造物が無い(要するに人が居ない)ため渋滞の心配はほとんど無いこと、万が一道路が寸断された場合15㎞近く移動しないと隣町の主要部まで行けないこと(=物資が手に入らない)、そして何より冬場は寒さや雨風を凌げない限り生き残れないであろう、という理由から、行けるところまでは自動車で避難するのが最善だと考えていた(今もそれは変わらない)。道が寸断されているなど、どうしようもない場合はクルマを置いていくしかないだろうけれど、出来る限りはクルマに頼るつもりでいた。


 地震があったのは3月、記憶は定かではないけれど、東北はまだまだ寒い時期でこの日も夜中は5℃あるかどうか、という気温だったと記憶している。


 こんな時のために、とジャンパーと寝袋をクルマに積みっぱなしにしていたのが功を奏し、結露するくらいの寒さでも凍えることは無かった。部屋から、非常時用に、と置いていたキャンプ用の電池式ランタンを持ち出していたから、暗闇の中でも明かりに不自由することもなかった。


 と、ここまでは想定して用意していたことがハマってくれたから、避難する上での心配ごとはかなり減った。


 ところが、である。


 ある程度まで逃げたところで、いくつかの忘れ物に気づいた。


 水とトイレ、それにスマホの充電器が無い。


 引っ越したばかりで、生活用品さえも揃っていない状態だったので、まだ防災バッグは用意していなかった。せっかく用意した水は、部屋を出る時にあっさり忘れてきてしまった。一応必要なところに連絡はついたものの、スマホのバッテリーが切れてしまえばどことも連絡が取れなくなる。


 クルマのナビについているテレビ機能のおかげで情報は得られるけれど、ガソリンをいつ入れることが出来るか分からない(結果的には特に供給は止まらなかった)中では、ずっとエンジンを掛けておく訳にもいかない。結果的にスマホの電池が無くなる前に部屋に戻れたから良かったものの、津波警報解除までもっと時間どうする掛かっていたらおそらくスマホは使えなくなっていただろう。


 トイレは本当に緊急事態になったらもう諦めるとしても、水ばかりはどうしようもない。寒い時期で夏場よりはマシだったけれども、もし長期化していたらかなりのピンチだっていたはずだ。


 さて、夜中は思っていたよりも快適に休むことができた。とはいえ、振動の度にビクッとするし、風なのか地震なのか分からないからがっちり寝れた訳ではないけれど。風を凌げるのはとにかくありがたかったし、足を伸ばしてとはいかないにせよ横になれるのは大きかった。遠方の知り合いが情報収集をしてくれたおかげで、何かあれば連絡してもらえるという安心感があったことも、しっかり休めた要因だった(本当にありがとうございました!)。


 津波警報解除後、日の出を待って、私は自分の部屋へと戻った。1軒だけこんな時でも開けてくれたコンビニがあったから、何とかトイレを済ませ、飲食物も入手できた(物流が止まったので、少し品薄状態になった。ここで買えなかったら、夜までまともに食べれなかったはず)。すぐに復旧したとはいえ断水していたから、とりあえず部屋に忘れてきた水と風呂に溜めていた水で洗い物を済ませた。まだ引っ越す前、ちょうど1年ほど前にあった地震(このときも確か震度6クラス)の教訓から、基本的に風呂には水を張りっぱなしにしていたのが功を奏し、飲み水以外に使う水には困らなかった。


 とまあ、これが私の避難の備忘録になります。この後、クルマで行き来できる距離にある実家を頼って、余震が落ち着くまで避難しました。速度規制はあったものの、高速道路を通れるように対応して下さったNEXCOさんに感謝でした。まさか、高速を使って帰れるとは思っておらず、下道で数時間の運転を覚悟していましたので嬉しかったです。また、トヨタ自動車の「通れた道マップ」はこの時、本当に助かりました(たまに抜け道として使っていた道路が通行止めになっているのが分かったほか、どの道なら間違いなく通れるのか分かった)。


 最後に、今回の地震で私が得た教訓と対策を、簡単にまとめると


 ・避難の際、状況次第では自動車を使った方が良いこともある(これは時と場合による。自動車ごと逃げることができれば、その先から移動することが可能。ガス欠しても、雨風を凌げるシェルターになってくれる。また、避難所などにおいては、貴重なパーソナルスペースにもなるそうです。渋滞の可能性、道が寸断されている可能性も考慮する必要があります。自動車での避難が最善ではないこともあります。あくまでも、一つの選択肢としておいてください)。

 ・自動車から電源を取れることは大事(最近のクルマには結構コンセントがついているほか、シガーソケットから電源を撮ることも可能)。これを機に、私はタイプCの充電器をクルマに常備するようにしました。

 ・とにかく水の確保を。飲用、雑用問わず貴重です。私はとりあえず、部屋だけでなくクルマにもペットボトルの水を常備することにしました。

 ・特に雪国では、防寒具を積んでおくこと。

 ・最悪、生きていれば何とかなる。逃げること、逃げた先で生き残ることを最優先で考えましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

役立て、俺の地震の記憶 RURI @RURI-chrysipteracyanea

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ