高台避難、車中泊

(前回からの続き)


階段を駆け下りている最中に、町の防災無線が大きなサイレンで津波警戒を知らせているのが聞こえてきた。


——やっぱり……!


停めてあるクルマに文字通り荷物を投げ入れ、飛び乗って、シートベルトを締めると同時にエンジンのプッシュスタートボタンを押し、ギアをドライブに入れてあらかじめ「この道を通って逃げよう」と決めていたルートを一目散に駆け上がる。


カーラジオを点けると、ラジオの向こうから地震と津波の情報をしきりに発信してくれていた。


——ここまで来れば……、いや、もっと高いところに行った方が……?


その時だった。


『地震です! 地震です!』

『♪ 緊急地震速報です。強い揺れに警戒して下さい。緊急地震速報です。強い揺れに警戒して下さい』


スマホとカーラジオが、ほぼ同時に緊急地震速報を受信した。


——マジかよ、まだ来るの……?


3度目の、緊急地震速報。正直心が折れて、もう駄目かもしれないという絶望感に襲われる。


――とりあえず、ここはヤバいな。坂を登りきったとこで……!


ちょうど坂道、それも崖とまではいかないけれど、舗装されていない斜面の下くらいに居たので落石の危険があると判断して、少し開けたところまで走ってからサイドブレーキを引き、ハザードを炊いてクルマを止める。


――……


――……。


――……あれ?


揺れが来ない。1分弱待ったと思うが、これだけ待って揺れないのであれば大丈夫だろうと、もう少し開けたところまで車を移動させて再び停車。ここでようやく親と連絡がとれて、互いの無事を確認すると共に、自分がここからどう動くつもりなのかを伝えておいた。


――さて、と。ここまで来れば大丈夫だろうけど、でも……


既に小さな集落があるところまで来ていたけれど、さらに高い場所へ向かうことを決意。というのもこの町は小さいから、もし被害が大きかった場合、復旧は後回しになるだろうと考えたのだ。着の身着のまま逃げたに等しい状況だったから、せめて少しでも大きな街へ繋がる道路の近くへ、と車を再び走らせた。


道中は峠道。何があるか分からないから、いつもよりゆっくりと走った。


――うわわわわ……!


道中、数ヵ所崖崩れがあった。大半は片側の車線を塞いでいる程度だったけれど、中には両車線にまたがる落石もあって、一旦車を降りて石を退かしてから通った場所もあった。


不安はあったけれど、心細くはなかった。幸運にも電話もインターネットも生きていたから必要なところとは連絡がついていたし、こんな時のために車のガソリンは最低でも半分はタンクに入っている状態にしていたから、しばらくはガス欠の心配もしなくて良かった。


さて、暗い中であまり動かない方が良いというアドバイスを受けて、道中にある展望台のようなところで車中泊することにした。ここなら津波の心配も無く、崖からもかなり距離をとれる。


同じ考えだった人がもう1人居たらしく、既に別の車が停まっていた。1人じゃないという安心感と共に、車中泊の用意を開始した。

(次回に続く)

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